看護師が患者さんをスマホで撮ってSNSに載せていた、という騒ぎが、今度は福岡から出てきました。

2026年10月16日の昼前、暴露系のアカウントが「福岡県 某総合病院 看護師」として、病棟で撮られたとみられる画像を流しています。

同じような騒ぎはその数日前から続いていて、現役の看護師からもこんな声が。

ところが今回、返ってきた声には迷いが混じっていました。

責める声とほぼ同じくらい並んでいたのが、晒すのはダメだけど気持ちはわかる、と両方を言う声なんです。

病院の名前はまだどこからも出ておらず、いまのところ病院側の発表も見当たりません。

今回は、なぜこの件にかぎって「気持ちはわかる」が多いのかを、画像に書かれていた言葉と、夜勤の数字から整理していきたいと思います。

夜勤の画像に重ねられていた言葉

流れている画像は、写真が2枚と短い動画が1本です。

どれもインスタグラムのストーリーズ(ふつうは24時間で消える投稿)を、画面ごと写し取った形になっています。

1枚目は、病室の床に血の跡が広がり、そばに車いすが止まっている写真で、そこにはこんな文字が重ねられていました。

「入りから最悪でBADやったのに、休憩から帰ってきたらCPAでフルコードして、そのあとこれ、バルーンもぬかれとって帰りたがる患者対応に1時間、ルート自己抜針10回くそも夜勤すぎた、なんでこんな急変ひくんやろ」

聞き慣れない言葉が多いので、ひとつずつほどいておきます。

「入り」は勤務に入ったときのことで、「BAD」は最悪だった、くらいの意味。

CPAは心臓と呼吸が止まった状態で、フルコードは心臓マッサージなどの蘇生の手当てを、できるかぎり全部やるという方針のことです。

バルーンは、おしっこを外へ出すために体に入れておく細い管で、ルートは点滴の管を指します。

自己抜針は患者さん自身が点滴の針を抜いてしまうこと、急変は容体が急に悪くなること。

最初の写真の文字には、心肺停止の患者さんの蘇生にあたったあと、管を抜いて帰りたがる患者さんの対応に追われた、ひと晩のことが書かれていました。

2枚目の写真には「重症2人おるのに入院ふたり来てバルーンはいっとるのにおしっこ!で10秒おきに起き上がる人おるの勘弁しようよ」、動画には「なんで私の夜勤ってこうもふつー有り得んくらいの暴動くるん?」という文字。

 

気になるのは、画面の端にある日付です。

2枚目には「3月8日」、動画には「3月9日」と出ていて、年は書かれていません。

つまり、10月16日に出回ったからといって、10月に撮られたものだとはかぎらないんです。

投稿した人が本当に看護師なのかも、外からはまだ確かめられていません。

病院の名前を探す書き込みも出ていますが、いま分かっているのは、画像に写っているものと、そこに書かれた言葉だけです。

 

夜中に点滴を抜いたり、ベッドから降りようとしたりと、落ち着かなくなった患者さんへの対応を、現場では「不穏対応」と呼んでいるとのこと。

夜勤のあいだに看護師が何に追われているのかは、別の現役の看護師もこう書いています。

画像の文字に出てくるのも、まさにこういう夜でした。

 

夜勤の愚痴に写真は要ったのか

返信欄で意見の書かれた声をおよそ60件読んで分けてみると、患者さんを写したことを責めるだけの声が20件ほど、看護師の側に立つ声が10件ほど。

そして責める声とほぼ同じくらいの15件ほどが、両方を言っていたのでした。

  • 「晒すのは本当ダメだと思う。けど看護師も気持ちが限界なんだと思う」
  • 「晒すのはダメだけどこの状況、、、」
  • 「まぁとっても気持ちはわかるけど晒したら負け。」
  • 「辛い仕事なのは理解できるけど、患者さんを撮影するのは本当に理解できない。」

迷っているように見えて、この一言は、同じ投稿の中にある別々のものに、それぞれ答えているのだと思います。

 

「気持ちはわかる」が向いているのは、画像に重ねられた文字です。

「私の夜勤」「休憩から帰ってきたら」「1時間」「10回」。

どれも、書いた本人が過ごした夜の話でした。

「晒すのはダメ」が向いているのは、写真に写っていた患者さんです。

しかも3つの画像の文字は、どれも写真を外しても、言いたいことがちゃんと伝わる文章になっていました。

蘇生のあとに管を抜かれ、点滴の針を何度も抜かれ、帰りたがる人の対応に1時間。

夜勤のしんどさを伝えるのに、患者さんの姿は要りませんでした。

写真が加えたのは、写された患者さんの姿だけ。

その人は、撮られたことも、それがどこまで流れたかも、知らないままかもしれません。

 

看護師には、保健師助産師看護師法で「正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない」という決まりがあります。

ネットには、看護の仕事の流れをこう書いている人もいました。

「当直医に報告して、必要なら検査したり怪我してたら処置して、事故報告書かいて、家族に連絡して、とにかく仕事めちゃくちゃふえるんです」

文字にあった自己抜針は、本来なら事故報告書に書いて、医師や上司、家族へ伝えるはずの出来事なんですよね。

医療法施行規則という国の決まりでも、病院の管理者は「医療機関内における事故報告等」の仕組みを整えることになっています。

今回の文字は、その出来事を病院の報告書ではなく、スマホの画面の向こうへ向けて書いたものでした。

現役の看護師からは、こんな厳しい声も。

「しない」という信頼のもとで働いている、という一文が重く響きますね。

夜勤のつらさは数字にも出ている

それでも「気持ちはわかる」と書いた人たちには、ちゃんと根拠があります。

看護師の夜勤のきつさは、数字にもはっきり出ているんです。

日本看護協会は2013年に、看護職の夜勤・交代制勤務についてのガイドラインを出しました。

そこでは、1回の勤務で職場にしばられる時間は13時間以内、夜勤のあいだには2時間の仮眠を取ること、といった目安が並んでいます。

ただ、これはあくまで看護協会が示した目安で、守るかどうかは病院しだいです。

 

病院の夜勤には、1日を日勤と夜勤の2つに分ける「2交代」と、3つに分ける「3交代」があり、2交代のほうが1回の夜勤が長くなります。

医療の労働組合の連合体である日本医労連が2024年12月に発表した夜勤実態調査では、2交代の病棟の割合が50.7%で過去最多でした。

しかも2交代の職場の半数近くで、16時間以上の長い夜勤が行われていたそうです。

同じ会見で医労連は、人事院が1965年に国立病院などの看護師について「夜勤は月平均8日以内」「1人夜勤禁止」という判定を出していたことを挙げ、いまも人手不足で守られていないと訴えていました。

会見では、少ない人数で回す夜勤では、誰かが休憩に入ると残った人がすべてに対応することになる、という声も紹介されています。

 

最初の写真の文字にあった「休憩から帰ってきたら」は、まさにその時間の話です。

こういう夜を、別の看護師はこう書いています。

「気持ちはわかる」と書いた人たちが見ていたのは、この積み重ねでした。

ただ、夜勤がどれだけきつくても、写された患者さんの側の事情は何ひとつ変わりません。

 

消えるはずの写真が何か月もあとに出てくる

10月に入ってから、看護師が患者さんを撮った画像や動画をめぐって、病院の名前が出る騒ぎが続けざまに起きています。

千葉県松戸市の千葉西総合病院では、夜勤中に撮った動画が仲間内で回され、「地獄の館」「まじ暇」「臭すぎ」といった文字が付けられていたと報じられました。

病院は撮影に関わった2人を懲戒解雇にしています。

札幌市のJR札幌病院では、勤務して1年未満の看護師2人が、私物のスマートフォンで、本人や家族の同意なく患者さんを撮ってSNSに載せていました。

看護師は「面白半分で」と話したそうです。

大阪の医誠会国際総合病院では、7月と8月に病院が公表して対応を終えていた件が、10月になってあらためて広まりました。

 

こうして並べると、今回の福岡の件には、はっきり違う点も。

ネットにも「こないだの患者をバカにしてたやつらとは まったく違う印象」という声がありました。

これまでの件に付いていたのは、笑いやからかいの文字。

今回の文字は、夜勤の悲鳴です。

それでも、写された患者さんの側から見れば、違いはどこにもありません。

 

そして、どの件にも共通しているのが、写真の寿命の長さです。

北九州市の芳野病院は、2025年1月ごろに院内で撮られた写真がインスタグラムに非公開で投稿され、それが2026年4月になって別のSNSで取り上げられたと発表しています。

知り合いだけに見せる、24時間で消える。

撮った本人がそう思っていた画像ほど、何か月もあとに、まったく知らない人の画面に出てきます。

今回の画像に3月の日付が残っているのも、同じ流れの上にあるのでしょう。

芳野病院は再発防止策に、院内でのスマートフォンなど私物の持ち込みと使い方のルールを厳しくすることを挙げていました。

「看護師って私用スマホ持ち歩ける環境?」と首をかしげる人もいましたが、スマホの持ち込みのルールは、病院ごとにまちまち。

しかも暴露系のアカウントは、10月13日から16日まで、1日に1つずつ別の病院の件を出しています。

 

いま画像は、Xのタイムラインを通じて、もとの投稿を見ていなかった人の目にまで。

ネットには「あなたも晒してる同罪だよ」と、暴露する側へ向けた声もありました。

写されていた患者さんは、Xの上でもう一度写されています。

「気持ちはわかる」と書いた人の多くが、同じ一文の中で「でも晒すのはダメ」と書き足していたのも、写されたのが自分の家族だったらと考えたからでしょう。

看護師さんのしんどい夜も、写された人の静かな夜も、どちらも守られてほしいですね。