美祢市の和菓子店主殺害で2人逮捕…『死刑でいい』の声に法律が出す答え

2026年10月25日、山口県美祢市の和菓子店で80歳の店主が殺害された事件で、20代の男2人が強盗殺人などの疑いで逮捕されました。
事件が起きたのは2026年8月の終わりで、逮捕までに2か月がたっています。
逮捕の知らせを受けた店主の長男は、取材に「人目もはばからず号泣してしまいました」と話していました。
ネットには、長男の言葉に胸を詰まらせる声とあわせて、「死刑でいい」という怒りの声が多く並んでいます。
「……80歳のおじいちゃんを、ひっぱたいて縛れば済む話でしょ。母もあんなか弱い、細い体なのに、頭を陥没するくらいの力で殴るって。」
涙が出る
どういう育ち方をすればこんな酷いことをしようと思うのだろうhttps://t.co/qumAwmrDCT— 腹よわボーイ (@nori7770) 2026年10月26日
遺族の言葉を読めば、そう書きたくなるのは当然のことですよね。
そして、この罪について法律が用意している刑は、最初から死刑と無期のふたつしかありません。
今回は、逮捕で分かったことと、この先で何が決まるのかについて、わかりやすく解説していきたいと思います。
売上金は残り金庫だけが消えていた
事件が見つかったのは、2026年8月28日の夕方でした。
近くに住む長男が実家を訪ね、両親が倒れているのを見つけたそうです。
亡くなったのは、和菓子店を営んでいた齊藤一正さん、80歳。
一緒にいた妻も、大けがを負いました。
店は創業からおよそ100年で、一正さんはその3代目だったとのこと。
地元の石灰石に見立てたお菓子について、生前の一正さんは、テレビでこんなふうに話していました。
「見かけは悪いですけど、もっとおいしくなるように努力はしています。嫌がらずに買ってください」
事件の直後には、店の売上金が手を付けられないまま残っていたと報じられ、荒らされた形跡も窓を割った跡も無いとされていました。
そもそも何をしに来た人だったのか、外からはまったく見えなかったんです。
ところが、今回の逮捕で分かったのは、金庫が奪われていたことでした。
ふたりは、一正さんの頭を殴るなどして殺害し、金庫を奪った疑いが持たれています。
売上金は残っていたのに、金庫は持ち去られていたというのです。
逮捕されたのは、山口県周南市と広島市に住む男たち。
ふたりは知り合いどうしで、どちらも害虫駆除などを請け負う、いわゆる「便利屋」の仕事をしていたとのこと。
警察によると、一正さんの親族や知人ではなく、面識のない他人だったそうです。
ふたりが浮かんだのは、防犯カメラなどを調べた結果だと報じられています。
報道では、ふたりは名前に「容疑者」をつけて呼ばれていますが、最初に流れた速報の見出しには名前が入っていませんでした。
その見出しを見た人からは、こんな戸惑いも出ています。
これだけの凶悪犯罪で、名前は
明らかにならないのか?和菓子店主殺害 強殺疑い2人逮捕#Yahooニュースhttps://t.co/1ecBR1rtzh
— 湯浅忠雄 YUASA TADAO (@GrwaNnKqMn5nG68) 2026年10月25日
このブログでは、ふたりの名前は出さずに書いていくことにしました。
「容疑者」というのは、疑いをかけられて捜査を受けている段階の呼び方で、有罪が決まった人を指す言葉とは違うもの。
警察は、ふたりが容疑を認めているかどうかを明らかにしていません。
SNSなどで集めた人に実行させる、いわゆる「トクリュウ」型の事件だと示す証拠も、いまのところ無いとしています。
でも、便利屋という仕事と事件との関係は、報道でもまだ分かっていない段階。
店は、いまも事件のときのまま残されているそうです。
事件の直後の様子は、こちらの記事に書いています。
長男の言葉と刑法240条の段差
長男が逮捕の電話を受けたのは、父親の車を下取りに出す商談のさなかだったそうです。
「父のプロボックス(車)をどう使っていいのか分からなくて」と話していて、父親が残したものを、ひとつずつ片づけている途中でした。
家は警察の現場保存のために触れることができず、どうするかも決められずにいたとのこと。
長男は「前に進みたくても進めない、これでようやく進めるなと」と話しています。
そのあとに続いたのが、この言葉でした。
「80歳のおじいちゃんを、ひっぱたいて縛れば済む話でしょ。母もあんなか弱い、細い体なのに、頭を陥没するくらいの力で殴るって」
ネットにも、この一言をそのまま書き写して「涙が出る」と添える人がいました。
和菓子店殺人事件の犯人捕まってよかったけど、息子さんの「80歳のおじいちゃんを、ひっぱたいて縛れば済む話でしょ」てコメントが本当につらい
— まないた (@morimorimuki8_8) 2026年10月26日
「金だけ奪えばいいじゃん、なんで命まで奪うんだろう」と書いた人もいます。
「お金は取り返したりまた増やすことはできる。家族は二度と帰ってこない」という声もありました。
この怒りは、感情だけの話ではありません。
そして、お金と命を、法律もはっきり別の重さで書いています。
人を縛ったり殴ったりしてお金を奪うと、それだけで強盗という罪になり、刑法236条の刑は5年以上の拘禁刑です。
そこでけがをさせると刑法240条の前半に移り、無期か6年以上の拘禁刑。
命を奪うと、同じ240条の後半に移って、死刑か無期拘禁刑のふたつだけになります。
奪ったものが同じ金庫でも、法律は、命まで奪ったかどうかで刑の段を丸ごと変えているんですよね。
ふたりがなぜその最後の一段を越えたのかは、まだ何も伝わっていません。
強盗殺人の刑は最初から2つだけ
「死刑でも足りない」「司法が甘いから」という声も、多く並びました。
マジで犯人最低でも極刑にしてほしい。
和菓子店殺人 “便利屋”業の20代男2人逮捕 遺族悲痛「頭陥没するほど殴られた」(テレビ朝日系(ANN)) https://t.co/xQZwW6r3Al
— 傍から見る人 (@nahsemu1031) 2026年10月26日
大切な人をあんな形で奪われた家族の言葉を聞けば、そう書きたくなる気持ちはよく分かります。
刑法240条の後半は、こんな一文です。
「死亡させたときは死刑又は無期拘禁刑に処する」
選べる刑は、このふたつしかありません。
ふつうの殺人を定めた刑法199条と並べると、違いがはっきりします。
199条の刑は「死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑」で、こちらには5年以上という有期の刑も選べる形。
お金を奪う目的で人の命を奪うと、その有期の選択肢がまるごと消えてしまいます。
しかも240条は「死亡させたとき」とだけ書いていて、殺すつもりがあったかどうかで刑の幅を分けていません。
法律の上でも、この罪はいちばん重い段に置かれているということ。
ちなみに拘禁刑というのは、それまでの懲役と禁錮がひとつにまとまった呼び方です。
ネットには、無期になってもいずれ外へ出てくるのでは、と心配する声もありました。
では、無期は実際どうなっているのでしょうか。
仮釈放された無期刑は1年で1人
刑法28条には、無期刑でも10年たてば仮釈放できる、と書かれています。
ただし条件があって、反省していると認められることが前提。
それでも、この10年という数字だけを見ると、軽く感じてしまいますよね。
ネットにも、「二人とも80歳ぐらいで仮釈放かな」と、先の見通しを書いている人がいました。
無期かなぁ。1名殺害だと。
手口からして残忍なんで50年コース(仮釈放申請二回却下)二人とも80歳ぐらいで仮釈放かな。
生きていられたら。老舗和菓子店店主殺害事件 “強盗殺人”などの疑いで自称自営業の男(27)と自営業の男(26)を逮捕 店主の長男「これでようやく進める」…
— ウェーブキャット参 (@wave_cat_3) 2026年10月25日
でも、実際の数字は、法務省が今年1月に出した資料に載っています。
2024年の終わりに刑務所にいた無期刑の人は1,650人で、そのうち2024年の1年間に仮釈放されたのは1人でした。
その1人が刑務所にいた期間は、38年1か月だったそうです。
さかのぼって10年間で見ても、仮釈放された無期刑の人は延べ96人で、同じ期間に刑務所の中で亡くなった無期刑の人は285人いました。
仮釈放された人が刑務所にいた期間も、この10年はどの年も30年を超えています。
10年で出られるというのは、法律の上での最低ラインの話です。
実際には、無期と言い渡された人の多くが、刑務所の中で年を重ねていきます。
これで「十分だ」と思うか、「それでも足りない」と思うかは、人によって違うはずです。
ただ、「いずれ出てくるのでは」という心配に対しては、ひとつの手がかりになる数字だと思います。
死刑か無期かを選ぶ9人の席
では、このふたつのどちらになるのかは、誰が決めるのでしょうか。
ふたりはまだ逮捕されたばかりで、警察から検察へ送られたあとも、身柄を留めておける期間は原則10日、延長しても最長20日。
そのあいだに、検察が起訴するかどうかを決めます。
もし起訴されれば、その裁判は裁判員裁判で開かれる決まりです。
裁判員法に、死刑か無期拘禁刑にあたる罪の裁判には市民が加わる、という決まりがあって。
席に座るのは裁判官が3人と裁判員が6人で、裁判員は衆議院の選挙権を持っている人の中から選ばれます。
刑を決めるときは、全員の過半数で、しかもその中に裁判官と裁判員の両方が入っていなければいけません。
死刑か無期かを最後に選ぶ席には、ふだんニュースを見て怒ったり泣いたりしている、ふつうの人たちが実際に座るんです。
そして、その人たちは、法廷に出てくる証拠と、ふたり自身の言葉を聞いたうえで決めます。
- なぜ和菓子店だったのか
- なぜ金庫だったのか
- なぜ、縛るだけで済ませなかったのか
警察は、ほかに関わった人がいなかったかも含めて、店を襲った経緯や動機を調べているそうです。
裁判員裁判では、始まる前に争点を整理する手続きも入るので、判決までにはまだ長い時間がかかります。
ネットには、捕まってよかったと思いながら、気持ちが晴れないという声もありました。
捕まってよかったけど、やるせない……🙀
“和菓子店経営者殺害、男2人を強盗殺人容疑などで逮捕…被害男性の長男「知らせを受け号泣した」” https://t.co/6v2q1sRfif
— にゃん吉@さっとん汁同好会 (@nyankichikampo) 2026年10月25日
大けがを負った一正さんの妻がいまどうしているのかは、報道からは分かっていません。
このように情報をまとめているうちに、商談のさなかに電話を受けて号泣したという長男の話と、「嫌がらずに買ってください」と話していた一正さんの声が重なって、胸が痛くなります…。
亡くなられた齊藤一正さんのご冥福をお祈りいたします。
この記事で参考にした情報
- 事件と逮捕の経緯:テレビ朝日系(ANN)「和菓子店殺人 “便利屋”業の20代男2人逮捕 遺族悲痛『頭陥没するほど殴られた』」(2026年10月26日配信)、FNNプライムオンライン、TBS NEWS DIG(いずれも2026年10月25〜26日配信)
- 強盗・強盗致死傷・殺人・仮釈放・刑の減軽:刑法236条・240条・199条・28条・66条・68条(e-Gov法令検索)
- 裁判員裁判の対象と構成:裁判員の参加する刑事裁判に関する法律2条・13条・67条(e-Gov法令検索)
- 無期刑の仮釈放の実態:法務省「無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について」(2026年1月)
