星野源の安倍コメントは失礼だったのか|うちで踊ろう騒動の夜の一文

星野源が6年前にインスタグラムへ載せた短い文章の画像が、いまネットでもう一度回っています。
安倍晋三元首相が「うちで踊ろう」を使った動画を上げたときに、星野源が出したコメントです。
「犬笛吹いてほんとタチが悪い」と怒る声や、性格が悪いという声がつく一方で、「どこがふざけたコメントなんだろう」と首をかしげる人も少なくありません。
なんか星野源の過去の発言が掘り起こされてるけど、星野源って時代と共に価値観がどんどん更新されていて、過去の良くなかった発言を自ら反省してラジオやエッセイで「当時の発言は良くなかった、ごめんね」って言ってるのに、肝心の新しい方の意見は全く取り上げられないのムカつく〜〜!!
— くろむ (@khrom0966) 2026年10月15日
あの文章は、本当に失礼なものだったのでしょうか。
今回は、2020年4月のあの週に何が起きていたのかを並べ直しながら、星野源の安倍コメントが何を言っていたのかを読み直していきたいと思います。
出産発表のあとに掘り起こされた一文
2026年10月13日、星野源と新垣結衣が、第1子の誕生をそろって発表しました。
ネットには祝福の声が並びましたが、そのあとから、星野源の昔の発言を掘り起こす投稿も目立つようになっています。
なかでも議論になっているのが、6年前のインスタグラムの文章です。
いま回っている画像には、こう書かれています。
「ひとつだけ。安倍晋三さんが上げられた”うちで踊ろう”の動画ですが、これまで様々な動画をアップして下さっている沢山の皆さんと同じ様に、僕自身にも所属事務所にも事前連絡や確認は、事後も含めて一切ありません。」
末尾には、「この画像、リポストやツイート等して頂いて構いません」という一文も添えられていました。
怒っている人の中には、この最後の一文に引っかかる人が目立ち、「最後の一文がまた醜悪なんですよね」と書いた人もいます。
「犬笛」というのは、名指しをせずに自分の支持者をけしかける、という意味でネットで使われる言葉です。
反対に、「政治家に使われているけど自分は一切関わってないから無関係ですって立場をはっきりさせたかったんだと読み取れるコメントで適切じゃん」と受け取る人もいました。
冷たい突き放しとして読む人と、ただの事実の説明として読む人。
掘り起こしそのものに対しては、ファンの側からこんな声も上がっています。
星野源は最初こそ尖った発言や下ネタに全振りしてたが、時流を読み、人生を振り返り、経験と共に価値観を常にアプデしていきながらも、過去をなかったことにはせず、著書内で語り反省しながら変わっている方なので、過去の発言が叩かれてしまうことはあれど今の彼と同一視されるとチョマテヨ‼️となる
— ゆっこ (@Yukkonolife) 2026年10月15日
星野源の過去の発言をどう受け止めるかは、人によって違って当然でしょう。
ただ、あの文章を読む前に、あの文章が出た日に何が起きていたのかを先に押さえておきたいんです。
首相の投稿に添えられた星野源の名前
話は2020年4月にさかのぼります。
新型コロナウイルスの広がりで外出の自粛が呼びかけられていた4月3日、星野源はインスタグラムに「うちで踊ろう」の弾き語り動画を上げました。
そのとき添えたのが「誰か、この動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?」という呼びかけで、ミュージシャンから一般の人まで、たくさんの人が自分の演奏や踊りを重ねた動画を上げていったそうです。
文春オンラインが紹介した音楽家の解説にも、この動画は「音楽を愛し、表現を行う目的での二次利用を許諾するものだった」とあります。
星野源と面識がなくても、断りを入れずに誰でも重ねてかまわない形だったからこそ、輪が一気に広がっていきました。
その輪に、4月12日の朝、当時の安倍晋三首相が加わります。
首相の公式ツイッターに上がったのは、「友達と会えない。飲み会もできない。」という書き出しの投稿です。
添えられていたのは、星野源の弾き語りと並べる形で、自宅で愛犬を抱いたり、カップを手にしたりする首相の姿を映した、およそ1分間の映像でした。
友達と会えない。飲み会もできない。
ただ、皆さんのこうした行動によって、多くの命が確実に救われています。そして、今この瞬間も、過酷を極める現場で奮闘して下さっている、医療従事者の皆さんの負担の軽減につながります。お一人お一人のご協力に、心より感謝申し上げます。 pic.twitter.com/VEq1P7EvnL— 安倍晋三 (@AbeShinzo) 2020年4月12日
その次に上がった2本目の投稿の末尾には、「#うちで踊ろう #星野源 さん」というハッシュタグ。
首相の投稿に、曲を作った人の名前がはっきり添えられていたんです。
再生は、その日の夜までに100万回を超えたと報じられています。
ところが、返ってきた反応は温かいものばかりではありません。
返信には「休業補償もなく、休業要請された人はこんなに心にゆとりのある時間が持てるでしょうか?」といった声が相次ぎました。
数時間のうちに、「何様のつもり」「政治利用」という言葉がツイッターのトレンドに上がったそうです。
その矛先は、首相だけでなく、曲を作った星野源にも向かっていきました。
向けられたのは、首相と組んで話を進めていたのではないか、という疑いです。
当時を覚えている人の中には、「当時金銭が発生したコラボだろだの事務所と政府が計画したものだのそういう疑いが掛けられていたと記憶しております。」と振り返る人もいます。
首相の投稿に自分の名前が添えられ、しかもその投稿が「政治利用」と呼ばれている状態。
曲を作った側からすれば、黙っていると、関わっていたことにされかねない状況でした。
首相を特別扱いしなかった一文
星野源がインスタグラムにあの文章を出したのは、首相の投稿があった4月12日の深夜だったと報じられています。
書き出しは「ひとつだけ。」で、その言葉のとおり、この文章が伝えているのは、ひとつの事実だけ。
中心にあるのは「事前連絡や確認は、事後も含めて一切ありません」の部分です。
首相への評価も、政治についての考えも、どこにも書かれていないんですよね。
そもそも、首相の動画が出た瞬間から問われていたのは、星野源が関わっていたかどうかでした。
その問いに、関わっていません、と事実だけで答えています。
東洋経済オンラインも当時、この文章を「政治利用との批判を意識し、官邸との連携を明確に否定したものだ」と書いていました。
官邸というのは、首相とそのまわりで政府の仕事を回している人たちのことで、つまり政府と組んではいない、という意味です。
もう1つ、いま見落とされやすい言葉が、文章の真ん中にあります。
「これまで様々な動画をアップして下さっている沢山の皆さんと同じ様に」という一節です。
つまり、星野源は首相の動画を特別に扱っていません。
褒めてもいないし、やめてほしいとも書いていなくて。
あの数行は首相を突き放した文章に見えて、実は首相を「沢山の皆さん」と同じ列に並べただけの文章でした。
最後の「リポストやツイート等して頂いて構いません」も、この流れの中に置いてみると見え方が変わってきます。
というのも、関わっていない、という知らせは、首相の動画を見て疑った人のところまで届かなければ意味がありません。
広げてかまわない、という一文は、その届け先を広げるための言葉として読むこともできるでしょう。
当時から、この一文を怒りの表れとして受け取った人もいました。
星野源Instagram、安倍晋三の動画について「僕自身にも所属事務所にも事前連絡や確認は、事後も含めて一切ありません」。拡散希望としている辺り、かなり憤ってるな……。 #うちで踊ろう #DancingOnTheInside pic.twitter.com/0sSWkiUy0U
— 杏(あんず) (@anztolchock) 2020年4月12日
怒っていたのかどうかは、本人が何も書いていないので分かりません。
実際、翌13日の記者会見で、菅義偉官房長官は首相の投稿について「過去最高の35万以上も『いいね』をいただいて、多くの人にメッセージが伝わった」と話したと報じられています。
政府の発信の成果として数えられていく動画に、自分の名前が並んでいる格好。
星野源が置かれていたのは、そういう場所でした。
6年前も同じところで割れていた
いまの言い争いを見ていると、新しい論争が始まったように見えます。
ところが、2020年4月の投稿をさかのぼると、受け止め方は当時からほとんど同じ形で割れていました。
怒りの表れと見た人のほかに、「言う必要ある??自分からコラボ促して公開したくせに。」と書いた人もいれば、こんなふうに同情する声も見つかります。
星野源さん、とんだ災難だね。
「安倍晋三さんが上げられた”うちで踊ろう”の動画ですが、これまで様々な動画をアップして下さっている沢山の皆さんと同じ様に、僕自身にも所属事務所にも事前連絡や確認は、事後も含めて一切ありません。」 pic.twitter.com/pXNfZhyiXV— 本ノ猪 (@honnoinosisi555) 2020年4月12日
災難と見る人、怒りの表れと見る人、余計なひと言と見る人。
6年のあいだに変わったのは、文章に出てくる安倍晋三の立場でした。
2020年4月の安倍晋三は、現職の首相です。
官房長官が会見で「いいね」の数を挙げて語るほどの、国でいちばん大きな発信力を持った人でした。
その人の投稿に名前を添えられた側が、自分は関わっていませんと書く。
発信力の大きさで言えば相手は首相で、星野源はその投稿に名前を使われた側。
あれは、自分の立場を守るために出した文章だったんです。
その後、2022年7月8日、安倍晋三は奈良市で演説中に銃撃され、亡くなりました。
しかし、いまあの画像を見る人にとって、そこに書かれた「安倍晋三さん」は、亡くなった元首相です。
すると同じ一文が、もう言い返すことのできない人へ向けた、冷たい言葉のように見えてしまう。
文章は1文字も変わっていないのに、読む側にとっての安倍晋三だけが変わっています。
冷たいと感じる人が出てくるのも、この時間の差を思えば分からなくはありません。
画像だけを見ると亡くなった人へ向けた言葉のようにも見えますが、実際に書かれたのは、首相が自分の曲を使った動画を上げた、その日の深夜でした。
日付が消えると冷たく見える文章
いま回っている画像を見るかぎり、日付はどこにも入っていません。
首相の動画、休業の補償を求める声、「政治利用」のトレンド、投稿に添えられていた名前。
あの数行の前にあった出来事は、どれも画像の外へこぼれ落ちてしまいました。
しかも画像は、たいてい誰かの強い感想と一緒に流れてきます。
読む人が最初に受け取るのは、文章そのものより、添えられた誰かの強い言葉なんですよね。
今回の掘り起こしのなかで、こんな声を上げている人もいます。
過去のエッセイやラジオの発言やらを叩くポストが『そのまま』の転載や引用でなく、その人のお気持ちが乗っかってニュアンスや発言を炎上仕様に『改変・脚色』されてんのを目にする度に
確かにあなた方のような感性の言葉選びや解釈なら嫌だし、星野源本人はそうじゃなくて本当よかったと思うよ
— 十 (@cccnnnppp) 2026年10月15日
転載されるたびに、元の文章に誰かの受け止め方が上乗せされていく、という指摘でした。
古いスクリーンショットが流れてきたとき、確かめておきたいのは2つです。
- それがいつ書かれたものか
- その日、書いた人のまわりで何が起きていたか
とはいえ、確かめ方はそれほど難しくありません。
文章の中の特徴のある一節を、カギ括弧ごとXの検索窓に入れてみると、当時その文章を紹介した投稿や報道が古い日付のまま出てきます。
今回なら「事後も含めて一切ありません」と入れるだけで、2020年4月12日の深夜、日付が変わるころの投稿がいくつも並びました。
書かれたのが、首相の動画に自分の名前を添えられた日の深夜だったと分かるだけで、文章の重さはずいぶん違って見えてくるはずです。
星野源を好きか嫌いかは、人それぞれでかまいません。
それでも、あの数行を「性格が悪い」証拠として持ち出すには、日付という材料が抜けすぎていると感じてしまいます。
嫌いなままでもかまわないので、あの文章が書かれたのは首相の動画が出た日の深夜だったということだけは、一緒に覚えておきたいところですね。
