闇サイトの免許証は1枚17万円|20円との差をわかりやすく解説

「最初は結構びっくりしたが、何企業も漏えいしてるから『またか』みたいな」
2026年10月16日のTBSのニュースで、相次ぐ個人情報の流出について聞かれた人が、そう答えていました。
この日も、ヤマト運輸、日経新聞、イエローハットと、流出の発表が続いていたそうです。
同じニュースは、流出した情報が並ぶ闇サイトの中まで見せていました。
そこで売りに出されていたのは、日本の運転免許証が1枚1050ドル、日本円でおよそ17万円というもの。
思いつきなんですが、ダークウェブに大量のダミー個人情報流せば流出した情報ってゴミにならないですかね。真面目にこれの可能性考えたい。
— やぐちはるお@LangCore VPoE (@haruo2177) 2026年10月8日
いっそニセの情報で埋めてしまえば、と考えたくなる気持ちはよくわかります。
ただ、闇サイトで免許証が売られているという話は10月の初めにも流れていて、そのときの値段は1枚20円ほどでした。
同じ日本の運転免許証で、20円と17万円。
今回は、この値段の差がどこから来るのかと、同じ日に銀行やタイムズカーが決めたことを、わかりやすく解説していきたいと思います。
20円の束と17万円の1枚
闇サイトというのは、ふつうの検索では出てこず、特殊な方法でしかたどり着けないサイトのことです。
20円という値段を伝えたのは、2026年10月3日に放送された日テレNEWSの番組『追跡取材 news LOG』でした。
中国語で書かれたサイトの過去の投稿に「日本の免許証1000枚」とあり、122ドル、1枚あたりにすると20円ほどだったそうです。
今や日本は、サイバー犯罪者にとって個人情報の大安売り市場と化している😮運転免許証の画像が1枚わずか20円なんだと。日本国民の顔も住所も生年月日も、闇市場では駄菓子以下の扱いだろこれ。企業は大量の個人情報を集めるだけ集めておきながら、盗まれれば「深くお詫び申し上げます」政府は政府で「…
— 佐藤誠(元警視庁捜査第一課) (@Makoto_OB) 2026年10月12日
ただしこの報道には、偽造されたものか本物かはわからない、という但し書きもついていました。
駄菓子以下、という言い方には、漏らした側への悔しさがにじんでいますよね。
ネットでも「俺の個人情報が10円とかで売られてたらショック」とこぼす人がいました。
ところが、TBSのニュースに映った値段は、桁がまるで違っていて。
7月にエステサロンの予約サイトの運営会社から流出したものとして、会員の名前や電話番号、住所などおよそ3300万件が、まとめて7万ドル、日本円でおよそ1100万円で売りに出されていたといいます。
つまり名簿は、件数をまとめた束で安く売られている形です。
いっぽうで、パスポートや免許証といった身分証には、1枚ずつ値段がついていました。
日本ハッカー協会の杉浦隆幸代表理事は、こうした身分証は流出した情報をもとに偽造されたものではないか、と見ています。
「運転免許証の漏えいした人のデータを使って、顔写真だけ全く知らない人の顔写真にする」
名前も住所も生年月日も実在する誰かのもので、顔写真だけが別人に差し替わった1枚が出来上がる、というのが杉浦代表理事の説明です。
20円のほうは、本物か偽物かも分からない画像の束でした。
17万円のほうは、他人の名前のまま使える身分証として、1枚ずつ売られています。
ダミーの個人情報を大量に流してゴミにする案も、名簿の束には届いても、この1枚にはあまり届かないのかもしれません。
ネットでは「皆んなの価値は17万円」と書いた人もいましたが、杉浦代表理事の見立てどおりなら、17万円は差し替えた顔写真の手間についた値段と見てよさそうです。
顔写真が差し替わると通るもの
では、顔写真を差し替えた免許証で、何ができてしまうのでしょうか。
杉浦代表理事は、これをもとに銀行口座やカードが不正に作られるおそれがあると話していました。
よし!こやつの免許証で口座開設してやろう
みずほ「既に開設済みです」
三井住友「同上」
UFJ「同上」
りそな「同上」
楽天、イオン、GMO、auじ、ソニー、PayPay……「同上」
何なんだよこいつ!!
なるほど……、ポイ活民は最強か……。— はるぽい (@harupoiyuru) 2026年9月30日
冗談めかした投稿ですが、他人の免許証で口座を作るという発想そのものは、冗談の中だけの話でもありません。
毎日新聞によると、オンラインの口座開設では、免許証の顔写真などと本人の容姿をスマートフォンで撮影して確かめる方法が使われてきたそうです。
見比べているのは、カードに写った顔と、カメラの前にいる人の顔が同じかどうか。
差し替えた顔が、その免許証を使う人自身の顔なら、カードの写真とカメラの前の顔は一致してしまいます。
しかも、書かれている名前や住所は実在する誰かのものなので、書類としてのつじつまも合ってしまうんですよね。
顔写真だけをわざわざ替えるのは、この見比べる確認を通るためだと考えれば、筋が通るんです。
あの値札は、顔写真を見比べる本人確認が、まだ通ることへの値段なのだと思います。
漏らされた側にとってやりきれないのは、作られる口座やカードが、免許証に名前が載っている人の名義になることです。
ネットにも「請求や犯罪に使われた罪が盗まれた奴のところに行くんだ!」と書く人がいました。
自分は何もしていないのに、知らないところで自分の名前だけが動いていく。
カーシェアのタイムズカーでは、およそ160万件で運転免許証などの画像まで外へ出たことが分かっていて、免許証を作り直す人も出ています。
警視庁によると、この件を受けて東京都内で免許証の再交付をした人は、およそ1500人にのぼるそうです。
10月16日に閉じ始めた入り口
あの値札が下がるとしたら、それは見比べる確認が通らなくなったときでしょう。
その動きが、同じ日に重なって出てきました。
あおぞら銀行はこの日、ネットでの口座開設で本人確認のやり方を変えると発表しています。
「スマートフォン等のカメラ機能でお客さまの容姿と本人確認書類を撮影、送信する本人認証方法」は10月28日で終わり、29日からはマイナンバーカードのICチップを読み取る形に切り替わるそうです。
発表文には、「運転免許証や運転経歴証明書はご利用いただけません」とまで書かれていました。
毎日新聞によると、みずほフィナンシャルグループとりそなホールディングスも免許証の顔写真を使った本人確認をやめる方針で、時期はまだ決まっていないとのこと。
金融庁もこれに先立って、こうした切り替えを前倒しするよう金融機関へ求めていたと日経新聞が伝えています。
もともと国は、画像を送って済ませる本人確認を2027年4月1日でやめると決めていました。
その期限を待たずに、銀行が先に入り口を閉め始めた形です。
日経新聞によると、前日には京都銀行も、アプリでの口座開設で免許証による確認をやめると伝えられていました。
なお、国の決まりで終わるのは免許証の写真を撮って送るやり方で、ICチップを読み取る形なら免許証も本人確認に使えます。
そのうえで、ネットの口座開設はマイナンバーカードだけにする、と決めたのが、あおぞら銀行でした。
さらに同じ日には、タイムズカーも免許証の画像の扱いを変えると発表しています。
【続報】タイムズカー、免許証などの本人確認書類画像の保有ルールを変更すると発表。
従来は本人確認、不正利用への対応、問い合わせ対応などを目的に、会員期間中と退会後7年間保有していましたが、今後は会員登録完了後に画像を保有しない運用に変更します。…
— カーシェアマニア (@carsharemania) 2026年10月16日
タイムズカーはこれまで、会員の免許証などの画像を、会員でいるあいだはずっと、退会したあとも7年間持ち続けていたそうです。
これを登録の確認が終わったらすぐに消すルールに改め、いま持っている画像も、本人の申し出があってもなくても10月末までに削除するとしています。
その仕組みを手がける側の見込みではありますが、ICチップを読み取る本人確認を提供するTRUSTDOCKの田﨑十悟執行役員は、日刊工業新聞の取材に「サービスの導入で偽造自体を止めることはできるだろう」と話していました。
もっとも、国の期限が来るまでは、撮影した画像で本人確認を受け付けるところもまだ残ります。
17万円の1枚が通る入り口は閉じ始めたばかりで、まだ閉じきってはいません。
まだ売られていない最近の流出分
では、ヤマト運輸や日経新聞のような最近の流出分は、もう闇サイトに並んでいるのでしょうか。
JNNのまとめでは、この3週間ほどで発表された情報漏えいは69社以上、1億件以上にのぼるそうです。
それでも杉浦代表理事によると、闇サイトでは最近の流出情報はまだ売られていないといいます。
まだ売られていないと聞くと、少しほっとしますよね。
けれど杉浦代表理事は、その理由として別の筋書きを挙げていました。
「身代金を要求するというのがあるかもしれません。『公開されたくなければ身代金を払え』と言ってくるかもしれない」
情報を返してほしければお金を払えと会社に迫り、応じなければ闇サイトで売る、という流れです。
もしそうなら、いまの静けさは、売り物がまだ交渉の途中にあるだけ、という見方もできます。
そのあいだにも、流出した情報そのものが使われるおそれは残ったまま。
「電話番号と生年月日が漏れればオレオレ詐欺が来たり、勝手に生年月日で認証されて、不正にログインされるケースもあるかもしれない」
全ての事業者へ。
個人情報を舐めすぎです。漏らしたら何が起きるか知らなさそうなので、1から教える。■名前・電話番号やメアド・利用サービス
→本名で呼んで、使ったことのある会社を名乗って連絡できる。「そこまで知ってるなら本物だろう」となり、詐欺に遭いやすくなる。…— 三日前 (@expokun) 2026年10月11日
自分の名前や使ったことのある会社を知っている相手からの連絡は、本物に見えてしまいがちです。
タイムズカーも同じ日のお知らせで、会社を装ったメールやSMS、電話に気をつけるよう呼びかけ、「当社がメール、SMS、電話等でパスワードやクレジットカード情報をお伺いすることはありません」と書いていました。
タイムズカーは、外部の専門機関による調査の結果を10月23日に改めて知らせる予定とのこと。
もうひとつ、すぐ見直せるのが生年月日の使い道。
情報漏洩これまで回避してきたけど、バーガーキングアプリの件はとうとうダメそう
でもアプリ内で生年月日入れるのが嫌すぎて嘘の生年月日にしてたから全損は回避か
— あすみら (@Mirako26sai) 2026年10月15日
嘘の生年月日で本当に守れたのかはさておき、誕生日そのものを暗証番号やパスワードにしているサービスがあれば、いまのうちに変えておくと安心ですね。
自分の名前で口座やカードが作られていないかは、信用情報の開示で確かめられます。
信用情報機関のCICなら、スマートフォンから手数料500円で申し込めるそうです。
「またか」と感じてしまうのは、それだけ流出の知らせが続いているからで、少しもおかしなことではありません。
同じニュースでは、「もうあまり動じなくなっている自分がいるのが一番怖い」と話していた人もいました。
慣れてしまうのは仕方がないとして、誕生日の暗証番号だけは、今夜のうちに変えておいてもいいかもしれませんね。
