去年の1月、赤坂のとんかつ屋の朝ごはん。

二宮和也や山田涼介がロケ先で朝ごはんを食べながら話す、よにのちゃんねるの一場面です。

その席で交わされた数十秒が、いま「忠告」と呼ばれて何度も読み返されています。

きっかけは、timeleszの猪俣周杜容疑者が傷害の疑いで逮捕されたという報道です。

ところが名前を出して責められているのは、逮捕された本人ではなく菊池風磨でした。

 

あの席で、山田涼介は何と言っていたのか。

そして菊池風磨は、どこを責められているのでしょうか。

言葉の中身と、その言葉がいつ撮られたものなのかを、順番にたどっていきたいと思います。

責められているのは逮捕された本人ではない

くり返し流れてきたのは、山田涼介の見る目をほめて、菊池風磨をその反対側に置く形の言葉でした。

「山田くんはジャニーズに一般人を入れるとこうなるってわかってたんだろうね‥色んな大人を見てきて、その辺の嗅覚がすごそう 菊池風磨は見る目がなかった」

 

新メンバーを入れるオーディションは、菊池風磨が「おれたちのtimelesz project」と呼んだ企画でした。

だから責任はそちらへ、という理屈は、筋としては通っています。

選んだ人がいて、選ばれた人がいて、そのうちの一人が逮捕された

並べるとそう見えるので、矛先が動くのも自然ではあります。

 

もう一つ、温度が高かったのが態度の話でした。

「飯食いながら話聞いてる時点で終わってるよ」

引用のほうにも「山田の顔見ずに食べながら聞いてる時点で、身に入ってないのが分かる。」という声が並んでいます。

 

一方で、その空気に待ったをかけている人もいました。

「別に菊池風磨は悪くないだろ。どんだけ言われてもやるやつはやるし、やった人間が悪いんだし」

「下積みあってもやらかす奴はいるしオーディション番組のせいではないだろ。」

 

そして、いちばん細かいところを見ていたのがこの一行です。

「何が一番気持ち悪いかって、山田『くん』と敬称をつけているのに菊池風磨は敬称ナシのフルネーム表記でわざわざ格差をつけてるところ。」

言われてみると、たしかにそう書かれているものが目につきます。

呼び方の一文字に、もう評価が乗っているわけです。

 

切り抜きを見て何か言いたくなる気持ちは、こちらにもあります。

ただ、撮られた日を調べると、見え方がかなり変わりました

山田涼介が言っていたのは制御の話

東スポWEBが9月19日に伝えたところによると、山田涼介はこう話していたそうです。

急に入ってデビューなわけじゃん。金銭感覚も含めて、いろんなことがさ、ガラッと変わるわけじゃん。やっぱ変わっちゃうと思うの、人として。そこをどう制御するかはやっぱ風磨たち次第なのかなって

出典:東スポWEB(2026年9月19日配信)

読み返すと、重心は後半にあります。

変わってしまうことを責めているのではなく、変わるのは避けられない、という前提で話しているんですね。

そのうえで「そこをどう制御するか」と続けて、球を菊池風磨たちの側へ置いています。

 

言葉の選び方も、意外と冷静です。

「変わるな」でも「気をつけろ」でもなく、制御という言い方をしています。

変化そのものは止められないものとして扱って、そのうえで扱い方の話をしているわけです。

 

いっぽうの菊池風磨は、こう返したと伝えられています。

そうなんっすよ。おれたちのtimelesz projectは続いていくんすよ

出典:東スポWEB(2026年9月19日配信)

止まる話ではなく、続く話として受け止めた形です。

ここだけ読むと、説教というより、先輩と後輩のふだんの会話に見えます。

あれは朝ごはんを食べる回だった

態度への非難で目についたのは、食べながら聞いている、という一点でした。

ただ、あの回には前提が一つ抜けています。

 

よにのちゃんねるには「朝食」と題した回がいくつも並んでいて、ロケ先で朝ごはんを食べながら雑談するのが、この番組の定番の形です。

そして2025年2月16日に配信された回は、赤坂のとんかつ店「熟豚 三代目 蔵司」での朝ごはんの回でした。

 

食べながら話を聞いていたのではありません。

食べる時間に話が始まった、という順番です。

そう考えるとこの企画では、食べずに聞いていたら、そちらが場としては不自然になります

実際、ネットには「よく見ると食べてないのよ、山田くん。そこよ、そこ。」と、逆から見て山田涼介をほめている人もいました。

 

同じ食卓の、同じ数十秒です。

片方は食べているから不誠実、片方は食べていないから誠実と読まれています。

箸が動いたかどうかだけで、人の評価がここまで分かれる。

朝ごはんの企画だと知らずに数十秒だけを見ると、そこは会議室と同じ景色に見えてしまいます。

 

映像そのものは、どちらの答えも持っていません。

こちらで確かめられるのは、あの席が朝ごはんの企画だったというところまでです。

名前もリーダーも、まだ決まる前

では、あの回はいつ撮られたものなのでしょうか。

東スポWEBによれば、配信は去年の2月16日で、収録は1月の下旬だったとのこと。

ここに、もう一つ大事な日付があります。

timeleszの新メンバー5人が発表されたのは、公式サイトの告知によると2025年2月15日でした。

寺西拓人、原嘉孝、橋本将生、猪俣周杜、篠塚大輝の5人が加わって、8人編成になっています。

発表の場になったのは、選考を追いかけてきたNetflixの番組の最終話でした。

名前が出たのは、配信の前日

収録は、その前の月です。

新メンバーを選ぶオーディションは、2024年4月1日に募集が発表されて、選考に10か月ほどかかっています。

選考の様子はNetflixの番組としても配信されていたので、結果を待っていた人は大勢いました。

1月下旬といえば、その全員がまだ答えを知らない時期にあたります。

 

収録の時点で、誰が入るのかは決まっていませんでした。

名前も顔も、まだ一つも出ていない段階。

あの心配は、特定の誰かへ向けたものではありえなかったわけです。

 

決まっていなかったものは、もう一つあります。

リーダーです。

timeleszにリーダーが置かれたのは収録よりあとでした。

2025年7月27日に放送されたフジテレビ『突然ですが占ってもいいですか?』で、占い師の星ひとみがグループを占った回がきっかけです。

リーダーがいないと聞いた星ひとみが「このグループさあ、リーダー作らなきゃダメ」と伝え、このままだと3年で終わる、と続けたと報じられています。

メンバーは慌てたそうです。

菊池風磨は「絶対に作ろう」、寺西拓人は「早く作ろう」と反応したとのこと。

星ひとみが名前を挙げたのは、菊池風磨でした。

2025年1月の時点で、菊池風磨はリーダーではありません。

そもそもグループに、リーダーという役そのものが置かれていませんでした。

 

「風磨たち次第」という言葉は、役職のある人へ向けられたものではなく、先にデビューしている3人へ向けられたもの

名指しでもなければ、リーダーへの申し渡しでもありません。

そこへ、あとから名前と役職と態度の評価が書き込まれていく

いま起きているのは、たぶんそういうことなんです。

結果を知ってから見ると全部わかる

深読みしてしまうのは、その人が意地悪だからではありません

人の頭には、結果を知ったあとで過去の見え方が変わってしまう仕組みがあるからです。

 

これには名前が付いていて、後知恵バイアスと呼ばれています。

日本内科学会雑誌の2018年の記事に、弁護士による説明が載っていました。

後知恵バイアス(hindsight bias)という言葉がある。結果を知ったうえで検討すれば、「Bを選択すべきであった」という結論が導かれやすくなる。「後知恵バイアスは、どのような人にも、どのような場面でも、いつでも起こり得る」といわれている。後知恵バイアスは、不当な評価の温床になるとも指摘されている。

出典:日本内科学会雑誌 107巻5号(2018年)

どのような人にも、どのような場面でも、いつでも起こり得ます。

書いてあるとおりなら、気をつければ避けられるという種類のものではありません

 

同じ記事には、わかりやすい例も置いてありました。

将棋の棋士が熟慮のうえで指した一手が、勝敗が決した後に見ると「敗着の一手であった」と論評されることがあるが、それは結果を知ったうえでの後方視的な評価に過ぎない

出典:日本内科学会雑誌 107巻5号(2018年)

負けたあとに並べ直せば、どの一手も敗因に見えてきます

指したときには、まだそうではなかったのに。

この癖といちばん真剣に付き合っているのが、事故や医療のトラブルの原因を調べる人たちです。

さきほどの記事には、診療の中身を医学的に評価する場面では「事前的視点」「標準的診療の範囲」、そして「後知恵バイアスの排除」が重要である、と書かれていました。

悪い結果が出たあとに評価するのだから、後知恵は必ず入り込みます。

入り込むことを前提にして、先に外しにいく。

そういう手続きになっています。

乗り物の事故を調べる国の機関にも、似た決まりがありました。

なお、運輸安全委員会(以下「委員会」という。)の事故等調査は、事故等の責任の追及(apportion blame or liability)のために行うものではない。

出典:運輸安全委員会「事故等調査実施要領通則」

責任の追及のために行うものではない、という一文がわざわざ添えてあるんですね。

誰が悪かったのかを決めにいくと、なぜ起きたのかが見えなくなります。

そのことを、調べる側がいちばんよく知っているからなのでしょう。

 

わたしたちがニュースのあとに動画を遡るのは、調査でも裁判でもありません。

ただ、道具は借りられます。

古い映像が流れてきたときに確かめたいのは、この3つです。

  • いつ撮られたものか
  • その時点で、何が決まっていたか
  • その言葉は、誰に向けられていたか

今回でいえば、答えは1分もかからずに出てきました。

新メンバーの名前は、まだ決まっていません。

リーダーという役も、まだ置かれていませんでした。

向けられていた相手は、顔も名前もない「これから入ってくる人たち」です。

 

3つ埋めるだけで、あの数十秒は忠告というより、これから起きることを何も知らない人の心配だったと見えてきます。

その心配が当たっていたのかどうかは、まだ誰にも決められません。

本人はいま、容疑を否認しています

いま起きていることのほうは、まだ入口です。

報道によると、猪俣周杜容疑者は9月18日の午後10時半ごろ、東京都江東区辰巳のコンビニエンスストアの駐車場で、車の中にいた知人の20代女性の顔を殴るなどした疑いが持たれています。

女性は出血していて、コンビニの店員に助けを求めたことで事件がわかったそうです。

25歳の猪俣周杜容疑者は、9月19日に傷害の疑いで逮捕されました。

容疑者というのは、疑いをかけられて捜査を受けている段階の呼び方で、有罪が決まった人を指す言葉ではありません。

 

時事ドットコムによると、本人は「口論の末、手が当たってしまった」と話していて、容疑を否認しているとのこと。

所属事務所の関係者は、取材に「事実関係を確認しています」と答えたと報じられています。

 

何があったのかは、これから調べられるところ。

答え合わせをする材料そのものが、まだ出そろっていません。

それなのに過去の映像だけが先に答え合わせの道具にされているのは、順番が逆になっている気がします。

 

去年の1月、とんかつ屋の朝ごはんで交わされたのは、名前のない人たちへ向けた心配でした。

たしかに、いま読むと重く響きます。

ただ重いのは、言葉が未来を当てたからではなく、こちらが結果を知ってしまったからなんです。

あの数十秒をもう一度開くなら、日付のところだけ先に見ておきたいところですね。