店の駐車場に、見慣れない車が1台。

お客さんだろうと思って、その日はとくに気にしませんでした。

ところが次の日も、その次の日も、同じ車が同じ場所にあります。

2026年9月19日、YouTubeの料理チャンネル「きまぐれクック」を運営するかねこが、自分の店の駐車場で起きたことをサブチャンネルで公開しました。

停められていたのは4日間。

戻ってきた持ち主に理由をたずねたところ、返ってきたのは「あいとったから」だったと報じられています。

 

この話が広がったあと、ネットで目立っていたのはこちらの声です。

「警察は何もしてくれないのか」「停められた側を守る法律がないのはおかしい」という声が、あちこちに見つかりました。

今回は、私有地に無断駐車されたとき何が起きているのかと、停められた側にできることをわかりやすく解説していきたいと思います。


4日間停められて「あいとったから」

かねこが9月19日にサブチャンネルへ上げた動画のタイトルは『【警察出動】うお一番の駐車場を無断で4日使った人間を捕まえました。とんでもない奴でした。』です。

舞台は、愛知県常滑市でかねこが経営する飲食店「お魚処 うお一番」の駐車場でした。

ライブドアニュースによると、無断で停められていたのは2台だといいます。

かねこはその周りを赤い三角コーンで囲い、すぐには出せないようにしたそうです。

本人もXで短く触れていました。

「本当に迷惑です。」の一言だけが置かれていて、あとは動画のタイトルが続くだけ。

言いたいことを全部動画に預けた形です。

報道では、店の監視カメラに持ち主らの姿が残っていたことも伝えられています。

車を停めたあと、そのまま空港へ向かっていく姿が写っていたそうです。

戻ってきたのは、子どもを連れた家族連れでした。

かねこが「どこいっとたんですか」とたずねると、返ってきた答えは「宮古島」。

さらに「ここの人間じゃないから」「あいとったから」と言葉が続いたと報じられています。

 

引っかかるのは、その言い分が理由になっていないところ。

空いているかを決めるのは、停める側ではなく持ち主のほうなんです。

しかも店は人気店で、とくに土日は駐車場が満杯になるといいます。

2台分が4日間ふさがっていたということは、その間ずっと停められずに帰ったお客さんがいたかもしれません。

かねこは警察を呼び、必ず損害を賠償してもらうと宣言したと伝えられています。

 

ネットの温度も、かなりはっきりしていました。

Yahoo!リアルタイム検索で「無断駐車」の感情の割合を見ると、9月22日の午前0時台の時点でネガティブが97%、ポジティブが3%

ほぼ一方向です。


警察が切符を切れない本当の理由

そこに並んでいた言葉をよく読むと、矛先は停めた家族だけに向いていませんでした。

  • 「そもそも敷地内に停めた側を守る法律があるくせに勝手に停められた側を守る法律がないことが異常」
  • 「車に関してだけなぜか不法侵入が適用されないクソ警察のクソ仕事が意味分からんのよ」
  • 「路駐は取り締まれるけど、路駐よりタチが悪い無断駐車が民事になる法律がおかしい」

路上に停めれば切符を切られるのに、人の敷地に4日間停めても切られないまま。

言われてみれば、たしかに不思議な話ですよね。

答えは、道路交通法のいちばん最初に書いてあります。

「道路」の意味を決めているのが、第2条1項1号。

「道路法第二条第一項に規定する道路、道路運送法第二条第八項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう」

そして駐車を禁じている第45条は、「車両は、道路標識等により駐車が禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、駐車してはならない」と始まります。

続く各号に並んでいるのは、工事区域の側端から5メートル以内、消火栓から5メートル以内、といった場所です。

停車も駐車も禁じる第44条も、交差点、横断歩道、踏切、坂の頂上付近と、やはり場所を名指しで並べています。

 

お店の駐車場は、そのどこにも当てはまりません。

標識も立っていませんし、条文が並べた場所のどれでもないから。

警察の側に、当てはめる条文がそもそもありません。

 

では、不法侵入ではどうでしょうか。

住居侵入などを罰する刑法第130条は、こう書かれています。

「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する」

ここに出てくる拘禁刑は、それまでの懲役と禁錮がひとつにまとまった呼び方です。

住居、邸宅、建造物、艦船。

並んでいるのは建物と船だけで、「土地」も「駐車場」も出てきません。

「不法侵入で捕まえろよ」という声も多く見かけましたが、条文の言葉はそこまで届いていないようです。

現場を知っている人も、同じことを書いていました。

愛知県弁護士会半田支部に所属する弁護士が、この件についてXでこうつぶやいています。

呼ばれた警察官も困る、という話ですね。

「裏技が使える事案だった」とも書き添えてあるので、まったく打つ手がないわけでもないのでしょう。

ただ、それが毎回使える道でないことも、同時に伝わってきました。


停められた側を守る条文はあった

これだけ見ると、停められた側には何も無いように思えます。

ところが、民法を開くと話が変わりました。

第198条にあるのが、この一文です。

「占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる」

 

占有というのは、その場所を実際に使って持っている状態のこと。

自分の駐車場を自分で使っている人は、まさにこの占有者にあたります。

条文が認めているのは、妨害をやめさせることと、損害を払わせることの2つです。

守る法律がないと言われたものが、ここに書いてありました。

 

隣の第199条には、妨害されそうなときに予防を求める訴えも用意されています。

うっかりしやすいのは第201条1項で、この訴えは「妨害の存する間又はその消滅した後一年以内」に起こさなければいけません。

期限は、車がいなくなってから1年

 

お金の話には、第709条がそのまま効きます。

「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」

人の駐車場を勝手に4日間ふさいで店に損害が出ているなら、請求する道は最初から開いたまま

 

ここまで並べてみると、この件の形が少し違って見えてきます。

無断駐車は、取り締まる法律がないから泣き寝入りする話に見えていました。

けれど条文を開くと、停められた側の権利は短い一文ではっきり書かれています。

足りないのは権利ではなくて、それを実際に動かす人。

警察という動かし役が来ないぶん、その係は自分に回ってきます。

損をしたうえに、片づける手間まで全部こちら持ち。

それが、無断駐車のいちばん腹立たしいところですよね。


自分で動かすと立場が入れ替わる

そうなると、次に出てくるのがこの気持ちです。

ネットにも、こんな投稿がありました。

「無断駐車の話題上がるたびに動いたらタイヤに刺さるように釘を立てかけてやりたいと思うんだけど、これやったら器物破損? 具体的には何の方に触れるんや?」

気持ちはよくわかりますし、同じことを考えた人は多いはずです。

ただ、日本の法律はここにいちばん厳しい線を引きました。

 

自分の権利を自分の手で実現することを、自力救済といいます。

最高裁判所は1965年12月7日の判決で、この自力救済についての考え方を示しました。

私力の行使は、原則として法が禁じているもの。

ただし、法律に定める手続きによったのでは権利への違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能か著しく困難になる、という緊急やむを得ない特別の事情があるときにかぎって、必要な限度を超えない範囲で例外的に許される、とされています。

 

原則は禁止。

例外が認められるのは、手続きを待っていたら権利が守れなくなる場面だけです。

駐車場が4日ふさがっている状況は、気の毒ではあっても、この「ぎりぎり」には届きにくいのでしょう。

 

この禁止が条文になっていないのが、やっかいなところなんですよね。

六法をいくら探しても、「自力救済をしてはならない」という条文は出てきません。

出てくるのは、やってしまったあとに当たる条文です。

刑法第261条は「他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する」と定めています。

釘でタイヤをパンクさせる、ボディに直接貼り紙をする、勝手に動かして傷をつける。

被害を受けた人が、次の日には説明する側に回ってしまいます。

 

駐車場でよく見かける「無断駐車は罰金3万円」の看板も、同じ線の上にあるもの。

罰金という言葉は、刑法第9条に出てきます。

「死刑、拘禁刑、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする」

罰金は刑の種類のひとつで、第15条には「罰金は、一万円以上とする」とまで決められています。

つまり罰金は、裁判を経て国が科すもの。

お店や地主さんが自分の判断で誰かに科せるものではありません。

 

金額をあらかじめ決めておく仕組み自体は、民法第420条の「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる」という形で用意されています。

ただし当事者という言葉のとおり、これはお互いが契約で決める話。

黙って停めていった相手と、看板だけで話がついていたとは言いにくいところです。

現実に請求できるのは、やはり第709条の損害賠償になります。

近くのコインパーキングに同じ日数だけ停めたらいくらか、というあたりが、額を考えるときの出発点です。


ナンバーから持ち主を調べる窓口

とはいえ、請求すると決めても、相手の名前も住所も分かりません。

分かっているのはナンバープレートの数字だけで、これでは詰むのでは、と思いますよね。

実は、この先に国の窓口がひとつ用意されています。

車の持ち主を確かめる方法が、車検の手続きで行く運輸支局で取れる「登録事項等証明書」です。

ただし2007年11月19日に制度が変わり、いまは自動車登録番号だけでは請求できません。

車台番号の下7桁もセットで書く必要があります。

盗難や恐喝に悪用されたり、ダイレクトメールに使われたりしたための変更だったとのこと。

 

他人の車の車台番号など、普通は分かりませんよね。

ところが、国土交通省中部運輸局が出している案内の中に、こういう問いが置かれています。

「私有地に自動車を放置されて困っているのですが、登録番号だけで請求はできますか」

放置状況が判る図面と車両の写真、放置日数を書いた書面を添えれば、登録番号だけで請求できる、と書いてあります。

厳しく閉めた入口に、私有地に停められた人のためだけ、小さな扉が残してありました。

 

同じ案内の別の問いと並べると、線がはっきり見えてきます。

自宅前の公道に違法駐車がある場合は「警察にご相談下さい」。

当て逃げに遭った場合も「警察にご相談下さい」。

私有地だけ、図面と写真と日数を自分で用意して窓口へ行ってください、と書かれていました。

ここでも、動く係は自分なんです。

 

添える書面の様式も公開されていて、記入欄は自動車登録番号と放置場所、放置日数、請求者の氏名と住所。

そこに位置図を描き、裏面に写真を貼る形になっています。

請求の理由も書かなければいけません。

案内には「『何のために所有者を確認したい。』といった具体的な請求事由の記載が必要です」とあり、理由を書かなければ受理されないとはっきり断ってあります。

手数料は、現在の登録内容だけが載る現在登録証明書で400円。

窓口では、運転免許証などでの本人確認も必要です。

停められた日からの順番に並べると、こうなります。

  • 車には触らない。動かさない。ボディに直接貼らない
  • 日付が分かる形で写真を撮る。毎日続ける
  • 停まっている位置が分かるように、駐車場の図を描いておく
  • 警察に相談する。事件として動けなくても、相談した記録は残る
  • 持ち主を調べるなら、写真と図面と日数を持って運輸支局へ

地味な作業ばかりですよね。

それでもあとで、損害を請求するときに物を言うのは、この写真と日数の積み重ねです。

運輸支局が添付を求めている書類が、そっくりそのまま請求のときの材料になっているのは、よくできているなと思います。

 

停められた側は、何もできないわけではありませんでした。

できることはちゃんと決まっていて、窓口まで開いています。

ただ、そのどれもが自分の足で運ぶ形なので、多くの人が途中であきらめてしまう。

今回の件がこれだけ読まれたのは、代わりに全部やってくれる人を、みんながどこかで待っていたからなのかもしれません。

もし自分の駐車場で同じことが起きたら、腹が立ったその日にまず、スマホで1枚撮っておいてくださいね。

 

この記事で参考にした情報

  • ライブドアニュース「自身の店に“無断駐車4日間”…超人気YouTuberが怒りの告発も『あいとったから』当事者の呆れた言い分にネット激怒『とことん請求して』」(2026年9月21日配信)
  • 道路交通法 第2条・第44条・第45条/刑法 第9条・第15条・第130条・第261条(e-Gov法令検索)
  • 民法 第198条・第199条・第201条・第420条・第709条(e-Gov法令検索)
  • 国土交通省中部運輸局「自動車の登録事項等証明書の請求方法について」
  • 国土交通省 自動車検査登録総合ポータルサイト「登録事項等証明書の交付請求」