2026年10月2日の夕方、入場規制で大混雑になったJR京都駅の階段。

見下ろした先まで人で埋まり、階段の途中には英語で「Admission restricted」と書かれた黄色いテープが張られていました。

入場規制というのは、この先へ入る人を止めることです。

 

この様子を写した動画がネットで広がり、「京都駅で何があったの」「どういう状況?」という声が並んでいます。

きっかけは、この日JR西日本で起きた2件の人身事故でした。

ただ、事故から何時間もたった夕方になっても、駅はまだ元に戻っていません。

しかも、止まった路線の代わりにほかの会社の電車で帰れる振替輸送は、ICOCAのチャージ残額で改札に入った人には使えない決まりなんです。

今回は、京都駅で何が起きていたのかと、ICOCAで入った人が振替輸送に乗れない理由を、わかりやすく解説していきたいと思います。


京都駅の人だかりは2件の事故の重なり

最初の事故は、朝の通勤時間帯でした。

JR西日本によると、10月2日午前7時18分ごろ、大阪府茨木市のJR茨木駅で、通過する下りの貨物列車が、ホームから線路内に立ち入った人と接触したとのこと。

運転士は非常ブレーキをかけたものの、間に合わなかったそうです。

この影響で、滋賀県の米原駅から兵庫県の上郡駅までの広い範囲で、電車が順々に止まっていきました。

JR京都線・琵琶湖線・JR神戸線だけでなく、JR宝塚線やJR東西線、学研都市線まで止まったと報じられています。

運転が再開したのは午前8時35分。

京都新聞によると、運休は63本、遅れが出た電車は117本にのぼり、約11万5千人に影響が出たといいます。

 

2件目は、その数時間後のことでした。

12時30分ごろ、滋賀県大津市のJR瀬田駅で、駅を通過しようとしていた姫路行きの新快速と、ホームから線路に立ち入ろうとした44歳の男性が接触。

男性は亡くなったと報じられています。

さらに、ホームにいた19歳の男性も、破片が当たって顔を切るけがをしました。

ガラスのようなものなどの破片が飛んできたとみられ、けがは軽いとのことです。

新快速に乗っていた約600人の乗客には、けがはなかったといいます。

この事故で琵琶湖線の京都駅と米原駅のあいだが止まり、動き出したのは午後2時15分でした。

 

瀬田駅を通過しようとしていたのが、姫路行きの新快速だったことにも目が止まります。

滋賀から京都、大阪を通って兵庫まで、ひとつの電車が長い距離をまたいで走っているんです。

だから滋賀の駅で止まれば兵庫の駅まで、大阪の駅で止まれば滋賀の駅まで、影響が届いてしまいます。

朝と昼に1回ずつ、場所も路線も違う事故が、1日のうちに重なっていました。

同じ日に二度止まった、という受け止めは、ネットにもあふれています。

そして京都駅は、大阪へ向かうJR京都線と、滋賀へ向かう琵琶湖線が、ちょうどつながる場所。

朝の事故と昼の事故、そのどちらの影響も届く駅だったんですよね。


運転再開しても駅が戻らないわけ

午後2時15分に動き出したのなら、夕方には落ち着いているはず。

そう考えるのが、ふつうの感覚だと思います。

ところが、あの階段の動画が投稿されたのは、運転再開のあとの午後5時17分。

JR西日本は夜に入っても、2つの事故の影響で遅れや運転取り止めが出ていると知らせ続けていました。

19時を過ぎても、「遅れ」と「運転取り止め」の2つの言葉はまだ残っています。

 

運転再開は、ダイヤが元に戻ったという意味ではありません。

乱れたダイヤを戻す作業を、鉄道の世界では「運転整理」と呼ぶそうです。

私鉄各社でつくる日本民営鉄道協会の説明では、運行管理センターの指令員が、列車の種別や行き先、ほかの列車との接続、運転の間隔などから、電車を走らせる順番を組み替えていくとのこと。

そのうえで、「指令員は短い時間内で膨大な課題を解決しなければならないため、運転整理はたいへん難しい業務」と書いています。

1本の電車が止まると、その遅れはつながっているほかの電車へと移っていく。

止まっていた時間が長いほど、ずれた電車の数も、組み替える順番の数も増えていく形です。

 

そのあいだも、駅には次の電車を待つ人がやってきます。

ホームが人であふれると、それだけで落ちたり押されたりする危なさが出てきますよね。

だから改札や階段の手前で、ホームへ入る人を止める。

あの黄色いテープも、これ以上先へ人を入れないための線でした。


2019年から変わっていた振替輸送

電車が止まったら、ほかの会社の電車で帰ればいい。

振替輸送のことを、そんなふうに覚えている人も多いのではないでしょうか。

ところが関西では、2019年から振替輸送の使い方が変わっています。

 

2019年1月18日、JR西日本や阪急、阪神、京阪、近鉄、Osaka Metro、京都市交通局など、関西の鉄道18社局がそろって発表しました。

2019年3月16日からの振替輸送で、変わったのは次の3つです。

  • 乗り換え駅は、乗車券の区間内なら自分で選べる
  • 振替乗車票は配らず、乗車券を見せれば乗れる
  • 改札に入ったあとのICカード乗車券は、振替輸送の対象外

前の2つは、乗る人の手間を減らすための変更。

それまでは、振替輸送を使う駅の改札で「振替乗車票」という紙を受け取ってから、ほかの会社の電車に乗る形でした。

 

問題は3つ目で、ICOCAのチャージ残額で改札に入った人は、振替輸送に乗れません。

一方で、ICOCA定期券のようなIC定期券は、これまでどおり振替輸送の対象とされています。

同じICOCAのカードでも、定期券として使っているかどうかで扱いが分かれてしまうんです。

 

理由も、発表の中にはっきり書いてありました。

以前、ICカードで入っていた人は、止まった駅で「ICカード乗車券使用証明書」を受け取り、その日かあとで、本来乗るはずだった区間の運賃を精算していたそうです。

ICカードは、カードの見た目では改札に入ったあとかどうかが確かめられず、この手続きがとても手間だったと説明されています。

ICカードを使う人はこれからも増えるので、対象から外したほうが案内がスムーズになる、という説明です。

首都圏などでは、もともとICカード乗車券は振替輸送の対象外だったとも書かれています。

発表の当日から、ネットにはこうした驚きの声が出ていました。

ICカードを勧められて持ち替えたのに、止まった日にはそれが使えない。

その引っかかりは、いまも変わっていないように見えます。

 

では、ICOCAで入った人がほかの会社の電車に乗ると、どうなるのか。

発表によると、止まった会社で実際に乗った区間の運賃と、そのあと乗った会社で実際に乗った区間の運賃を、それぞれ払う形になると書かれていました。

つまりICOCAの人にとって、振替の電車は、ふつうに運賃を払って乗る別の会社の電車になります。

それなら動き出すまで待とう、と考える人が出てくるのも自然なこと。


振替先まであふれた日の帰り方

この日は朝の事故のあとも昼の事故のあとも、JR西日本は振替輸送を実施していました。

では、きっぷや定期券を持っている人なら、すんなり帰れるのでしょうか。

朝の茨木駅の事故のあとには、振替輸送を使おうとした人のこんな投稿もありました。

茨木駅の事故で止まり、引き返そうとした電車がさらに動物と接触し、やっとたどり着いた振替先では電車が来ても人があふれて乗れなかったというのです。

家を出てから2時間半たっても、まだ大阪方面へ進めていないと書かれていました。

止まった路線の人が一斉に同じ私鉄へ向かえば、そちらが満員になるのも当然の流れ。

振替輸送が使えても、すぐに帰れるとはかぎりません。

 

そのうえで、駅で足止めされたときに分かれ道になるのは、手元のカードの種類です。

  • きっぷ・定期券(IC定期券も含む)なら、改札で見せればほかの会社の電車に乗れる
  • ICOCAのチャージ残額なら、ほかの会社の電車は自分で運賃を払って乗る
  • どちらでも、振替先が満員なら、待つほうが早いこともある

では、ICOCAで改札を通ったあとに電車が止まってしまったら、どうなるのでしょうか。

JR西日本がICOCAの使い方を定めた「ICカード乗車券取扱約款」の第27条は、その場合、入った駅まで無料で戻してもらう取り扱いを選べると定めています。

この取り扱いなら、乗った区間の運賃は引かれずに、入った駅で出られるとのこと。

自分で選んで申し出る形なので、改札の駅員さんに伝えるところから始まります。

 

止まった日は、改札を通る前に、まず運行情報を開いておきたいところです。

JR西日本の運行情報のページには「列車走行位置」という画面もあり、いまどのあたりを電車が走っているのかを見ることができます。

動き出したかどうかだけでなく、近くまで電車が来ているかが分かれば、待つか動くかを決めやすくなるはずです。

会社や学校に遅れを伝えるときは、JR西日本がホームページで出している遅延証明書も使えます。

次に駅で足止めされたときは、まず手元のカードがICOCAなのか定期券なのかを確かめてみてくださいね。

 

階段の上で動けずにいた人たちは、それぞれ違うカードを持って、違う判断を迫られていました。

そして止まった線路の向こうでは、亡くなった方がいて、破片でけがをした19歳の男性がいます。

そう思うと、あの階段の映像が、ただの混雑には見えなくなってしまいました。

亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。