ルイ・ヴィトンの強化ガラスは日本製?暴徒に耐えた仕組みを調べてみた

ルイ・ヴィトンのショーウィンドーを、黒い服の集団が鉄の棒で何度も叩き続ける映像。
ガラスはみるみる白くひび割れていくのに、最後まで店の中へは誰も入れませんでした。
와 파리 루이비통 유리 두꺼운거 봐라 pic.twitter.com/yX3CPSg04m
— phew (@studentphew) 2026年10月20日
ネットでは「よく持ちこたえた優れたガラスだな。日本製?」という声まで出ていて、さすが日本の技術だと、つい胸を張りたくなる映像です。
では、あのガラスは本当に日本製なのでしょうか。
そもそも、ひびだらけになっても破れないガラスとは何なのか。
今回は、あの窓ガラスの正体について、海外の報道と国内のガラスの資料をもとに調べていきたいと思います。
割られても破れないルイ・ヴィトンの窓
2026年10月17日、フランスでは物価高や教育への抗議が全国に広がり、内務省の発表ではおよそ55万人が街に出たそうです。
その日、パリやリヨン、ボルドーなど各地で店が荒らされました。
広まっている映像は、パリのヴァンドーム広場にあるルイ・ヴィトンの店のものだと、台湾や韓国のメディアが伝えています。
ヴァンドーム広場は、高級な宝飾店がずらりと並ぶ、パリでもとびきり華やかな一角です。
その日の夜10時すぎには、現場にいた人が、ヴァンドーム広場のルイ・ヴィトンで略奪未遂が起き、一帯が混乱していると、フランス語で映像つきの投稿をしていました。
Tentative de pillage de la boutique Louis Vuitton, place Vendôme. La situation est chaotique dans le quartier. #17octobre pic.twitter.com/6BYbESxGPK
— Samuel Clauzier (@Masleuu) 2026年10月17日
映像を見ると、集団は鉄の棒やバールのようなもので、同じ窓を何度も叩いています。
道路の柵を抱えてぶつけようとする姿もあったと、台湾のテレビ局は伝えていました。
それでもガラスは、真っ白なひびに覆われたまま窓枠に立ち続けています。
ガラスの向こうには、スーツ姿の人が店の奥に立っているのも映っていました。
外の騒ぎとガラス1枚をはさんで、明かりのついた売り場が静かに広がっている、なんとも不思議な光景です。
韓国の経済紙は、イギリスのフィナンシャル・タイムズの記事として、店の従業員のこんな言葉を紹介しています。
「窓が持ちこたえたのは特殊なガラスだったから。でも何より、私たちは運がよかった」
すごいガラスに守られた店の中の人が、自分では「運がよかった」と話しているんですね。
日本製説とドイツ製説の出どころ
いちばん気になるのは、やはり「日本製なのか」という点ですよね。
ネットでは「この防犯ガラスは日本製だな」という声がいくつも上がり、どこのメーカーなのかと尋ねる声も並んでいます。
この防犯ガラスは日本製だな。
— 🔥悶絶🔥 @借金500万おぢ (@o_apxxx) 2026年10月20日
ところが、日本製だという根拠を示した報道や発表は、探しても見つかりませんでした。
いっぽうで、もう1つ別の説も流れています。
ドイツのシラテック(SILATEC)という会社が、ルイ・ヴィトンの店に防犯ガラスを納めている、という話です。
フランスの暴動でSILATEC社のセキュリティガラスを使用してたLOUIS VUITTON、このまま広告に使えるまである。 pic.twitter.com/OLZuR04FlZ
— MMM (@s42061513) 2026年10月20日
シラテックは、ドイツ南部のバイエルン州にある、防犯用や防弾用の合わせガラスを作っている会社。
日本製と聞いていた人の中には、「ドイツって観たのですが間違ってたのかな?」と戸惑う声もありました。
ドイツ製説の根拠として貼られていた画像は、同社の製品一覧のページで、ルイ・ヴィトンとのつながりまでは写っていません。
そこで同社のホームページを開くと、納入実績を紹介するページには、ルイ・ヴィトンの名前が並んでいました。
ただ、そこに載っている店の写真は、ヴァンドーム広場の石造りの建物とは別の店構えです。
この会社がルイ・ヴィトンのどこかの店にガラスを納めたことはあっても、あの夜の窓がこの会社のガラスだとは、どこにも書かれていません。
イギリスのファッション系ニュースサイトも、ヴァンドーム広場の店のガラスの種類や強さは公表されていない、と書いていました。
日本製説も、ドイツ製説も、いまのところ決め手はありません。
それでも、どういう種類のガラスなのかは、映像から読み取れることがあります。
警察の表では防犯性能が低い強化ガラス
ネットでは「改めて強化ガラスってすげーんやなぁ」という声もたくさん並びました。
ところが大阪府警は、ガラスの種類ごとに防犯性能をまとめた表をホームページに載せていて、そこで強化ガラスは「防犯性能は低い」側に入っているんです。
強化ガラスは、ふつうの板ガラスの3〜5倍の強さがあるものの、道具によっては簡単に破れる、と説明されていました。
しかも割れると、破片が粒のように細かく崩れる性質があるとのこと。
粒になって崩れるのは、割れたときに人が大けがをしないための性質で、泥棒を止めるためのものではありません。
あの映像の窓は、その逆でした。
白いひびが全体に走っているのに、粒になって落ちず、1枚の板のまま立っています。
フランス暴動でのルイ・ヴィトン
今までの経験豊富さから対暴動用の強化ガラスを全面に装備していたため、暴徒は突破できずw pic.twitter.com/DOakbmZ5Ic
— かみぱっぱ (@kamipapa2) 2026年10月21日
この割れ方は、2枚のガラスのあいだに樹脂の膜を挟んだ「合わせガラス」の特徴です。
ガラスが割れても、真ん中の膜がしがみついて、穴が開くのを食い止めるしくみ。
車のフロントガラスも、この合わせガラスです。
大阪府警の表では、ふつうの合わせガラスも防犯には十分とはいえないとされています。
その膜を2倍以上に厚くしたものが、「防犯ガラス」として別に分けられていました。
ネットで褒められていた「強化ガラス」という呼び名のままでは、あの窓が持ちこたえた理由は説明がつかないんです。
では、防犯ガラスなら、叩いても絶対に割れないのでしょうか。
ヨーロッパの防犯ガラスの規格(EN 356)は、ハンマーと斧で同じ場所を叩き続けて、穴が開くまでに何回かかるかで等級を決めています。
いちばん上の等級でも、測っているのは割れるかどうかより、穴が開くまでにかかる回数。
つまり、防犯ガラスは割れないガラスではなく、時間を稼ぐガラスなんです。
同じ夜に破られたルイ・ヴィトンの窓
同じ10月17日、ほかの街のルイ・ヴィトンは破られていました。
リヨンでは、エドゥアール・エリオ通りのルイ・ヴィトンが略奪にあったと地元紙が伝えています。
その店で捕まった21歳の男性は、財布6つとバッグ2つ、サングラス2つを持っていたとして、6か月の実刑を言い渡されたそうです。
Lyon : 6 mois ferme pour avoir volé 6 portefeuilles Louis Vuitton pendant les pillages du 17 octobrehttps://t.co/pYvmGGknZl
— actu Lyon (@actufr_lyon) 2026年10月19日
南西部のボルドーでも、目抜き通りのサント・カトリーヌ通りで、ルイ・ヴィトンの店が略奪にあったと報じられました。
翌18日の夜には、パリの別のルイ・ヴィトンでも窓にひびが入り、駆けつけた警察が略奪を止めた、とフランスの通信社が映像つきで伝えています。
同じ看板の店が、破られたところと持ちこたえたところに分かれていました。
リヨンで荒らされた通りは、前もってシャッターや覆いをする店が少なく、その一帯に機動隊もいなかったと地元紙は書いています。
どれだけ時間を稼いでも、誰も止めに来なければ、ガラスにもいつかは穴が開いてしまうもの。
ヴァンドーム広場では、ガラスが持ちこたえているうちに、叩いていた側があきらめて去っていったと、台湾のメディアが伝えています。
最後は、相手が先にあきらめるかどうか。
従業員が口にした「何より運がよかった」は、その分かれ目のことを言っているように聞こえます。
日本の窓に引かれた5分という線
ネットでは「日本はこれからこの強化ガラスでマンションや家をガードする事にした方がいいのでは?」「日本でも闇バイト野郎を防げそう」という声も出ていました。
フランスの映像を見て、ふと自分の家の窓が気になった人もいるのではないでしょうか。
実は日本にも、防犯ガラスの強さを確かめる仕組みがちゃんと用意されています。
警察庁と国土交通省、経済産業省、民間の団体がつくる官民合同会議が、侵入までに5分以上かかるなどの性能が確かめられた部品を、目録にまとめて公表しているんです。
目録に載った部品には「CPマーク」という共通のマークが付けられ、ガラスのほかに鍵やサッシ、窓に貼る防犯フィルムも入っています。
ガラスを入れ替えるのが大がかりでも、フィルムならいまある窓に後から貼れるのが助かるところ。
なぜ5分なのかは、静岡県警がホームページで説明していました。
侵入犯の容疑者への調査で、手間取ってあきらめる時間を「5分以内」と答えた人が合わせて約7割いたことから、5分耐えれば多くの侵入者があきらめる、という考え方だそうです。
日本の物差しも、ガラスが何分持ちこたえるかに置かれていました。
窓ガラスを割って入る被害は、日本でも身近なところで起きています。
この10月にも、埼玉県飯能市の一戸建てで、家の人が寝ているあいだに1階の窓ガラスを割られ、金庫を盗まれる被害があったと、埼玉県警が知らせていました。
【侵入窃盗・飯能市】
10月19日(月)午後9時ころから翌20日(火)午前7時ころまでの間に、大字平松地内の一戸建て住宅で、家人が就寝中に1階の窓ガラスを割られ、住宅内から金庫が盗まれる被害が発生しました。被害に遭わないために、≪補助錠や防犯フィルム等を取り付ける・(続く)#埼玉県警— 埼玉県警察犯罪情報官 (@spp_jyouhoukan) 2026年10月21日
補助錠や防犯フィルムを付けるように、という一言も添えられています。
静岡県警は、CPマークの付いた部品も侵入を完全に防ぐものではない、とはっきり書いていました。
日本製だったらうれしいという気持ちはメーカーの名前が出てくる日まで取っておいて、まずは自分の家の窓の隅にCPマークがあるか、一度のぞいてみてくださいね。
