「その女優を使うなら今後おたくの局から全ジャニーズ関連のタレントを引き揚げる」

脚本家の倉本聰が、ジャニーズの圧力について書いたコラムの一節です。

2023年9月に配信されたこの文章が、2026年9月28日の夜から、ネットであらためて広まっています。

 

反応には「これも有名な話だよねー」という声もあれば、「今でもやってそうだけどね!」という声も並びました。

業界の大御所が書いたことなので、本当にあった話なのだろうと思えてきますよね。

ただ、引っかかるのはその先。

あんな話が、なぜ通ってしまったのか。

そして、いまはどうなっているのでしょうか。

今回は、倉本聰が書いた一場面を手がかりに、芸能界でいまも「干される」ことがあるのかを、その仕組みとあわせて調べてみました。


倉本聰が書いた「申し訳なさそうに」

倉本聰といえば、『北の国から』を書いた脚本家です。

その倉本聰が、経済誌『財界』のサイトで配信されている連載「富良野風話」に、「ジャニーズ事件」という題で書いたのがこのコラムでした。

ジャニーズ事務所の創業者・ジャニー喜多川による性加害の問題が大きく報じられていた、2023年9月のこと。

 

「何年前だったか」と書き出されたその話では、売り出し中の女優を番組に起用しようとしたところ、テレビ局から待ったがかかったそうです。

理由は、その女優がジャニーズのタレントと「一寸トラブッたことがあった」らしいから、というもの。

倉本聰は、そのときのことを「申し訳なさそうに局から言われた」と書き、「その横暴さに啞然としたことがある」と続けています。

女優の名前は、コラムのどこにも書かれていません。

当時のネットでは名前を当てようとする投稿も出ましたが、どれも当て推量です。

 

それでも、この話はかなりの驚きで受け止められました。

脚本を書いてきた本人が、自分の体験として書いた話です。

倉本聰自身が「いくつかの大手プロダクションには逆らえないという都市伝説的奇怪な掟」と呼んだ芸能界の噂に、ようやく当事者の言葉がつきました。

それにしても、すまなそうにされるくらいなら断らないでほしい、と言いたくなる場面です。

このコラムでいちばん重いのは、申し訳なさそうにしていたのが局だったという点だと思います。


引き揚げが脅しとして通る理由

「全員引き揚げる」と言われて、局がそこまで困るのはなぜでしょうか。

当時のテレビでは、ドラマの主演も、音楽番組も、バラエティの司会も、ジャニーズ事務所のタレントが大きな役割を担っていました。

ネットには「一時期旧ジャニしか男性アイドルがテレビに出てなかったもんね。」という声もあるほどです。

しかも、起用されていたのは忖度のためだけではない、という見方も根強くあります。

歌えて、踊れて、固定のファンがいて、本番に強いというのは、ファンでなくても認めるところですよね。

 

実力のある人がそろっているからこそ、「引き揚げる」の一言は重くなり、番組を1本失う話では済まず、看板になる人をまとめて失う話になってしまいます。

局はそれを天秤にかけて、売り出し中の女優を1人断るほうを選んだのでしょう。

そうして、倉本聰に最後に「使えない」と告げたのは、事務所ではなくテレビ局でした。

 

もちろん脅した側の横暴さは言うまでもありませんが、話を事務所だけにしてしまうと、断った側の判断がすっぽり抜け落ちてしまう。

倉本聰自身も、同じコラムの後半で、テレビやマスコミの側に目を向けていました。

「ジャニーズの力を恐れているのは、関連マスコミの現場であるのか。それともマスコミのトップであるのか。そこのところが非常に知りたい。」

怒りの矛先を事務所だけで止めずに、それを受け入れてきたテレビの側へ向けた問い。


2019年の「注意」は何だったのか

コラムより前の2019年に、国はすでに、事務所とテレビ局の関係に目を向けていました。

2019年7月17日、公正取引委員会がジャニーズ事務所に「注意」をしていたと、NHKが報じています。

公正取引委員会(公取委)というのは、会社どうしの競争が公正に行われているかを見張っている国の機関です。

報道によると、事務所から独立した元SMAPの稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾の3人を出演させないよう、民放テレビ局などに働きかけていた疑いがあったとのこと。

独占禁止法の違反につながるおそれがある、という理由でした。

3人が独立する前後には、フジテレビ、テレビ朝日、TBSで出演していた番組も終わっていて、ファンは圧力があるのではないかと3年にわたって訴え続けていた、とも報じられています。

 

独占禁止法は、強い立場の会社が取引の相手に無理を通したり、ライバルの仕事を邪魔したりすることを禁じる法律です。

芸能事務所とテレビ局のやりとりも、この法律の対象に入ります。

創業者のジャニー喜多川が亡くなってまもない時期の報道で、大きな節目として受け止めた人もいました。

ただ、「注意」という言葉の重さは押さえておきたいところです。

公取委の対応には段階があり、「注意」は、違反につながるおそれのある行為を見つけたときに、未然に防ぐために出すもの。

「警告」や「行政処分」よりも軽い段階で、違反があったと認めたわけではありません。

事務所も当時、「弊社がテレビ局に圧力などをかけた事実はなく、公正取引委員会からも独占禁止法違反行為があったとして行政処分や警告を受けたものでもありません」とコメントしています。

それでも、事務所を辞めた人がテレビから消えていくという事態そのものに、国が目を向けた意味は小さくなかったはずです。


テレビ局にも注文をつけた2025年の指針

そして2025年9月30日、内閣官房と公正取引委員会が連名で、芸能界の取引についての指針を公表しました。

正式な名前は「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」。

長い名前ですが、実演家は俳優や歌手、タレントのこと、放送事業者等はテレビ局や番組の制作会社のことです。

中身は、独占禁止法などに照らして「具体的な考え方」を示したもの、という位置づけになります。

 

土台になったのは、2024年12月に公取委がまとめた実態調査。

その調査では、事務所を辞めた人たちから、こんなことをされたという回答が寄せられていました。

  • テレビ局などに「円満退所でなかった」などの悪評を伝えて、出演させないよう働きかける
  • ほかの事務所やイベントの主催者などに、一緒に仕事をしないよう働きかける
  • 辞めた人の情報をサイトに載せたままにして、まだ在籍していると思わせる

指針は、これらを「許容されるものではない」とはっきり書いているんです。

ほかにも、辞めた人に芸名を使わせないことや、移籍に高いお金を求めることなど、辞めるときにありがちなトラブルが一つずつ取り上げられています。

この投稿の書き手はアイドルの法務を担当しているそうで、いちばん多い相談は、事務所を辞めるときのものなんだそう。

その中には、「共演NGにする」といった妨害も入っているとのこと。

 

そして、この指針で目を引くのが、テレビ局の側にも「採るべき行動」が書かれていることです。

「当該実演家が以前所属していた芸能事務所に忖度して当該実演家の起用を控えるようなことはせず、自主的な判断により実演家の起用等を行うこと」

さらに、国が局に聞き取りをした結果も書かれています。

トラブルがあると聞けば起用しづらい、という回答があり、「芸能事務所からの働き掛けがない場合でも」起用されなくなる場合があった、とのこと。

事務所が何も言わなくても、局が先回りして引いてしまう。

 

ちなみに、この指針に「圧力」という言葉は一度も出てきません。

代わりに4回出てくるのが「忖度」でした。

ただし、指針が例として書いているのは、事務所を移籍・独立した人のケースです。

倉本聰の話に出てくる女優は、辞めた人ではないので、そのケースがそのまま書かれているわけではありません。

とはいえ、倉本聰の話でも最後に断ったのは局だったので、誰を使うかは局が自分で決めることだと国の文書にはっきり書かれたのは大きいと思います。


テレビ局が選ばれる側に回り始めた

では、いまも「干される」ことは起きているのでしょうか。

2026年のいま、一件ずつ外から確かめることは、正直なところできません。

ただ、指針の土台になった2024年12月の実態調査にも、出演させないよう働きかけられたという回答が寄せられています。

2024年になっても、そういう声はまだ国に届いていたんです。

「今でもやってそう」という声が出るのも、無理はないでしょう。

 

それと同時に、力関係の景色は、ここ数年で少しずつ変わってきています。

2023年の秋には、東京のテレビ局が相次いで、旧ジャニーズ事務所との関係を振り返る検証番組を放送しました。

テレビ朝日の篠塚浩社長は、2023年11月12日の検証番組で「私たちは公共的なメディアであることをうたい、世のため、人のためを信条にしてまいりましたが、今回の事案ではそこにゆがみが生じていたように思います」と話しています。

 

その変化がよく見える出来事が、つい先日ひとつ。

2026年9月23日、Netflixが、旧ジャニーズ事務所のタレントが所属するSTARTO ENTERTAINMENTの年越しライブ『COUNTDOWN CONCERT 2026-2027 STARTO to WORLD』を、12月31日に世界同時で生配信すると発表しました。

このライブは、長年フジテレビが年末に放送してきた恒例番組です。

フジテレビの清水賢治社長は9月25日の会見で、「私個人としてはちょっと残念ではあります」と話しています。

この発言には、「どの口が」といった冷ややかな反応も集まりました。

かつて「引き揚げる」と言われて従っていたテレビ局が、いまは選ばれなかったことを残念がる側に回っているんですよね。

 

ここまでの話は、ほかの芸能人のうわさを見るときにも役に立つはず。

芸能人が「干された」と噂になったときは、誰が「使わない」と決めたのかまで一緒に見てみると、話がかなり違って見えてきます。

  • その人は、事務所を辞めたあとなのか
  • 止めたと言われているのは、事務所なのか、局なのか
  • 辞めた人を使わないよう、局に働きかけた話になっていないか

次に「あの人、最近テレビで見ないな」と思ったときは、誰が断ったのかにも、少しだけ目を向けてみたいですね。