1万8922件の応募から、timeleszの新メンバー5人を選んだオーディション「timelesz project」(通称タイプロ)。

その最中から、事務所は猪俣周杜の女性関係を懸念していた、と週刊文春が伝えています。

懸念していたのなら、なぜ入れたのか。

ネットでいちばん多く見かけるのは、この声でした。

今回は、加入前に事務所が確かめていたことと、入る前の人をどこまで調べられるのかについて、わかりやすく解説していきたいと思います。


無料で読めるのは懸念の一行まで

「懸念してたのならなぜ入れた?」

「あれだけ大きい事務所でも身辺調査とかしないんだ」

この話が流れてきたとき、真っ先にそう思った人は多いはずです。

懸念していたなら止められたはずで、止めなかったのなら事務所にも責任があるのでは、と考えたくなるのは自然なことですよね。

 

2026年9月18日の夜、東京都江東区のコンビニに、鼻から血を流した女性が「彼氏に殴られた!」と駆け込んできたと報じられています。

翌19日の朝、26歳の女性へのけがの疑いで逮捕されたのが、猪俣周杜でした。

9月25日の夕方に処分保留で釈放されましたが、捜査は続いていて、刑事上の処分はまだ決まっていません。

処分保留というのは、起訴するかどうかをまだ決めないまま、いったん身柄を解くことです。

そのうえで、所属していたSTARTO ENTERTAINMENTは9月30日付で専属契約を解除し、10月1日にそれを発表しています。

 

懸念の話が出てきたのは、週刊文春が9月30日に有料の電子版で出した記事です。

10月2日には、誰でも読める文春オンラインに一部が転載されましたが、その無料部分は、ちょうどこの一文で終わっていました。

「その一方で、オーディションの最中から所属事務所のスタート社は猪俣の女性関係を懸念していたという。《続く》」

その先は有料です。

誰が、いつ、どんな形で懸念していたのかは、無料で読める範囲には書かれていません。

 

有料部分の中身として、ピンズバNEWSが10月4日に伝えているのは、オーディションの2次審査での一場面でした。

timeleszのメンバーで審査にも加わっていた菊池風磨が「彼女いんの?」と聞き、猪俣周杜は「いる」と認めた。

そのうえで「けじめ」をつけられるかと問われ、つけると約束した、という証言です。

 

選考の中心にいた菊池風磨に「どうして選んだの?」という声が集まっているのも、この流れの上にあります。

疑いの目を向けたくなるのは、無理もありません。

ただ、懸念されていたのは、本当に今回のようなことだったのでしょうか。


聞かれたのは彼女がいるかどうか

2次審査で菊池風磨が聞いたのは「彼女いんの?」で、審査の場で確かめられたのは、恋人がいるかどうかでした。

事務所の懸念の中身が無料部分では読めない以上、外から分かるのはここまでです。

アイドルにとって交際が明るみに出ることは、昔から仕事の上での大きな心配ごとでした。

だから聞いて、いると分かったからけじめを求めたのは、選考の場としては筋の通った順番に見えます。

けじめをつけるという約束も、確かめる手段は本人の言葉しかありません。

ところが、今回問われているのは、交際相手へのけがの疑いでした。

恋人がいることと、恋人にけがをさせた疑い。

同じ女性関係という言葉でも、中身はまったく別の話です。

 

文春オンラインの無料部分には、猪俣周杜がオーディションの前に活動していたグループ「8iper」について、当時を知る業界関係者のこんな言葉も載っていました。

「天然ボケの愛されキャラで、素行にも問題はなかったんですが……」

言葉は「……」で途切れたまま、記事の話題はグループを抜けたときのことへ。

STARTO ENTERTAINMENTの発表文は、残る7人のメンバーについて「今回問題となっている行為を事前に把握しておらず、関与もしておりません」と書いたうえで、こう続けています。

「弊社が現時点で確認している限り、これを具体的に予見できるような兆候を認識していた事実も確認されておりません」

発表文はこのほかにも、契約解除は会社としての経営判断で、その7人に委ねたものではないと、かなり丁寧に書き分けてあります。

並べてみると、今回問われているのは、審査では聞きようのなかったことでした。

二人きりのときの振る舞いは、外から確かめようがありません。

 

恋人の有無なら、本人に聞けば答えが返ってきます。

でも、二人きりの部屋や車の中で何が起きるかは、本人に聞いても分かりません。

面接のたびに「あなたは恋人に手を上げますか」と聞いたところで、正直に答える人はまずいないはずなんですよね。

 

もちろん、今回のことで何があったのかは、まだ捜査の途中です。

そこを外から決めつけることはできません。


逮捕歴は本人の同意なしに取れない

では、もっと深く調べることはできなかったのでしょうか。

頭に浮かぶのは、ネットにも出ていた「身辺調査」という言葉。

会社が入る前の人の過去を調べられる範囲は、法律でかなり狭く決められています。

 

まず個人情報保護法は、とくに気をつけて扱うべき情報を「要配慮個人情報」と呼んでいて、その中に「犯罪の経歴」が入っているんです。

細かい中身を決めた政令を見ると、逮捕や勾留、起訴といった刑事の手続きを受けたことまで、この中に含まれていました。

不起訴になった場合も同じ扱い、というのが国の個人情報保護委員会の説明です。

そして同じ法律の第20条2項は、会社がこうした情報を「あらかじめ本人の同意を得ないで」取得してはならない、と定めています。

有罪の記録どころか、逮捕歴でさえ、本人に黙って集めることはできない仕組み。

同意をもらわないかぎり、事務所は候補生の過去の逮捕歴を調べることすらできません。

例外として同じ条文が挙げているのは「法令に基づく場合」などにかぎられます。

たとえば2026年12月25日に始まる「こども性暴力防止法(日本版DBS)」は、学校や保育所などで子どもに接する仕事に就く人について、特定の性犯罪の前科を国の仕組みを通して確認させる法律です。

裏を返せば、法律で決めておかないかぎり、仕事に就く人の前歴は確かめられないということ。

アイドルのオーディションに、そういう決まりはありません。

 

しかも同意を求めた時点で、応募してきた全員に「あなたの過去を調べます」と伝えることになり、オーディションの形そのものが変わってしまうでしょう。

会社員の採用でも、考え方は似ています。

厚生労働省は、公正な採用選考のために配慮すべきことの一つとして「身元調査などの実施」を挙げていて、適性や能力と関係のないことで採否を決めないよう求めているんです。

 

アイドルのオーディションにこの採用の考え方がそのまま当てはまるとは限りません。

それでも、こっそり過去を洗うことが許されていないのは同じです。

加えて、今回の応募は1次と2次の審査でふるいにかけられ、3次審査へ進んだのが36人、2025年2月に新メンバーとして発表されたのが5人でした。

3次審査の手前まで残った候補生の1人は、当時こんなふうに振り返っています。

もう一つ、法律とは別の壁も。

内閣府が2023年度に行った調査では、交際経験のある人の18.0%、女性にかぎると22.7%が、交際相手から暴力などの被害を受けたことがあると答えています。

配偶者から被害を受けた人でも、44.2%はどこにも相談していませんでした。

これは一般の統計で、今回の件とは関係なく集められた数字です。

ただ、恋人や夫婦のあいだのことは、多くが誰にも話されないまま終わっているということは分かります。

話されていないことは、どれだけ調べても記録に出てきません。

同意を取って調べたとしても、見つかるのは記録に残ったものだけなんですよね。

身辺調査をすれば防げた、と言い切るのは難しいんです。

 

この数字を読んで、自分や身近な人のことが頭に浮かんだ人もいるかもしれません。

恋人や家族のことで悩んでいたら、内閣府の「DV相談+」が、電話(0120-279-889)なら24時間、チャットなら正午から夜10時まで相談を受けつけています。

配偶者だけでなく、パートナーからの暴力についても相談できる窓口です。


契約に書かれていた解除の条件

入る前に全部を確かめられないのだとすると、残るのは、入ったあとの決まりになります。

STARTO ENTERTAINMENTは、猪俣周杜本人への聞き取りや事実関係の確認をしたうえで、「専属契約上の重大な違反」があると判断しました。

それが「契約に定める解除事由」に当たるとして、9月29日の取締役会で契約の解除を決めています。

 

発表文には、この判断は刑事処分とは別に、契約に基づいて決めたものだとも書かれていました。

契約の中身そのものは公表されていないので、どの条項に当たったのかまでは分かりません。

それでも、刑事の処分が決まる前に、会社は契約の中に書かれた条件をもとに線を引きました。

 

入口で確かめきれないぶん、出口の条件を先に契約へ書いておく形になっている、と読めます。

発表文の書き出しは、けがをした女性への「被害を受けられた方に対しまして、改めて心より深くお詫び申し上げます」という謝罪でした。

最後には、所属するタレント全員へ考え方を徹底させるため会社としての取り組みを広げていくことと、猪俣周杜本人と被害にあった女性への過度な取材や誹謗中傷を控えてほしいことも書き添えてあります。

 

この「入る前には見抜けないことがある」という前提は、芸能界だけに当てはまるものでもありません。

職場でも学校でも、面接で分かるのは、本人が話したことと記録に残ったことまで。

だから会社は、就業規則や契約書に、入ったあとで守ってもらうことと、守られなかったときの扱いを書いておくものです。

懸念していたのになぜ、と言いたくなる気持ちは、とても自然なものだと思います。

でも、懸念されていたのは恋人がいるかどうかで、問われているのは二人きりの場所で何があったかでした。

次に同じようなオーディションがあったら、選ぶときに何を聞いたかより、入ったあとに何を約束したのかを見てみたいところですね。