「店が抜く金額とか税金の話とか一切すっぽ抜けてて笑うわ。」

キャバクラの売上の仕組みが話題になるたび、こういう声が必ず出てきます。

月の売上、2億3000万円。

コカイン所持の疑いで逮捕された人気キャバ嬢について、いくつもの報道がこの数字を見出しに掲げました。

ところが、そこから手取りがいくら残るのかは、見出しのどこにも入っていません。

 

今回は、あの数億円がどこで分けられて、税金がどこで引かれているのかについてわかりやすく解説していきたいと思います。


聞かれていたのは店の取り分と税金

逮捕の続報が流れるたび、ネットで伸びていたのは事件そのものへの驚きではありませんでした。

  • 店側の利益どうするん 一億使って貰っても一億返ってこないやろ
  • 税金どうすんの?
  • やってる事がまんまヤクザと同じスキームやん

金額に驚く声よりも、お金が最後どこへ流れていくのかを知りたがる声が並んでいます。

 

たしかに、シャンパンタワーも太客も何度も聞かされてきましたが、その先を説明してくれる人には、なかなか出会いません。

分からないままだと、知らない場所の出来事はぜんぶ「闇」という一語にまとめられてしまうんですよね。

 

2026年9月15日、東京・港区の自宅マンションでコカインおよそ0.4グラムを所持していたとして、「ヤマトリノ」として活動していた田沢梨乃容疑者と、交際相手で会社役員の男性が現行犯逮捕されました。

ここで出てくる「容疑者」というのは、疑いをかけられて捜査を受けている段階の呼び方です。

有罪が決まった人を指す言葉ではありません。

田沢容疑者は容疑を認めているものの、男性のほうは否認していると報じられています。

 

そして各社の見出しに、そろって並んだのがあの数字でした。

バースデーイベントのあった4月には、2億円以上を売り上げたといいます。

ちょっと想像がつかない額ですよね。

 

ただ、この数字を「一夜で」「1日で」と書いているものも、ネットには流れています。

報道はどこも、そうは書いていません。

TBS NEWS DIGは「月の売上2億円以上」、女性自身は「月の売り上げ2.3億円」、NEWSポストセブンは「月売2億3000万円」。

そろって「月の」です。

集英社オンラインの見出しに至っては「月間売上2億3000万を公言した」で、この数字が本人の公言だったことまで書いてありました。

 

ここで一つだけ、読み方を当ててみてください。

「売り上げた」とは書いてあります。

「稼いだ」とは、どこにも書いてありません。


2億3000万は財布の中身ではない

売上というのは、お店の会計を通った金額のこと。

指名した客がボトルを入れて、シャンパンタワーを頼んで、その伝票が誰の担当として計上されたか。

その合計が「売上」で、店に入ったお金そのものを指しています

つまりこの数字は、誰か一人の財布の中身ではありません。

 

では、そこから本人にいくら渡るのでしょうか。

この問いに、ネットで実際に電卓を叩いた人がいました。

サービス料を抜いて、店と折半して、税金を引いて、手取りは4100万円。

かなりの反応がありました。

ただし、この計算の前提が合っているかどうかは、外からは確かめられません。

実際、「小計が2億3000万では」という指摘を受けて、本人はあとから計算をやり直していました。

それでも、みんなが知りたがっている場所ははっきり見えます

売上そのものではなく、そこから先の話です。

これが外から見えないのは、渡し方が一つに決まっていないから。

税理士事務所の解説を読むと、この業界の報酬は大きく二通りに分かれると書かれていました。

一つは、雇われている人へ払う給与。

もう一つは、業務委託を受けた個人事業主への報酬。

そして、どちらとして扱うかの分かれ目まで、具体的に並んでいます。

  • タイムカードで勤務を管理しているか
  • 報酬を時給で計算しているか
  • 衣装代や美容院代を店と本人のどちらが負担しているか
  • 売掛金の回収責任が店と本人のどちらにあるか

言われてみれば、どれも「働いている人」と「商売をしている人」を分ける線ですよね。

 

給与の側へ寄っていれば会社員に近い形になりますし、報酬の側へ寄っていれば、自分で確定申告をする一人の事業者ということになります。

同じ店に立っていても、この線の引かれ方ひとつで、手取りはまるで別物

 

ちなみに、値段そのものには決まりがありました。

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律、いわゆる風営法の第17条です。

風俗営業者は、国家公安委員会規則で定めるところにより、その営業に係る料金で国家公安委員会規則で定める種類のものを、営業所において客に見やすいように表示しなければならない。

出典:風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律 第17条

見やすいところに料金を出しておきなさい、という条文でした。

値段は表に出す決まりがあるのに、分け前のほうには何も書かれていません

この落差が、そのまま「いくら残るの?」という疑問になって返ってきているのだと思います。


税金は受け取る前に引かれている

さて、もう一つの質問です。

税金は誰がいつ払っているのでしょうか。

これについては、実ははっきりした答えがありました。

所得税法の第204条第1項第6号に、ホステスなどへ支払う報酬は源泉徴収の対象だと書いてあるんです。

 

源泉徴収というのは、受け取る人が自分で納める前に、支払う側がその場で差し引いて国へ納めてしまう仕組みのこと。

会社員の給料から天引きされているあれと同じ形が、この業界にも用意されています。

しかも計算式が、ほかの職業とは違っていました。

国税庁が出している税金の解説ページ、タックスアンサーにはこう書かれています。

5,000円にその報酬・料金の「計算期間の日数」を乗じて計算した金額を差し引いた残額に、10.21パーセントの税率を乗じて算出します。

出典:国税庁タックスアンサー No.2807 ホステス等に支払う報酬・料金

式にすると、(支払金額-5,000円×計算期間の日数)×10.21%。

弁護士や税理士への報酬とも、原稿料とも違う、ホステス報酬だけのために用意された計算方法です。

 

数字を入れてみましょう。

1か月ぶんの報酬が75万円で、その月が31日あったとします。

5,000円×31日で15万5000円を引いて、残りの59万5000円に10.21%を掛けると、6万749円。

これが受け取る前に差し引かれて、店から国へ納められる金額になります。

1日あたり5,000円を引いてあげましょう、という控除が最初から組み込まれている形になっていました。

 

そして、差し引かれて終わりでもありません。

報酬として受け取っている場合は、給与ではなく事業所得の扱いになるので、確定申告は自分の仕事。

源泉徴収はあくまで概算の前払いなので、経費を引いた結果、払い過ぎていれば戻りますし、足りなければ追加で納めます。

衣装も美容院も、同伴の食事代も、仕事のために使ったものは経費として計上できるわけです。

逆に言えば、領収書を残していない人ほど、あとから苦しくなる作りでもあるんですよね。

夜の商売だから税金の話が無い、ということにはなっていません。

むしろ、受け取る前に国が先に取っていく形が、わざわざ用意されていました。


5000円の引き算で最高裁まで争った

5,000円の控除なんて誤差では、と思われたかもしれません。

ところがこの引き算、国と店が最高裁まで争ったことがあるんです。

 

争点は、式の中の「計算期間の日数」という言葉でした。

1か月分をまとめて支払う場合、この日数は出勤した日数なのか、それとも月の初日から末日までの全日数なのか。

出勤が月10日なら5万円、全日数の30日で数えるなら15万円。

控除できる金額が3倍変わるので、差はいくらでも膨らみます。

小さな引き算には見えません。

 

税務署は出勤日数で数えるべきだとして、追徴課税をしました。

一審も二審も、その言い分を認めています。

ところが2010年3月2日、最高裁はそれをひっくり返しました

「計算期間」とは期間の初日から末日までの連続した時間を指すのが自然な読み方であって、出勤した日だけを拾うものではない——そう判断して、納税者側の逆転勝訴で確定しています。

国税庁がいまも「営業日数や出勤日数ではなく」「全日数です」と書いているのは、この判決があるからでした。

 

夜の世界は決まりのない場所のように語られがちですが、実際には5,000円の引き算ひとつをめぐって、最高裁まで争いが持ち込まれています。

つまりこれは闇に包まれた業界の話に見えて、お金の分け方だけがやたら細かく決められている場所の話なんです。


使った側にも上限が決めてある

分け方が細かいのは、受け取る側だけではありません。

使った側にも、ちゃんと線が引いてありました。

会社の経費で飲んだ場合、それは法人税の世界で「交際費等」と呼ばれます。

 

国税庁の説明によると、接待のための飲食費は、支出した金額のうち「50パーセントに相当する金額を超える部分の金額」が損金になりません。

損金にならないというのは、会社の利益から引けないということです。

税金の計算の上では、使わなかったものとして数えられてしまいます。

そのぶん、法人税は減りません。

一晩で数百万円を使っても、経費として認められるのは、そのうち半分まで。

 

中小法人にはもう一つの選び方があって、「800万円にその事業年度の月数を乗じ、これを12で除して計算した金額」までを定額で落とせます。

年間800万円が上限、と読み替えると分かりやすいかもしれません。

さらに細かい線もありました。

参加した人数で割って1人あたり1万円以下になる飲食費は、そもそも交際費から除かれます。

この基準は以前は5,000円で、令和6年4月1日以後に支出するぶんから1万円へ引き上げられました。

 

1人1万円の線を越えた瞬間から、交際費の扱いになります

そこから先は、半分しか認められません。

「一億使って貰っても一億返ってこないやろ」という書き込みがありましたが、返ってこないのはお店に対してだけではなかったわけです。

なお、これはあくまで会社が経費として落とす場合の話で、自分のお金で飲んだぶんには関係ありません。


決まりがいちばん守られていない業種

こうして見ると、決まりはずいぶん細かいところまで及んでいます。

報酬の計算式があり、控除の日数が最高裁まで争われ、使う側の上限まで条文に書いてありました。

ところが、最後にもう一つの数字があります。

 

国税庁が毎年公表している「法人税等の調査事績の概要」という資料です。

令和6事務年度の別表には、不正が見つかった割合の高い業種が順位つきで並んでいました。

  • 1位 バー・クラブ 62.3%
  • 2位 その他の飲食 45.2%
  • 3位 外国料理 40.2%

同じ資料に載っている全業種の不正発見割合は23.5%です。

バー・クラブは、平均の2倍を大きく超えています。

 

しかも不正1件あたりの所得金額は4466万円あまりで、こちらも全業種の平均2336万円のおよそ2倍でした。

前年も1位で、この位置は長く動いていません。

ちなみにこの表は10位まであって、上のほうには飲食の業種がいくつも並んでいます。

 

同じ資料には、調査の進め方も書いてありました。

国税庁はAIを活用した予測モデルで調査の必要度が高い法人を抜き出していて、令和6事務年度の追徴税額は法人税と消費税を合わせて3407億円にのぼります。

直近10年で最高だったと書かれていました。

 

決まりが薄い場所なのではなく、決まりがあるのにいちばん守られていない場所だったわけです。

ネットが「闇」と呼んでいたものの正体は、たぶんそこにあります。

誰が悪いという話ではありません。

現金がその場で動いて、伝票の名義が人ごとに分かれていて、外から誰も全体像を見られないまま。

そういう作りの商売では、決まりを書いた紙と、実際のお金の動きが離れやすいんですよね。

2億3000万円という数字が最後まで宙に浮いて見えたのも、たぶん同じ理由です。

 

数字を見たときの驚きは、それはそれで自然なものだと思います。

ただ、驚いたあとに残っていたのは「すごいな」ではなく、「で、それは誰の財布の話なんだろう」という引っかかりでした。

次に大きな金額の見出しを見かけたら、その数字が売上なのか手取りなのかだけ、一度当ててみてくださいね。