音楽番組を見ていて、ふと「この人、いま本当に歌ってる?」と引っかかる瞬間。

たいていは気のせいで済ませて、次の曲へ進んでしまいますよね。

ところが今回は、その引っかかりに「口パク」という名前がついて、ネットで大きく広まりました。

舞台は、幾田りらと、韓国のガールズグループIVEのレイが2人で歌ったm-floの「come again」です。

幾田りらの声ははっきり生で聞こえるのに、レイのパートに替わると音の質がガラッと変わる。

「清々しいまでの口パクで笑った」と書く人がいれば、かばう人も怒る人もいて、ネットは一気ににぎやかになりました。

 

ただ、ネットの反応を読んでいくと、もう1つ別の言葉が何度も出てきます。

それが、録音の歌に生の歌を重ねる「被せ(かぶせ)」という言葉です。

今回は、IVEのレイは本当に口パクだったのか、そしてなぜ幾田りらの隣で浮いて聞こえたのかを、口パクと被せの違いからわかりやすく解説していきたいと思います。


幾田りらとの初コラボで起きたこと

2026年9月22日、埼玉県所沢市のベルーナドームで「INKIGAYO LIVE in TOKYO」の1日目が開かれました。

韓国の音楽番組『SBS人気歌謡』が日本で開いた大型イベントで、2日目の23日にはIVEもグループで出演しています。

その1日目にだけ用意されていたのが、レイと幾田りらのスペシャルコラボでした。

 

主催者は7月の発表で、2人による「初のコラボレーションステージ」と打ち出していて、この日かぎりの組み合わせだったんです。

レイはIVEの日本人メンバーで、グループではラップを担当しています。

幾田りらはシンガーソングライターで、YOASOBIのボーカルとしても知られていますね。

2人は2曲を歌っていて、そのうちの1曲がm-floの代表曲「come again」だったとのこと。

「come again」には、m-floのVERBALが担当したラップのパートがあります。

そこをレイが受け持ち、歌のパートを幾田りらが歌う形をとっていたそうです。

ステージの映像は、その日の19時台にはもうネットに上がっていました。

当日の夜に並んでいた感想は、驚くほど明るいもの。

  • 「レイちゃんラップカッコよかった」
  • 「レイちゃんの声質合いすぎだろ」
  • 「VERBALのラップパートまでやってて神」

「世代です」と、懐かしさまじりに喜ぶ声もありました。

 

ところが同じ夜の遅い時間になると、空気が変わります。

「なんでレイちゃんだけ口パクなんだろ」「幾田りらは生歌で、このレイって人は口パクですもん」という声が、ステージの映像と一緒に出回りはじめたんです。

そして3日たった9月25日、「【悲報】」の見出しつきで改めて大きく広まり、今回の騒ぎになりました。

 

幾田りら本人は、ステージのあとInstagramにレイとのツーショット写真を載せ、「久々の再会で、一緒に歌えて幸せなひとときでした」とつづっています。

レイのほうも、自分のInstagramに2人の写真を載せていました。

当の2人のあいだには、少なくとも気まずい空気は見当たりません。


口パクと被せはどう違うのか

「口パク」は、歌が入った音源を流して、それに合わせて口だけを動かす方法です。

本人の声はマイクに乗っていないので、聞こえている歌はすべて録音されたもの。

一方の「被せ」は、歌が入った音源を流しながら、そこへ本人が生で歌を重ねる方法です。

音源の歌と生の歌をそのまま同じ大きさで鳴らすと二重に聞こえて変なので、どちらかの音量を絞って混ぜるのが一般的だと、音楽メディアでも紹介されています。

つまり被せのステージでは、本人はちゃんと歌っているのに、客席へ届く声の多くは録音のほう、ということが起きるんです。

 

では、どうしてわざわざこんな手間のかかる方法を使うのでしょうか。

いちばん大きな理由は、ダンスです。

K-POPのステージは踊りの運動量がとにかく多く、全力で踊りながら息を切らさずに歌い切るのは、どんなに歌の上手い人でも楽ではありません。

ほかにも、高い音が続く部分だけを守りたいときや、大人数で声を重ねる曲で使われることが多いと紹介されています。

そして今回のレイのパートはラップです。

ラップは言葉数が多く、息つぎの場所もかぎられています。

踊りと重なる曲なら、音源の助けを借りたくなる事情は想像がつくでしょう。

 

口パクそのものの歴史も長いもの。

日本でも80年代ごろから、歌番組やコンサートで使われるようになったといわれています。

踊りながら歌い切るのは難しい、という悩みは、昔からずっと同じなんですね。

 

口パクと被せは、外から見るとほとんど同じ。

どちらも口は動いていますし、マイクを外しても声が聞こえます。

違いは、マイクの中に本人の声が入っているかどうか、その一点だけ。

ネットの反応の中にも「地声まったく聞こえてないけど歌ってはいるので口パクではないよというやつでは」と、被せを疑う見方がありました。

この件で、レイのパートが口パクだったのか被せだったのかは、発表されていません。

どちらだったのかを外から言い切ることはできない、というのが正直なところです。

そもそも、この日の歌声を聞いた場所は人によって違い、ステージは会場の客席だけでなく、スカパー!の独占生配信でも届けられていました。


なぜレイだけが浮いて聞こえたのか

それでも、たくさんの人が「レイだけおかしい」と感じたこと自体は、間違いありません。

今回の騒ぎは、レイが歌ったかどうかの話に見えて、実は同じステージに生歌と被せが並んでしまった話なのだと思います。

幾田りらは、自分で曲を書いて自分の声で届けてきたシンガーソングライターです。

こちらも発表があったわけではありませんが、あの日の歌はネットで「被せゼロの完全生歌」と受け止められていました。

生の声には、息づかいや、ほんの少しの揺れがそのまま乗ります。

被せや音源の声は、録音のときに整えられているので、揺れがほとんどありません。

この2つが1曲の中で交互に出てくると、どうなるか。

声が切り替わるたびに、音の手ざわりまでガラッと変わってしまう。

 

「レイちゃんパートに替わるたびに違和感すごい」という感想は、まさにこの落差を言い当てていました。

「こういうのは統一しないと」という声もありましたが、これも生歌か被せかがそろっていなかったことへの指摘なんですよね。

もしレイがIVEの単独ステージで同じように歌っていたら、ここまでの騒ぎになったでしょうか。

隣に生の声がなければ、比べる物差しそのものがありません。

 

K-POPのステージを見慣れた人にとっては、被せはいつもの景色でしょう。

実際、IVEのファンからは「IVEの口パク今更じゃない…?」と、騒ぎそのものに首をかしげる声も出ています。

そこへ、生の歌声で届けてきた日本のシンガーソングライターがすぐ隣に立ったのが、あの日のコラボでした。

 

ちなみに、翌日の23日にIVEとして出演したレイが、前日の「come again」のラップを少しだけ披露した、という来場者の投稿があります。

「口パク疑われてたレイちゃん今日アカペラ披露してねじ伏せてた」と喜ぶ声まで出ていました。

もともとラップが得意なメンバーなだけに、ファンからは「なんで口パクにしたんだろう」という戸惑いも聞こえてきます。

「事務所やイベント側の判断なのか喉の不調なのか知らんけど叩かれてるのやだな」と、理由がわからないまま叩かれる状況を気の毒がる声もありました。

生歌にするか被せにするかは、本人ひとりで決められるものではないことが多いものです。

今回、誰がどう決めたのかも、表には出てきていません。

9月25日の夜の時点で、レイ本人や所属事務所、主催者からこの件についての説明は出ていないようです。


口パクか被せか、見分ける方法はある?

では、見ている側はどこで見分ければいいのでしょうか。

よく言われるポイントは、いくつかあります。

  • マイクが口から離れているのに、声の大きさが変わらない
  • 激しく踊っているのに、息がまったく乱れない
  • CDの音源と比べて、音程もリズムもきれいすぎる
  • マイクがぶつかったり落ちたりしても、その音が入らない

ただし、これはあくまで目安です。

被せの場合も音源が鳴っているので、マイクを外せば録音の声は聞こえてしまいます。

「マイクを外したのに声が流れていた」というのは、音源が鳴っていたことを示すだけです。

けれど、それだけでは本人が歌っていなかった証拠にはなりません。

反対に、歌が正確すぎて、生で歌っているのに口パクを疑われる歌手もいるそうです。

昔から、歌詞を少し変えたりアドリブを入れたりして、生で歌っていることをさりげなく示す歌手もいたといいます。

音源にはない声や言葉が聞こえたら、そこは生の声だという合図になるわけですね。

 

もう1つ、見落としがちなのが「どこで聞いたか」という点です。

ネットで回っている映像の音は、会場の客席で聞こえていた音と同じとはかぎりません。

配信や放送の音は、届ける側で整えてから出すことがよくあります。

実際に「現場ならもっと声聞こえてるねんな」と書いている人もいました。

同じステージでも、会場の客席とスマホの画面とでは、聞こえ方が変わってしまうんですよね。

 

この2日間のステージは、特別編集版として11月と12月にスカパー!で放送されることが決まっています。

「come again」がそこに入るかどうかはまだわかりませんが、入っていれば、もう一度落ち着いて聞き直せるかもしれません。

口パクか被せかは、結局のところ外から言い切れるものではないんですよね。

ただ、あの夜「口パク」という言葉より先に並んでいたのは、「ラップ最高」という声でした。

次に音楽番組で「あれ?」と思ったら、責める前にマイクと口の距離を少しだけ見てみてくださいね。