NHKに引っ越し先を知らせた覚えがないのに、新しい家にNHKから封筒が届いた、という経験はありませんか。

その封筒の中身を写した一枚が、いまネットで大きく広まっています。

NHKから届いた「ご契約住所の変更のお知らせ」に、住民票(除票)の写しを取得して住所を変更した、という内容が書かれていました。

2019年にも、同じ驚きが大きく広まったことがあります。

NHKは、本人に無断で住民票を取れてしまうのか。

今回は、NHKが勝手に住民票を取得したと言われている件について、法律に何が書いてあるのか、そして取られたことを本人に知らせる制度にどんな落とし穴があるのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。

黙って書き換えられていた契約住所

封書の前半には「受信契約のご契約者様が住所を変更されたときは、NHKにその旨をお届けいただくこととなっております」という一文。

目を引くのは、そのあとの「このたび、NHKでは、お客様の住民票(除票)の写しを取得して」から始まる一文で、広まっている写真では、ここに赤い線まで引いてありました。

除票というのは、引っ越しなどで前の市区町村から抜けた人の住民票のことで、そこに転居先の住所が載っています。

NHKはこの除票を役所から取り寄せて、新しい住所を知り、契約の住所を書き換えていました。

文面は丁寧ですが、自分の知らないところで役所から書類が出ていた、と知らされるのは、やはりぎょっとしますよね。

では、NHKはどんな決まりにもとづいて、こんなことをしているのでしょうか。

答えは、NHKの受信規約の中に。

いまの受信規約(2025年10月1日施行)の第8条は、受信契約者が届け出た住所を変えたときは「直ちに、その旨を放送局に届け出なければならない」と定めています。

今回の封書のもとになったのは、同じ条の2項でした。

2016年の取材でも、NHKは同じ第8条を挙げて説明していたので、決まりそのものは前からあるものです。

届け出がない場合に、NHKが公共機関への調査などで住所の変更を確かめられたときは、「当該受信契約者が変更後の住所等を放送局に届け出たものとして取り扱うことができる」という一文。

そのうえで、「この取り扱いをした場合、NHKは、当該受信契約者にその旨を通知するものとする」と続いています。

あの封書は、この「その旨を通知する」という約束にもとづいて送られてきた知らせなんです。

NHKの言い分としては、受信契約はこの規約に沿って結ぶものなので、無断ではない、という立場。

NHKは受信料まわりのプライバシーポリシーでも、個人の情報を取る場面のひとつとして「NHKが法令等に基づき住民票や住民票除票等を取得する場合」を挙げていて、取ること自体は公表しています。

2021年の年末に出回った通知には、この規約の抜粋まで付いていました。

ただ、契約のときには気にもとめなかった決まりを、ある日いきなり封書で知らされるのだから、驚くのも無理はありません。

 

本人の許可なしに住民票を渡す条文

規約の話はわかったとして、次に気になるのは、そもそも役所がなぜ本人以外に住民票を渡すのか、ということでしょう。

2016年に同じ通知を受け取った女性も、「親族に依頼しても、本人の委任状がなければ(住民票の写しは)取得できません」と不信感を口にしていたとのこと。

根拠になっているのは、住民基本台帳法の第12条の3です。

この条文は、本人や同じ世帯の家族以外から申し出があったとき、市町村長がそれを「相当と認めるとき」に住民票の写しを渡せる、と定めています。

申し出ができる人として最初に挙がっているのが、「自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために住民票の記載事項を確認する必要がある者」です。

2016年に弁護士ドットコムニュースが問い合わせたとき、NHKの広報局は「住民票(除票)の写しをとることがあるのは事実です」と答えていました。

そして同じ記事によると、NHKは受信料を払ってもらう権利を持つ側、つまり債権者として、この一文に当たると主張しているとのこと。

対象は、請求書などの郵便物が届かなくなった場合や、受信料を払わずに転居した場合だそうです。

 

しかもこの条文は、ほかの債権者にも開かれています。

同じ記事で金田万作弁護士は、この規定はNHKに限らず、貸金業者など多くの債権者が使っている、と話していました。

ネットでも、ガス会社でも滞納していれば取れる、と書いている人も。

この扱いは、国会でも問われたことがある話。

2020年2月の参議院の質問主意書は、目黒区がほかの業者には書類を求める一方で、NHKには「住所・氏名・契約年月日・お客様番号」の4つだけで住民票を渡している、と指摘しています。

これに対する政府の答弁書は、総務省が「従来から」市町村に対して、NHKの職員が仕事のために関係者の住民票を取る場面を、この条文で渡してよい例として示してきたと説明したうえで、どんな書類を求めるかは「一概にお答えすることは困難である」としていました。

窓口が何を確かめて渡しているのかは、外からはなかなか分かりません。

とはいえ、取る理由によっては疑問が残る、という弁護士の見方もあります。

同じ記事の中で金田弁護士は、「仮に郵便物が届かないというだけで取得しているとしたら、理由としては微妙な気がします」と話していました。

引き落としでもう受信料が払われている人なら、郵便を届けるためだけでは、権利の行使とまでは言えないかもしれない、というのが金田弁護士の見方です。

それと、ネットでよく出ていた「一度も契約したことのない人の住民票は取れない」という説は、取れるとも取れないとも、公式の説明からは言い切れませんでした。

規約が住所の書き換えと通知を約束しているのは、受信契約者についてだけです。

何年も前から出回っていた同じ封書

この封書が驚かれたのは、2019年が最初でもありません。

2016年には弁護士ドットコムニュースが、同じ言い回しの通知書を受け取った人の話を記事にしています。

さらに2019年には、実家が引っ越したら数週間後にNHKから手紙が届いた、という投稿が大きく広まりました。

2021年の年末、2026年の5月の終わりと、同じ文面の封書がくり返し話題になり、そのたびにネットニュースが「違法ではないのか」と取り上げています。

そして7月には、今回とまったく同じ写真に、ほとんど同じ一言を添えた投稿が、別のアカウントから出ていました。

赤い線の引き方まで、そっくり同じ一枚。

いま広まっているのも、前から出回っている写真がもう一度回ってきたものと見るのが自然でしょう。

何年も前から続いている手続きの通知が、見つかるたびにまた驚かれているんです。

 

それにしても、なぜ毎回これほど驚かれるのでしょうか。

いちばん大きいのは、住民票を誰かに取られても、ふだんは本人のところへ何の知らせも来ないことだと思います。

住民基本台帳法の第12条の3を頭から読んでも、渡したことを本人に知らせる、という一文はどこにもありません。

知らせる決まりがあるのは、NHKの受信規約だけです。

裏を返すと、知らせる約束をしていない誰かが住民票を取っていても、こちらからはふだん知りようがない、ということ。

あの封書で驚かされた人は、むしろ取られたことを知らされた側にいます。

NHKに腹が立つのは当然として、本当にぞっとするのは、封書が届かないほうなのかもしれません。

 

知らせてもらう登録の落とし穴

自分の住民票を誰かが取ったら知りたい、と思った人もいるはずです。

その方法は、ちゃんとあります。

多くの市区町村が用意している「本人通知制度」です。

事前に登録しておくと、住民票の写しや戸籍謄本などが代理人や第三者に渡されたときに、渡したことを知らせてくれる仕組み。

たとえば埼玉県は、県内の全市町村で実施していると案内しています。

実際に、登録しておくことにしたという人の投稿も見つかりました。

埼玉県のページにあるとおり、この制度は「法令等に基づくものではなく、各市町村が独自に要綱等を定めて実施するもの」と説明されているんです。

法律で決まった仕組みではないので、何を知らせてくれるかは市町村ごとに違います。

その埼玉県の中でも、さいたま市が通知の対象にしている住民票は「本籍入りの住民票(除票を含む)の写し」で、川口市も日本人の住民票は「本籍が記載された場合」が対象です。

ところが、第12条の3は、NHKのような第三者に渡す住民票を「基礎証明事項」だけのものと決めていて、ここに入るのは氏名・生年月日・性別・住所などで、本籍は入っていません。

しかも、本籍まで載せるには、別に申し出て認められる必要があります。

本籍が載っていない以上、こうした市では、登録していても住所を確かめるためだけに取られた住民票は、通知の対象から外れている可能性があるんです。

知らせてもらうための登録をしていても、いちばん知りたい場面で知らせが来ないことがある、ということ。

しかも、通知が来たとしても、中身はかなり控えめ。

さいたま市の場合、知らせてくれるのは「証明書の交付年月日」「交付請求者の区分(代理人、第三者の別)」「交付した証明書の種類及び通数」で、誰が取ったのかの名前までは書かれていません。

それに、この登録は住所や本籍のある市区町村ごとにするものです。

住民票を出すのは住んでいる町の役所なので、別の町へ移ったら、新しい町でも登録しておかないと、そこで取られた住民票の知らせは来ません。

川口市のページにも、住所や本籍が変わったのに変更の手続きをしなかった場合、「通知が到着しないことがあります」と書かれています。

 

では、どうすればいいのか。

手は3つあります。

  • 引っ越したら、NHKを含めて契約先には自分で住所変更を届ける
  • 本人通知制度に登録する前に、本籍の載っていない住民票も通知の対象かを窓口で聞く
  • 誰が取ったかを知りたいときは、役所に保有個人情報の開示請求をする

NHKの分にかぎって言えば、1つ目がいちばん確実です。

受信規約の第8条2項は届け出がない場合の話なので、自分で届けておけば、NHKが住民票を取りにいく理由そのものがなくなります。

2つ目は、本籍の載っていない住民票まで通知するかどうかが、市区町村ごとに違うことへの備え。

3つ目については、港区の広報も、自分の住所などが第三者に取られていないか知りたい場合は開示請求で確認できる、と案内していました。

ただし、取った相手の名前まで教えてくれるかは自治体によって違い、川口市のページにも「場合によって開示できない情報もあります」との断り書きが添えられています。

NHKの封書にぎょっとした気持ちは、もっともなものです。

だから、次に役所へ行く用事があったら、本籍の載っていない住民票も知らせてもらえるのかを、窓口でひとこと聞いてみてくださいね。

 

この記事で参考にした情報

  • 住所変更の届け出と通知:日本放送協会受信規約 第8条(令和7年10月1日施行・NHK受信料の窓口)
  • 住民票の取得をNHKが公表している箇所:NHK「受信料関係分野プライバシーポリシー」(2025年10月1日施行)
  • 第三者による住民票の写しの請求:住民基本台帳法 第12条の3(e-Gov法令検索)
  • NHK広報局の回答と弁護士の見解:弁護士ドットコムニュース(2016年10月18日)
  • NHKへの交付をめぐる国会での質問と答弁:参議院 質問主意書・答弁書(第201回国会 第48号、2020年2月)
  • 本人通知制度:埼玉県「本人通知制度について」/さいたま市・川口市の本人通知制度のページ
  • 開示請求での確認:港区「広報みなと」2026年6月15日号