「ヤマトリノ」の名前で知られる、六本木の人気キャバ嬢でインフルエンサーの田澤梨乃被告。

コカインを持っていた疑いで逮捕されてから、1か月がたちました。

そこへネットに流れてきたのが、「自分も3ヶ月勾留された」という人の書き込み。

勾留が1か月を超えると「どんなにメンタルが強い人間でも確実に壊れる」とあり、部屋は「2人部屋で1人たった一畳」なのだそうです。

これには、自分も入っていたという人たちから「2人で1畳なわけがない」「私が留置されてたところは3人部屋で6畳くらいでした」と反論が続き、「1ヶ月とか経ったら慣れてくるわ」という声まで出ています。

逮捕のころから、初犯なら20日ほどで出てこられるという見方に、待ったをかける投稿もありました。

今回は、留置所生活の部屋の広さと相部屋の決まり、そして「1か月」という数字の重さを、法律と国の資料で確かめていきます。

「1人1畳」は狭すぎるのか

「2人部屋で1人1畳」と「3人部屋で6畳」では、同じ留置所の話とは思えないほど開きがありますよね。

実は、警察の留置施設の部屋には広さの目安があります。

法務省のサイトに載っている「留置施設における処遇改善」という資料によると、1980年以降に作られた部屋は「個室4平方メートル」「共同室は1人あたり2.5平方メートル」が基準とのこと。

畳1枚はおよそ1.6平方メートル前後なので、相部屋でも1人あたり畳1枚半ほどが目安になります。

 

6畳を3人で分けると1人2畳ほどで、反論していた人の部屋は、この基準とおおむね重なりますね。

「1人1畳」のほうは、基準より狭い数字です。

ただ、この基準は1980年以降に作られた部屋のもので、それより前の部屋まで全部この広さだとは言い切れず、書いた人のいた部屋が狭かった可能性までは消せません。

広さの数字より先に、トイレやにおいを挙げる人もいます。

夜はトイレの水が流せず、朝には部屋がにおいで満ちて、外もまったく見えない暮らし。

この投稿でつらさとして並んでいるのは、部屋の狭さよりも、そこでの暮らしの中身でした。

 

書き込みにあった「24時間監視される異常なストレス」にも、国の資料に近い一文があります。

看守台を扇の要に置いて部屋を扇形に並べると見張りやすい一方で、「被留置者に常時監視下にあるとの無用な圧迫を与えるおそれがある」と書かれていました。

そのため1980年以降に新しく作る留置施設では、部屋をまっすぐ一列に並べる形へ改め、部屋の正面には高さ1メートルほどの不透明な板を付けて、中の人が少しは人目を避けられるようにしたとのこと。

見張られ続ける重さは、作る側もはじめから承知していました。

 

相部屋は法律では例外だった

書き込みには、もうひとつ気になる一文も。

「今の時代精神疾患者以外は相部屋になる」。

ところが、留置施設のことを決めている法律を開くと、書き方は逆向きなんです。

刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律によると、判決の出ていない人はひとりで留置するのが原則で、相部屋にしてよいのは、証拠をつぶすおそれがないと認めたときに限られます。

条文そのものは「罪証の隠滅の防止上支障を生ずるおそれがないと認められる場合に限り、居室において単独の留置をしないことができる」という、二重否定のような言い回し。

裁判を待つ人が入る拘置所についても、同じ法律に「できる限り、単独室とする」と書かれています。

 

それでも、ヤマトリノ本人は相部屋のようです。

デイリー新潮(10月6日配信)によると、捜査関係者の話では本人は原宿警察署の6階にある女性専用の留置施設にいて、留置場の様子を知る人物は「他の女性被疑者と雑居状態」と話しています。

起訴されたあとも警察署にいられるのは、同じ法律が、拘置所の代わりに警察の留置施設に置いておくことを認めているため。

条文の上の原則と、本人が過ごしている部屋の姿は、ずいぶん違って見えます。

では、ひとり部屋なら楽なのかというと、そうとも言い切れません。

周りの部屋は「全てが2人以上」で、自分だけがひとりだったという人は、「人間は孤独に耐えれるようにできていない」と書いています。

相部屋なら書き込みにあったとおり「赤の他人と膝がぶつかる距離」で過ごし、ひとり部屋なら誰とも話せないまま一日が過ぎていく。

どちらの部屋にも、それぞれの重さがあるのでしょう。

20日を過ぎると終わりの日が消える

では、「1か月で壊れる」という数字のほうはどうなのでしょうか。

反論の中には「最初の数週間が地獄で1ヶ月とか経ったら慣れてくるわ」という声もあって、入っていた人どうしでも感じ方は割れています。

ただ、つらさの境目として日数を挙げている人の投稿を見ていくと、似た数字が出てきました。

この投稿は「22日以上」で、先ほどのトイレの投稿は「20日で普通気が狂う」。

2人とも、20日あたりを境目に挙げていました。

この20日という数字は、法律の区切りとぴったり重なります。

刑事訴訟法では、逮捕のあとの勾留は最初が10日まで、延長しても合わせて20日までで、そのあいだに裁判にかけるかどうかが決まる仕組みです。

 

ところが、起訴されて被告になると、決まった終わりの日がなくなってしまいます。

被告というのは、起訴されて裁判にかけられる立場になった人の呼び方で、起訴のあとの勾留は起訴の日から2か月、そのあとは1か月ごとに更新できる形へ。

保釈が認められないかぎり、いつ出られるかはカレンダーの日付では決まらないんですよね。

2人が書いた20日あたりは、ちょうどカレンダーから終わりの日が消えるところと重なっているのかもしれません。

ヤマトリノは10月6日に持っていた罪で起訴されていて、少なくともその分は、もう終わりの日が決まっていない側にいます。

翌7日に使っていた疑いで逮捕し直された分は、起訴するかどうかの判断がまだ報じられていない段階です。

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壊れる前に誰か見ているのか

「確実に壊れる」と言い切られると、中で誰も気づいてくれないのかと心配になりますよね。

部屋の決まりと同じ法律は、留置施設では「被留置者の心身の状況を把握することに努め」るとしています。

そのうえで、おおむね1か月に2回、医師による健康診断を行うと定め、けがや病気の疑いがあれば速やかに診療することまで書いているんです。

 

書き込みにあった「21時就寝で7時起床」も、法律では、食事や就寝の時間帯をそれぞれの施設の責任者が決めて伝えることになっていて、全国一律の時刻ではありません。

あわせて、読書のような「知的、教育的及び娯楽的活動」を手助けするよう努めることも、責任者の務めとして書かれています。

「何もない日は時間を持て余す」と書いていた人の声と、ちょうど向き合う一文です。

それでも、決まりがあるからといって、つらさまで消えはしないでしょう。

朝ごはんの前の歯みがきの順番を聞いても「こういうきまりなので」とだけ返ってくる、という投稿もあります。

1か月で慣れたという人も、壊れると書いた人も、話しているのはそれぞれが過ごした部屋の日々のこと。

「1人1畳」かどうかより、終わりの日が見えるかどうかで、同じ1か月の重さは変わるのかもしれませんね。