相模原高校生死亡|バイクを追いかけた車は何がしたかったのか

2026年8月22日の午前3時ごろ、神奈川県相模原市中央区の農道で、17歳の男子高校生が倒れているのが見つかりました。
119番通報をしたのは、その場に一緒にいた友人です。
伝えられたのは、「殴られたようだ」「意識不明」という言葉だったといいます。
高校生は意識が戻らないまま病院へ運ばれ、2日後の24日未明に亡くなりました。
そして8月25日になって、死因が明らかになります。
頭を強く打ったことによる脳挫傷です。
頭の骨も折れていて、それ以外に目立った傷はありませんでした。
神奈川県警は、凶器が使われた可能性もあるとみています。
ネットで目につくのは、「なんで追いかけられたの?」という声でして。
今回は、この夜に何が起きたのか、そして車がバイクを追いかけるという行為が過去にどう扱われてきたのかを、順番に見ていきたいと思います。
8月22日の午前3時までに起きたこと
報道が小出しに出てきたせいで、時系列がつかみにくくなりました。
まずは分かっているところだけを、順番に置いていきましょう。
現場は、相模原市中央区の田名(たな)という地区にある農道です。
JR相模線の番田駅から、600メートルほど離れた場所。
田畑や資材置き場が目立つ一帯で、住宅街からは外れています。
8月22日の午前2時半過ぎ。
現場の近くにあった防犯カメラが、バイクのすぐ後ろを黒っぽい乗用車が走っていく様子を捉えていました。
映っていたのは1か所ではありません。
現場の数十メートル手前と、およそ300メートル手前。
2か所のカメラが、同じような様子を映していたと報じられています。
TBSの解説では、このときの車の速さは「通常考えられない速さ」と推定されていました。
午前3時ごろ、119番通報。
救急隊が到着したとき、そこには倒れている高校生のほかに、10代の男女4人がいました。
そばには、高校生のものとみられるバイクが1台、横倒しになっていたとのこと。
8月24日の未明、搬送先の病院で死亡。
亡くなった高校生の自宅があるのは相模原市の緑区で、倒れていた場所まではおよそ5キロ離れています。
8月25日、同じバイクに乗っていた知人の証言が報じられました。
「追いかけられていた車に現場近くで追いつかれ、降りてきた2人から暴行を受けた」
暴行を受けたのは、亡くなった高校生を含む2人だったとのこと。
ひとつだけ、はっきりしていないところがあります。
走っていた人数です。
バイクが2台だったことは各社そろっているのですが、一緒にいた友人の数が「3人」と報じられたり「4人」と報じられたりしていて、そこはまだ揃っていません。
読んでいて混乱するのは、記事の書き方のせいではなく、まだ確定していないからだと考えるのが自然です。
死因は脳挫傷で頭以外に傷はなかった
司法解剖の結果として発表されたのは、次の3つでした。
死因は、頭を打ったことによる脳挫傷。
頭の骨が折れていたこと。
そして、それ以外に目立った外傷はなかったという点。
脳挫傷(のうざしょう)というのは、強い衝撃で脳そのものが傷ついてしまう状態のことです。
頭の外側にできる傷とは違って、外から手当てのしようがありません。
ただ、この3つのうちでいちばん重いのは、死因でも骨折でもなく、3つ目の「それ以外に傷はなかった」のほうだと思っています。
取っ組み合いになれば、腕にも足にも背中にも傷が残るものです。
ぶつかった痕、押された痕、地面についた痕。
それが頭にだけ集まっていたと発表されたわけです。
神奈川県警が凶器の使用を疑っているのも、ここが理由だとみられます。
もみ合いの延長で偶然こうなった、という説明が置きにくい形。
初報の段階では「殴られたような痕がある」というところまででした。
そこから3日で、ここまで進んでいます。
ネットで出ている「族狩り」という言葉
さて、いちばん知りたいところです。
なぜ、追いかけられたのか。
ここについて、警察は何も公表していません。
報じられているのは、事件の前に高校生が複数の人と何らかのトラブルに巻き込まれたとみられる、という一文だけ。
そのトラブルの中身は、いまのところ分かっていません。
この空白を埋めるように、Xでは「族狩り(ぞくがり)」という言葉が出ています。
バイクに乗っている人を狙って、集団で襲いにいく行為を指す言葉です。
1980年代から使われてきた、かなり古い言い方でして。
「相模原の高校生の事件、族狩りにやられたんやろな」といった投稿が並んでいますが、書いている本人も推測だと断っているものがほとんどです。
もちろん、これはあくまで噂です。
今回がそうだったと確認されたわけでは、まったくありません。
ただ、この言葉がすぐ出てきた理由のほうは、はっきりしています。
「バイクや車を見つけて追いかける」という行為に、心当たりのある人がそれなりにいるからです。
実際、今回の件をきっかけに、こんな体験談も投稿されていました。
「目立つ車を見つけたら、あいつ誰に断ってあんな車乗ってやがんだ、と追いかけてくる」
相模原に住んでいるという人からは、「この辺りは改造したバイクをよく見かける」という声も出ていました。
ここで押さえておきたいのは、動機の中身ではありません。
追う側には、追う理由があるということです。
追い抜かれた腹いせなのか。
もともとのトラブルの続きなのか。
あるいは、最初から探していたのか。
どれであっても、追いかけている側は「たまたま同じ方向へ走っていた」のではないということになります。
そしてここが、次の話につながっていきます。
目的を持って追いかけてくる相手からは、細い道へ入っても逃げ切れません。
農道は逃げるのに向かない道だった
多くの人が引っかかったのは、たぶんここです。
なぜ、わざわざ田んぼの中の道へ入っていったのか。
逃げるなら、明るい大通りのほうがよかったのでは、と。
ただ、追われた側の動きとしては、これはとても自然なんです。
バイクが車に追われたとき、乗っている人が反射的に選ぶ道は、だいたい決まっています。
車が入ってこられない道。
細い道、曲がりくねった道、対向車とすれ違えないような道。
バイクの身軽さが武器になるのは、そういう場所だからです。
ところが、農道はそのどれでもありませんでした。
細く見えても、軽トラックが通れるように作られた道です。
車は、入れます。
そのうえ、道の両側に見えるのは田畑と資材置き場。
街灯も少なく、現場の近くに住む人は「夜も静か、あまり車も通らない」と話していました。
高校生が集まるような場所なのか、と聞かれたときの答えは「そういう感じじゃない」。
子どものころの鬼ごっこで、物置の裏に隠れたことがある人は多いと思います。
見つかりにくい場所ではありますが、見つかったときには、誰も助けに来てくれません。
人けのない場所は、隠れるのに向いていて、助かるのには向いていないということ。
この夜の農道も、それとよく似た形になりました。
しかも、追ってきた車は「通常考えられない速さ」だったと推定されています。
距離を離せていたなら、そもそも追いつかれていません。
つまりこの夜、車をまくつもりで入った道が、いちばん人目のない場所だったことになります。
防犯カメラが数十メートル手前まであった、という事実も、同じことを裏側から言っています。
そこまでは、まだ映る道でした。
その先が、誰も見ていない道だったんです。
夜道でバイクが車に追われたら
ここから少しだけ、今夜の話に寄せてみます。
17歳で原付に乗り始める子がいる家庭は、めずらしくありません。
亡くなった高校生も免許を持っていて、よく原付に乗っていたと、中学の同級生が話していました。
警察庁は、あおり運転の被害に遭ったときの対処として、こう呼びかけています。
- サービスエリアやパーキングエリアなど、交通事故に遭わない場所へ避難する
- 車の外には出ず、ためらわずに110番通報をする
ただ、この呼びかけは、バイクにそのまま当てはめることができません。
バイクには、閉められるドアがないからです。
止まった時点で、体はむき出しのまま外に残ってしまう。
だとすると、バイクにとっての安全な場所は、鍵のかかる場所ではなく、人がいる場所ということになります。
コンビニの明かりの下。
24時間開いている店の駐車場。
ガソリンスタンド、交番、大きな交差点。
どれも、逃げ切るための場所ではありません。
相手が、降りてこられなくなる場所です。
逆に、暗い道・細い道・人のいない道は、バイクが有利に見えて、いちばん不利になります。
追いつかれた瞬間に、助けを呼ぶ相手がいなくなるからです。
そして、細い道へ逃げ込みたくなる気持ちのほうが自然なので、そこを先に言葉にしておく意味があります。
もう一つ、逃げる方向を家の側に取らないこと。
家に向かえば安心だと思ってしまいますが、追ってきた相手に、住んでいる場所を教えることにもなります。
もし今夜、子どもが原付で出かけるなら、伝えることは一つだけ。
後ろの車がずっと近いと感じたら、家に向かわないで、明るいところに入って電話しなさい、と。
捕まったら何の罪になるのか
ネットでよく見かけたのが、この声でした。
「死亡事故でさえ最高8年の有期刑。短いのでは?」
ここは、少し整理しておく必要があります。
今回は、車がぶつかった交通事故ではありません。
いったん止まって、車から降りて、殴ったとみられています。
そうなると、交通事故のときに使われる罪の名前は出てこないんです。
基本の線として出てくるのが傷害致死罪。
殺すつもりはなかったけれど、殴った結果として死なせてしまった場合の罪で、3年以上の刑が定められています。
ただ、これで終わるとは限りません。
追いかけて、追いついて、車から降りて、頭を狙っていたとなると、殺人罪が視野に入ってきます。
「殺すつもりはなかった」で済まないケースがあるからです。
死んでしまってもかまわない、と思いながらやっていたと認められれば、それは殺人として扱われます。
法律の世界では未必の故意(みひつのこい)と呼ばれるものでして。
実際に、そう判断された事件があります。
2018年7月、大阪府堺市。
バイクに追い抜かれて腹を立てた男が、1分ほどクラクションとパッシングを繰り返した末に、時速100キロ近い速さで追突しました。
バイクに乗っていた22歳の大学生が亡くなっています。
裁判で争われたのは、まさにこの未必の故意でした。
そして結論は殺人罪で懲役16年。
最高裁が上告を退けて、あおり運転に殺人罪を当てられるという判断が確定しています。
ここでもう一つ、触れておきたいことがあります。
今回の件では、「深夜にバイクで走り回っていたほうにも問題がある」という声も出ていました。
17歳が午前3時にバイクで走っていたことは、たしかに褒められた話ではありません。
ただ、堺の裁判で問われたのは、追い抜かれて腹を立てた側の1分間だけでした。
追い抜かれたことが加害者の言い分として通った場面は、判決のどこにもありません。
そこは、分けて見ておいたほうがよさそうです。
なお、車に乗っていた人物は、まだ見つかっていません。
神奈川県警は、防犯カメラの映像をもとに行方を追っていると報じられています。
先月末にカブトムシを採りに行った
報道では、同級生たちの言葉も伝えられていました。
先月末に、一緒にカブトムシをとりに行ったばかりだったそうです。
「もっと遊んでおけばよかった。こうなると思っていなかった」
「元気でムードメーカー的な存在。いい子だった」
最近トラブルを抱えていなかったか、と聞かれたときの答えは、「何も聞いていなかった。突然すぎて」。
現場には、花を手向けに来た友人の姿もありました。
その一人が話していた言葉が、ずっと残っています。
「遊びに誘われたけど断ってしまった。断らなければ、こうなっていなかったかなと。悔しい」
17歳の夏に、同級生とカブトムシをとりに行く。
ついこのあいだまで、来年も再来年も続いていくはずの日常でした。
いま分かっているのは、ここまでです。
追いかけた車が誰のもので、なぜその後ろを走り続けたのか。
そこは、これからの捜査で出てくることになります。
ただ、その中身が何であっても、変わらないところが一つだけあると思っていまして。
どんなトラブルがあったのだとしても、追いかけて、追いついて、降りて、17歳の頭を狙っていい理由にはならないということです。
そこだけは、続報が出てもひっくり返らないところですよね。
亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。
