流出動画で退学の投稿|アカウントの所在地は日本ではなかった

流出した動画のせいで退学になった、という謝罪のポストが、Xで346万回を超えて表示されています。
リプ欄には、頑張れという言葉と、自業自得という言葉が、隣り合わせで並んでいました。
読んで胸が痛くなった人も、少し引っかかった人も、どちらもいるはず。
ただ、そのアカウントのプロフィールをひらいて、登録日の行を一度タップすると、「アカウントの所在地」という欄が出てきます。
そこに書かれていたのは、日本ではありませんでした。
今回は、あの投稿の周りで何が起きているのかと、SNSで流れてきた「拡散しないで」をどう受け止めればいいのかについて、わかりやすく解説していきたいと思います。
346万回見られた「これ以上拡散しないで」
そのポストが出たのは、2026年9月12日の夜でした。
書かれていたのは、流出した動画の件で退学になったこと。
そして、部活の仲間や両親を裏切る形になってしまったというお詫び。
これ以上は動画を広めないでほしい、まだ人生を終わらせないでほしい、という言葉で閉じられていました。
短い文章です。
それでも翌日の夕方までに、表示回数は346万回を超えました。
いっぽうで、確かめようのない部分が大きく残っています。
この件について報じた新聞やテレビの記事は、いまのところ見当たりません。
学校の名前も、処分が実際にあったのかどうかも、外からは確かめられない状態のまま。
分かっているのは、そういうポストが置かれていて、たくさんの人が見た、というところまでです。
リプ欄は、きれいに割れていました。
「まだまだこれからやり直せる。これも1つ人生の勉強をしたと思いなさい。」と書いた人がいて、その同じ人が「絶対こんな事で死んだりすんなよ!」と続けています。
一方で「自業自得ですよね。」の一行だけを置いた人もいました。
矛先を学校側へ向けた声もあって、「これは顧問の責任でしょう。」「教師こそ退学処分だろよ」といった形で並んでいます。
そのなかに、少し毛色の違うリプが混ざっていました。
「本当に拡散やめて欲しいのだったらもう投稿しない方が良いと思います…」
「この投稿で初めてあなた様を知りました。」
言い方はそっけないのですが、あとで効いてくるのはこの二行のほう。
登録日の行をタップして出てきた4行
Xには「このアカウントについて」という画面があります。
2025年11月に、世界中で一斉に出てきた機能です。
相手のプロフィールをひらいて、「◯◯◯◯年◯月からXを利用しています」と書かれた行をタップするだけ。
指を動かすのは3回です。
そこに出るのは、登録日、アカウントの所在地、ユーザー名を変えた回数、そして接続元。
自己紹介欄は本人が好きに書けますが、登録日や所在地の欄は本人が書いた文章ではありません。
今回のアカウントで実際に開いてみると、こうなっていました。
- 登録日:2026年8月
- アカウントの所在地:United States
- ユーザー名の変更1回(前回の変更:2026年9月)
- 接続元:Turkey Android App
日本の高校に通っていて、部活の顧問との動画が流出して退学になった、という話。
退学になったと語るアカウントは先月つくられたばかりで、所在地の欄はアメリカ、つないでいるのはトルコのAndroidアプリだと表示されています。
噛み合っていません。
この確かめ方は、素人の思いつきではないんです。
2026年6月には、嵐の公式Xを運営する株式会社嵐が、大野智さんを名乗る偽アカウントについて注意を呼びかけました。
根拠として挙げられたのが、まさにこの欄。
株式会社嵐、大野智のなりすましアカウントに注意呼びかけ 現在は削除済み
— モデルプレス (@modelpress) 2026年6月15日
「アカウントの所在地がSouth Asiaですので明らかな『なりすまし』です。フォロワーがかなり増えているので念のためご注意ください」
事務所が公式に、この4行を証拠として使っています。
ただし、決めつけの道具にはしないでください。
通信を別の国のサーバー経由にするVPNを使っている人や、旅行や出張で海外にいる人は、実際の暮らしと違う国が出ることがあるそうです。
つくったばかりのアカウントや、しばらくログインしていないアカウントでは、そもそも所在地が出ないこともあるとのこと。
表示の更新も、遅れてまちまちに行われるそうです。
だから、プロフィールの4行は答えではなく、材料の一つ。
それでも、指を3回動かすだけで手に入る材料としては、かなり重いほうです。
やめてと書いた同じ画面に、名前が載っていた
このアカウントのポストを時刻の順に並べてみると、もう一つ見えてくるものがあります。
9月10日の午後、「X作り直しました!ちゃんと生きてるよ」という一行と自撮り。
同じ日の夕方、「今とても苦しいです。」で始まる長めの文章。
翌11日の午後、「この度は本当にすみませんでした。お願いだから、もうこれ以上拡散しないでください、、」。
その数分後に、手書きの手紙の画像。
そして12日の夜に、退学の報告が来ます。
13日には「まじでしつこいだけど、こいつら もう拡散しないでよ」。
4日間で、話が一段ずつ進んでいく形になっていました。
引っかかるのは、「拡散しないで」と書かれた2本の作りです。
どちらも、ただの投稿ではありません。
名前や学校のことを書き並べている、いわゆる晒しアカウントのポストを引用する形で置かれたもの。
Xで誰かのポストを引用すると、相手の本文がカードになって、自分の投稿の中に丸ごと表示されます。
つまり「もう拡散しないでよ」と書かれたその同じ画面に、晒し側が書いた名前も、箇条書きの「備考」も、動画のありかを指す一行も、一緒に載っているということ。
やめてと訴えるポストのほうが、晒しを運んでいます。
この件は、拡散をやめてと頼んでいる人の話に見えて、実は広めてほしい側が、広めないでと頼む形をとっている話なのかもしれません。
「拡散しないでください」は、SNSでいちばんよく広がる文章の一つですから。
優しい言葉も怒りも、同じ数字を押し上げる
そっけないと書いた、あの二行目。
「この投稿で初めてあなた様を知りました。」
この一行が、この形のいちばん厄介なところを言い当てていました。
Xの表示回数は、中身の好き嫌いを区別しません。
かわいそうにと思って開いた人も、自業自得だと言いに来た人も、これは嘘だろうと確かめに来た人も、押し上げる表示回数は同じ一つ。
引用して「みんな騙されるな」と教える行為でさえ、そのポストをもう一度、別の人たちの画面へ送り出しています。
目につく数字は、表示回数だけではありません。
先月つくられたばかりのそのアカウントは、フォローしている相手が24人なのに対して、フォロワーの数は4,644人まで来ています。
4日間の連投が、何を積み上げたのかが見えるところ。
つらいのは、いちばん優しい反応がいちばんよく効いてしまうところです。
「絶対こんな事で死んだりすんなよ!」と書いた人は、たしかに人として正しいことをしています。
それでもその一言は、リプ欄を伸ばして、そのポストを人の目に触れやすくしてしまう。
だから、あの手の投稿を見たときに、こちらが選べる手は思ったより少ないんです。
引用も、リプも、「これ偽物です」の指摘も、全部そのポストの側に乗ります。
残っているのは、黙って画面を送ること。
何もしないのがいちばん効く、というのは気持ちのいい話ではありませんけれど。
もっとも、これは本物か偽物かで変わる話でもありません。
本物なら、広めないでほしいという本人の願いにそのまま沿うことになります。
そうでないなら、伸ばさずに済む。
どちらに転んでも手が同じなのは、救いのほうかもしれません。
もし本物だったら、罪に問われるのは誰か
もし本物だったとして、写っている人は責められる側なのでしょうか。
「自業自得」というリプは、法律の側から見ると向き先がずれています。
まず、2023年7月13日に、性的姿態等撮影罪という罪ができました。
同意なく性的な姿を撮った人は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金。
それを不特定多数へ配ったり、公然と陳列したりした場合は、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金です。
拘禁刑というのは、2025年6月に懲役と禁錮が一本化されてできた刑のこと。
公然と陳列というのは、ネットのように誰でも見られる場所へ置くことだと思ってください。
別れた相手の画像をばらまく行為については、2014年からリベンジポルノ防止法という法律があります。
正式な名前は「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」。
本人が誰か分かる形で不特定多数へ提供したり、公然と陳列したりすると、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。
写っている人が18歳未満なら、児童ポルノ禁止法も重なってきます。
こちらも、不特定多数への提供や公然陳列は5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金です。
この三つには、共通していることが一つあります。
どの法律にも、写っている本人を罰する条文は入っていません。
罰せられるのは撮った側と、広めた側だけ。
しかも「広めた側」は、最初に流した人だけを指す言葉ではないんです。
どこかに動画があると聞いて、探して、保存して、もう一度どこかへ載せる。
探して載せる行為も、不特定多数への提供や公然陳列にあたりうる、と条文は言っています。
なお、画像が加工されたものであっても事情は変わりません。
警察庁は今年の8月に、生成AIを使った性的な画像加工について、公式アカウントでこう出していました。
生成AIを使った性的な画像加工。
被害者の人権を侵害し、犯罪に当たることも。— 警察庁 (@NPA_KOHO) 2026年8月3日
本物かどうかを追いかけている間に、追いかけている側が線を越えてしまうこともある、ということですね。
消したいときに実際に動く3つの窓口
もしこれが自分や家族の身に起きたら、という話。
2025年4月1日に、情報流通プラットフォーム対処法という法律が施行されました。
プロバイダ責任制限法を作り直したもので、名前は硬いのですが、やっていることは単純です。
大きなSNSに対して、削除してほしいという申し出が来たら、ちゃんと調べて、判断の結果を申し出た人へ知らせなさい、と義務づけました。
判断を知らせるまでの期限は、原則14日以内。
この義務を負うのは、大規模特定電気通信役務提供者に指定された会社です。
2025年4月の時点で、Google、LINEヤフー、Meta、TikTok、そしてXの運営会社であるX Corp.の5社。
Xは、その中に入っています。
動くときの順番は、だいたいこの3つです。
- 証拠を先に取る(ポストのURL、画面の写真、日時。消えたあとでは動けません)
- プラットフォームへ削除を申し出る(Xの報告フォームから。上の期限が効くのはここ)
- 相談先へつなぐ(総務省の委託を受けた「違法・有害情報相談センター」と、警察の相談専用電話「#9110」)
弁護士に頼むところまで行かなくても、この三段までは自分で踏めます。
知っているかどうかで、最初の数時間の動き方が変わってくるところ。
さて、あの投稿に胸を痛めた人が、間違っていたわけではありません。
知らない誰かが困っているのを見て、何とかしてあげたいと思う。
その気持ちのほうは、たぶん本物です。
ただ、その気持ちを差し出す前に、登録日の行を一度だけタップしてみる。
それだけの間を、自分のために置いておきたいところですね。
