2026年9月22日の夜、1枚の写真に付いた短い一言が、ネットで大きく広がりました。

「ド加工やないかい」。

Netflixの『ダウンタイム』で受付役を演じた人を紹介した投稿に、そう書き添えた引用です。

 

言われてみると、写真が加工されているかどうか、見ただけで分かるものなのか。

そして、加工そのものに決まりはあるのでしょうか。

探してみたら、ふだんSNSへ上げる一枚には何も見当たらないのに、ある種類の写真にだけ、罰則つきの法律が置かれていました。

今回は、写真の加工がどこから違法になるのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。

同じ一枚に正反対の答えが並んだ

あの一言にぶら下がった返信を読んでいくと、答えがまったく揃っていません。

「これ写真が悪いだけで、ネトフリでも普通に可愛かったけど?」

写真の写り方の問題だ、という受け止めです。

「元々雑誌のモデルさんだし加工無しの世界で生きてた中で、ダントツで可愛かった。加工つけたとて可愛いは可愛いのよ。」

こちらは、加工があるかないかを論点から外しています。

かと思えば、こんな返しもありました。

「逆に、加工してないと思ってみてたん?!!他の人ももしかして、ど加工じゃないとでも?!!!ピュアだね!!」

加工されているのが当たり前で、驚くほうがずれている、という立場ですね。

 

引用欄には、こんな声まで並んでいました。

「加工でも良くない???この顔になれるならメイクと加工教えて欲しい」

同じ一枚を見ているのに、受け止めがこれだけ散らばってしまいました。

そのなかに、いちばん素直な一行が混じっています。

「加工ばっかだと萎えちゃうよね。実物との差がどれくらいあるんだろう?」

差がどれくらいあるのか。

実物を知らないかぎり比べる相手がいないので、これは写真を何時間にらんでも出てこない問いでした。

 

どちらが正しいのか決めたくて返信を追っても、読み終えたときに残るのはもやもやだけ。

そしてそれは、読んでいる側の目が悪いからではなかったんです。

はじめにひとつだけ断っておくと、この記事は、あの一枚が加工かどうかを判定しません。

写っているのは仕事として役を演じた人ですし、顔の話に立ち入らなくても、引っかかったところには答えが出せます。

加工と画質は見ただけで分けられない

もう一行、見逃せない声が残っていました。

「映像で華があって可愛いから、動いてた方が可愛いから、加工した静止画より可愛いからだと思う」

動いているときと、止まっているとき。

同じ人でも、この2つはまるで別の見え方をしますし、しかも静止画は、こちらの手元へ届くまでに何度も形を変えているんです。

 

写真はふつう、容量を小さくするために細かい情報を捨てた形で保存されますし、画面をスクリーンショットで撮れば、そこでまた別の絵になります。

実際、今回の返信にも「なんでこういうアカウント中国語とかハングル字幕ついてる画像あげてんの?」という指摘がありました。

比べられていた一枚の出どころは、外からは確かめられません。

 

情報が落ちた写真は輪郭がぼやけて肌の細かい凹凸が消えますが、肌をなめらかに見せる加工も、やっていることは同じ向きでした。

劣化と加工は、見た目のうえで似た顔をしてしまう。

さらにややこしいことに、加工は特別な道具を用意しなくてもできるものになっていました。

ソニーのXperiaのヘルプガイドには、カメラの設定として「美肌効果」という項目が載っています。

説明は「肌がなめらかに見えるように撮影できます。」「フロントカメラでのみ有効です。」の2行だけ。

自撮りをする段階で、肌をなめらかにする道具がもうカメラの中に入っています。

どこまでが撮影で、どこからが加工なのか、境目は写真そのものの中に引かれていません。

法律が見ているのは売る側だけ

では、加工そのものを止める決まりはあるのか、広告の表示を決めている景品表示法を開いてみました。

第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。

一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し(略)不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

出典:不当景品類及び不当表示防止法(e-Gov法令検索)

いちばん頭に「事業者は」と書いてあって、この法律が見張っているのは、商品やサービスを売っている側の表示だけ。

同じ法律の第2条でも、事業者は「商業、工業、金融業その他の事業を行う者」と定められています。

誰かが自分の顔を加工してSNSへ上げることについては、探した範囲でも、それを止める条文が一行も見当たりませんでした。

売る側が線を越えたときには、その表示をやめるよう内閣総理大臣が命じることができる、と第7条に置いてあります。

止める仕掛けは用意されていて、それが向いている先も最初から決まっていました。

 

この法律が見ているのは、加工したかどうかではありません。

その一枚を、何のために置いたか。

売るために置いたのなら見られますし、そうでなければ見られないまま。

「ド加工やないかい」と言われたあの写真も、何かを売るために並べられたものではないので、この線の外側にありました。

同じ加工に罰則がついている場所

ところが、まったく同じ加工が罰則つきで名指しされている場所があって、それが美容医療の広告です。

今回のドラマが舞台にしている、あの世界ですね。

医療法の第6条の5は、こんな書き出しでした。

「何人も、医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して(略)広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示(略)をする場合には、虚偽の広告をしてはならない。」

主語が「何人も」なので、お医者さん以外の人が出した広告もここに入りますし、虚偽の広告をしたときの罰は、同じ法律の第87条に置いてありました。

6か月以下の拘禁刑、または30万円以下の罰金。

拘禁刑というのは、これまでの懲役と禁錮がひとつにまとまった呼び方です。

では、何が虚偽にあたるのか、厚生労働省が出している医療広告ガイドラインに具体例が並んでいます。

・加工・修正した術前術後の写真等の掲載

→あたかも効果があるかのように見せるため加工・修正した術前術後の写真等については、虚偽広告として取り扱う。

出典:医療広告ガイドライン(令和6年9月13日最終改正・厚生労働省)

「絶対安全な手術です!」と同じ並びに加工した写真が置かれていますが、もっと驚いたのは、その少しあとにある誇大広告の項目でした。

「撮影条件や被写体の状態を変えるなどして撮影した術前術後の写真等」を載せて効果を強調することも、誇大広告として扱う、と書いてあります。

照明の当て方や、顔の角度や、メイクの濃さ。

つまり、そこを動かしただけで、加工アプリを一度も開いていなくても線を越えてしまうということ。

 

名指しされているものは、写真のほかにもありました。

同じガイドラインには、広告の基準として「患者等の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告」も禁止されると書いてあります。

つまり「わたしはこれで変わりました」という声そのものが、治療の内容や効果を語っているかぎり、広告には載せられない決まり。

ふつうの買い物なら口コミが安心材料になるところ、この分野では逆を向いています。

さらに、同じガイドラインには「品位を損ねる内容の広告」という項目まで用意されていました。

例として挙がっているのは「今なら○円でキャンペーン実施中!」「期間限定で○○療法を50%オフで提供しています」といった、費用を強調した書き方。

安さで釣る形は医療の広告としてふさわしくない、という整理ですね。

厚生労働省は、美容医療を受けるときはリスクと副作用の説明を受けてから、と呼びかけています。

糖尿病の薬をダイエットに使う件への注意喚起ですが、後半の一文だけは美容医療ぜんぶに向いていますね。

写真ではなく写真のそばを見る

加工されているかどうかは、専門家なら見破れるのでしょうか。

ガイドラインの答えは、思っていたのとずいぶん違いました。

また、術前又は術後の写真に通常必要とされる治療内容、費用等に関する事項や、治療等の主なリスク、副作用等に関する事項等の詳細な説明を付した場合についてはこれに当たらない。

出典:医療広告ガイドライン(令和6年9月13日最終改正・厚生労働省)

ビフォーアフター写真そのものは、禁止されていません。

条件が付いているだけです。

条件が置かれているのは、写真の中ではなく、写真のそばでした。

  • 通常必要とされる治療内容
  • 費用等に関する事項
  • 治療等の主なリスク
  • 副作用等に関する事項

この4つの説明が付いていれば載せてよく、付いていなければ載せられないという形。

置き場所についても細かい注文が入っていて、リンクを張った先のページへ逃がしたり、利点や長所の情報と比べて極端に小さな文字で載せたりする形は採用してはならない、と書いてあります。

 

つまり、国は写真を見て加工を見破るという道を、最初から選んでいません。

見破れないことを前提にしたうえで、写真の外側に条件を置きました。

 

その条件が守られているかを見る係も、思ったより身近なところにいます。

厚生労働省は平成29年度から「医療機関ネットパトロール」という事業を続けていて、一般からの通報がその入口のひとつになっているんです。

始まったきっかけも、まさに美容の広告で、平成27年7月には消費者委員会が「美容医療サービスに係るホームページ及び事前説明・同意に関する建議」という意見を国へ出しています。

医療機関のホームページが原因のトラブルが続いている、という指摘。

通報が入ると、まず広告の決まりに触れていないかが審査され、触れていれば医療機関へ通知が届いて、直ったかどうかを2回まで確認する流れ。

それでも改善がなければ、所管の自治体へ情報が渡って指導へ進みます。

つまり、おかしいと思った広告を見かけたら、こちらから知らせる窓口もある、ということ。

 

令和8年3月の分科会に出された資料によると、令和7年度は2026年2月28日の時点で2092サイトが審査されていました。

そのうち1842サイトで違反が見つかっています。

2回の確認をしても直らなかった377サイトは、自治体へ回されていました。

違反の種類は8つに分けられていて、そのうちのひとつが「治療等の前又は後の写真等」です。

わざわざ独立した項目になっているところに、これまで繰り返されてきた歴史が透けて見えます。

写真を見て気持ちが決まったあとにも、確かめるところが残っていました。

写真のそばに4つの説明が並んでいるか、そしてそれが小さすぎたり、別のページへ飛ばされたりしていないか。

見るところは、この2つで足ります。

 

SNSに流れてきた一枚が加工なのかどうかは、決められる人がそもそもいないので、たぶんこの先も決まらないままでしょう。

ただ、お金を払うかどうかを決める写真には、ちゃんと条件が置かれていました。

次にビフォーアフターを見かけたら、写真ではなく、そのすぐ下を見てみてくださいね。

 

この記事で参考にした情報

  • 広告の表示の決まり/不当景品類及び不当表示防止法 第2条・第5条(e-Gov法令検索)
  • 医療の広告の決まりと罰則/医療法 第6条の5・第87条(e-Gov法令検索)
  • 虚偽広告・誇大広告・ビフォーアフター写真の条件/医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン・令和6年9月13日最終改正・厚生労働省)
  • 通報と審査の流れ、令和7年度の件数/ネットパトロール事業について(令和7年度)第7回 医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会 資料2・厚生労働省医政局総務課
  • カメラの美肌効果/Xperia ヘルプガイド「美肌効果を使用して撮影する」(ソニー)