2026年8月24日、プルデンシャル生命保険が、また新しい発表をしました。

同社の営業社員が、複数の顧客から不適切にお金を受け取っていた疑いがある、という内容です。

その社員は、すでに亡くなっているとのこと。

 

ただ、この件でいちばん重いのは、そこではありませんでした。

お金が動いていたとみられるのは、会社が新規契約の販売を止めている、まさにその最中だったんです。

今回は、営業を止めていたはずの会社でなぜそれが起きたのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。

自粛の最中に届いた複数の相談

まずは、発表された中身から。

プルデンシャル生命によると、40代の男性営業社員が、複数の顧客に事実と違う説明をして、お金を受け取っていた疑いがあるとのことです。

説明に使われていたのは「架空の高金利預金」だったと報じられています。

存在しない預金の話を持ちかけて、そこにお金を入れませんかと勧めた、という疑いです。

 

この話が表に出たきっかけは、社内の調査ではありませんでした。

弁護士らでつくる補償委員会に、顧客のほうから「高金利の預金だと言われてお金を渡した」という相談が複数寄せられて、そこで発覚したと報じられています。

被害に遭った人の申し出のほうが先に届いたという順番なんです。

 

被害の件数も、渡ったお金の額も、いまのところ公表されていません。

会社は調査を続けたうえで、全体像をつかむために広く情報を寄せてほしいと呼びかけているとのこと。

そして発表の中では、こうした事案が起きたことを、大変重く受け止めていると述べています。

おわびの言葉も、あらためて出されました。

 

一方で、亡くなった社員と寄せられた相談との関係については、プライバシーへの配慮から公表を控えるとしているそうです。

いま外から見えているのは、そういう相談が複数ある、というところまで。

架空の高金利預金という誘い文句

ここで多くの人が引っかかるのは、なぜそんな話にお金を渡してしまうのか、というところだと思います。

文字にしてしまえば「架空の高金利預金」は、いかにも怪しい響きに聞こえるはず。

けれど、この手口の骨格そのものは、まったく新しいものではありません。

高い利回りを先に約束して、先にお金を預からせるという、昔からある形の言い換えなんです。

 

変わっていたのは、そこに乗っていた看板のほうでした。

プルデンシャル生命では、営業社員のことを「ライフプランナー」と呼んでいます。

お客さんからすれば、家族の万が一も、子どもの学費も、老後のお金も、まとめて相談してきた相手です。

名刺も本物で、会社も実在していて、付き合いだけは何年にもわたって続いてきた相手。

ここまで揃った相手から出てきた話を、その場で疑える人は、そう多くないはずです。

 

もうひとつ、この誘い文句が効いてしまう理由があります。

銀行に預けても利息がほとんど付かない時代が、もう長く続いてきました。

「高金利」という言葉は、その退屈さに慣れた耳ほど強く響いてしまうものでして、ここを狙われると年齢や知識はあまり関係がなくなります。

しかも話が進むのは、銀行の窓口ではなく自宅の食卓です。

隣で聞いてくれる第三者は、いません。

 

そしてもうひとつ、疑うという行為そのものが失礼にあたってしまう関係もあります。

何年も家族の話を聞いてもらってきた相手に、通帳を見せてくださいとは言いにくいものです。

その言いにくさまで込みで、この手口は成り立ってしまいます。

会社が止めたのは契約だけだった

ここからが、この件のいちばん引っかかるところです。

1月の公表のあと、当時の社長は退任し、引責辞任だと報じられました。

そして2026年2月1日、グループ会社から得丸博充社長が就任しています。

新しい社長が席についた8日後に、新規契約の販売を止める判断が出されたわけです。

それだけ急いで手を打たなければならない状況だった、ということなのでしょう。

 

その自粛が始まったのが、2026年2月9日でした。

期間は当初90日間で、その後4月22日に、5月9日からさらに180日間延ばすと発表されています。

終わりの予定は11月5日とのこと。

 

延長を決めた会見で、得丸社長はこう説明したと報じられています。

「現時点では、目指すべきライフプランナー像を会社として、十分に担保できる状態に至っていないと判断した」

半年も新しい販売を止めるというのは、生命保険会社にとってかなり重い判断です。

それでもまだ足りないと自分たちで言ったわけですから、危機感がなかったわけではないのでしょう。

 

そもそもこの自粛は、行政から命じられたものではなく、会社が自分で決めたものでした。

だからこそ、どこまでを止めるかの線引きも、会社が自分で引いていたことになります。

ここで一度、立ち止まってみましょう。

止めたのは「新規契約の販売活動」であって、担当者とお客さんの付き合いそのものではありません。

契約が取れなくなっても、担当者は担当者のままでして、年に一度は連絡が来ますし、頼まれれば家にも上がります。

そして今回、動いたとみられているお金は、そもそも保険の契約ですらありませんでした。

 

会社が止めたのは契約で、動いていたのは人間関係だったということになります。

入口に鍵をかけたのに、お金が通っていたとみられるのは契約の外側でした。

新しい契約さえ止めれば足りるという前提が、今回の相手にはまるで効いていなかったわけです。

正面のシャッターを下ろして安心していたら、勝手口が開いたまま。

今回わかったのは、たぶんそういう形の話なんです。

31億円は100人超で運ばれていた

ここで、話を今年の初めまで戻します。

プルデンシャル生命が最初に問題を公表したのは、2026年1月でした。

そのときの発表が、そもそもかなりの規模だったんです。

100人を超える社員と元社員が、約500人の顧客から31億円を不適切に受け取っていたと公表されました。

今回の営業自粛は、この公表を受けて始まったものになります。

 

数字だけ並べると大きすぎて実感が遠のくので、少し言い換えてみましょう。

お店のレジからお金が抜かれていたとして、抜いていたのが1人なら、それはその店員の問題です。

けれど100人が同じことをしていたなら、それはもうレジの作りの話になります。

 

個人の弱さや出来心だけで、この人数には届きません。

顧客と担当者のあいだで動くお金は、会社から長いあいだ見えていなかったことになります。

あるいは、見なくても成り立つ仕組みになっていたのでしょう。

そう考えたほうが、100人超という数にはすんなり合ってしまうのが、この問題の重たいところです。

 

金融庁も動いていまして、2026年3月には、親会社への立ち入り検査に入る方針が報じられました。

会社の自主的な調査だけでは済まない段階に来ている、ということなのでしょう。

確かめる相手がいなくなった調査

今回の件には、もうひとつ重たい事情があります。

お金を受け取っていた疑いのある本人が、すでに亡くなっていることです。

 

調査というのは、ふつう本人への聞き取りから始まります。

いつ、誰に、どんな説明をして、いくら受け取ったのか。

その一本の証言があるかないかで、わかることの範囲はまるで変わってきます。

今回はその一本が、最初から使えません。

 

会社が広く情報提供を呼びかけているのは、そのためでもあるのだろうと受け取りました。

残っているのは、顧客の側の記憶と、手元に残った記録だけということ。

顧客が声を上げるかどうかに、全体像がそのままかかっている状態です。

 

この先、見ておきたい日付が2つあります。

ひとつは自粛が明ける予定の11月5日、もうひとつは金融庁の動きがどこへ向かうかという点です。

自粛の期間中に新しい事案が出てきた以上、11月にそのまま再開できるのかは見えなくなりました。

会社が期限で区切れるものと、外から見て納得できるものが、ずれてきているのかもしれません。

 

ひとつだけ、はっきりさせておきたいことがあります。

亡くなった方は、もう自分の口で説明することができません。

報じられているのはあくまで疑いであって、確かめられていないことは、確かめられていないままです。

おかしいと言うべきなのは行為と仕組みのほうで、そこから先へ踏み込む話ではありません。

遺された家族にとっても、これは突然降ってきた話のはずですから。

保険の担当者に現金を渡す前に

ここまで読んで、自分の担当者の顔が浮かんだ人もいるかもしれません。

ほとんどの営業社員は、まじめに保険の話だけをしている人たちです。

それでも、確かめる方法をひとつ持っておくと、気持ちはずいぶん楽になります。

 

まず、いちばん単純な線引きから。

生命保険会社が扱っているのは、あくまで保険の商品です。

銀行のような「預金」は、そもそも商品として並んでいません。

ですから「うちの高金利の預金に」と持ちかけられたら、その時点で保険会社の商品ではないことになります。

 

そのうえで、次の3つが揃ったときは、いったん手を止めてみてください。

  • 担当者個人の口座、または現金の手渡しを求められる
  • 「あなただけに」「他の人には言わないで」と念を押される
  • 会社の書面が出てこない、または担当者の手書きだけ

この3つは、今回の件にかぎらず、お金の話が危ないほうへ向かうときの共通の合図です。

 

そして、確かめ方そのものは驚くほど地味でして。

担当者の携帯にかけるのではなく、会社の代表の窓口へ、契約番号で問い合わせます。

担当者を疑うためではなく、担当者を通さない道が一本あるかどうか、という話です。

高齢の親がいる人は、その一本を教えておくだけでも違ってきますね。

 

もうひとつ、家族で決めておけると強いことがあります。

お金を動かすときは、必ずもう一人に話してからという約束です。

今回のような話は、自宅で、担当者と1対1で進みます。

間にもう一人挟まるだけで、成立しにくくなる種類の話でもありまして、これは相手が誰であっても同じですね。

 

被害の件数も、渡ったお金の額も、まだ調査中とのことです。

ただ、今回の発表ではっきりしたことが、ひとつだけあります。

会社が止めたのは新しい契約で、お金が動いていたとみられるのは、その外側でした。

半年も販売を止めておきながら、止めるべき場所がそこではなかったという判断は、やはり間違いだったと感じてしまいます。

お金を返してほしい人も、ある日この話を知らされた家族も、確かめる相手がいないまま取り残されてしまったのだと思うと、やりきれない気持ちになります…。

亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。