キオクシアの株を前の日に全部売ったのに、証券会社から「794,491円入金してください」と求められた、という投稿があります。

キオクシアは、スマホやパソコンのデータを記録する半導体メモリを作っている会社です。

このところその株価が大きく下がり、ネットには投資から「退場」したと書く投稿が次々に流れてきました。

売って終わったはずなのに、まだ終わっていないんです。

この人の請求は79万円ほどですが、もし数百万から数千万円の借金を抱えたら、このあとどうなるのか。

自己破産はできないと聞くけれど、それは本当なのか。

少しでも株をやっている人ほど、画面の向こうの話とは思えずにひやりとしますよね。

今回は、信用取引で借金が残る仕組みと、自己破産で実際に起きることを、わかりやすく解説していきたいと思います。

全部売ったあとに届いた入金の連絡

冒頭の投稿の人は、持っていた株を前の日にすべて売ったそうです。

それでも翌日には、足りないお金を入れてほしいという連絡が来ていました。

添えられた画面の見出しは「不足金に関するご連絡」。

株を買うお金の一部を証券会社から借りる信用取引では、こういうことが起きます。

信用取引は、手元のお金や株を担保として預け、足りない分を証券会社から借りて、手持ちの何倍もの金額で株を売り買いできる取引です。

マネックス証券の説明では、預ける保証金は取引額の30%で、それが取引額の20%を下回ると、追証と呼ばれる追加の保証金を入れるよう求められます。

期日までに入れられなければ、原則として次の営業日の朝いちばんに、持っている株がすべて強制的に売られる決まりなんです。

勝手に売られるのは悔しいものですが、損がそれ以上ふくらむのを止める決まりでもあります。

ただ、株価が短いあいだに大きく下がると、売った代金と預けていたお金を足しても、証券会社から借りていた分に届かないこともあって。

その足りない分が、証券会社への借金としてそのまま残ります。

同じマネックス証券のページにも、「元本を上回る損失(元本超過損)が生じることがあります」とはっきり書かれていました。

 

言論サイトのアゴラによると、キオクシアの株価は10月末には1万5000円前後だったのが、11月5日には9324円まで下がっています。

会社の業績そのものは絶好調だとその記事は書いていますが、その後も、アメリカで半導体の銘柄がそろって急落した流れを受けて、さらに大きく値を下げたと財経新聞は伝えていました。

借金として本当に残るのは、強制決済でも埋まらなかった不足金と、追証を払うために別のところから借りたお金のふたつです。

追証を払うためにカードローンで借り重ねたという画面も、ネットでは出回っていました。

もっとも、「退場」と書いている人の全部が、借金を抱えたわけではありません。

アゴラが紹介していた投稿にも、3000万円を失ったものの「追証になる前に撤退したから、大損害であるものの生活に支障をきたすことはなかった」と書いた人がいました。

 

では、借金が残った人が払えないまま何もしなかったらどうなるのか。

お金を貸した側が裁判を起こして認められれば、給料の差し押さえへ進むことがあります。

それでも民事執行法は、給料の4分の3にあたる部分を差し押さえてはならないと定めていて(給料が多い人は、守られる額に上限があります)、暮らしの分まで丸ごと持っていかれる仕組みにはなっていません。

とはいえ、数千万円を給料の一部で返し続けるのは、現実的な道とは言いにくいところ。

そこで頭に浮かぶのが、自己破産という言葉なんですよね。

 

「自己破産できない」と言われる一行

ネットでは、信用取引の借金は自己破産しても許されない、という声が出ています。

まず押さえておきたいのは、自己破産にはふたつの段階があることです。

財産を処分して貸した側に分ける「破産」と、残った借金の支払いを免れる「免責」で、問題になるのは後ろの免責。

破産法252条1項は、免責を許可しない理由をずらりと並べていて、その4号にはこう書かれています。

「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。」

弁護士ドットコムニュースの記事(2018年1月13日配信)では、西岳郎弁護士が、手持ちの何倍もの取引ができるFXについて、ギャンブルのような側面もあるとしてこの4号を挙げていました。

仕組みのよく似た株の信用取引も、同じ目で見られると考えておいたほうがよさそうです。

やっぱり無理なのか、と思ってしまいますよね。

ところが、同じ条文の2項には続きがあります。

「前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。」

これが、裁量免責と呼ばれている仕組みです。

政府のギャンブル等依存症対策の会議に、司法書士の団体の役員が出した資料(2022年2月)にも、ギャンブルなどの借金について「実際は余程悪質でない限り、債務者本人の反省のほか様々な事情を考慮して、債務者がギャンブル等をしていても、裁量により免責が許可されている」とあります。

西弁護士も同じ記事で、「実際の運用上、裁量によって免責が受けられるケースは非常に多いのです」と話していました。

条文が言っているのは「できない」ではなく、「事情を全部見たうえで、裁判所が決める」ということだったんです。

 

では、免責が認められたら、残った借金は誰がかぶるのでしょうか。

同じ疑問は、ネットでもそのまま投げかけられていました。

答えは、お金を貸していた証券会社などの側。

FXのような借金で破産するときは、免責してよいかを確かめるために、破産管財人がつく「管財事件」になるのが一般的だそうです。

破産管財人というのは、裁判所に選ばれて、破産する人の財産や借金ができた経緯を調べる弁護士のこと。

分かれ目は負けた額より負けたあと

では、裁判所はいったい何を見て決めるのでしょうか。

西弁護士は、ギャンブルによる借金で免責が許可されやすい人として次の3つを挙げ、FXも同じだと考えられるとしています。

  • 過去を十分に反省している
  • いまはギャンブルを断って、堅実な生活を送っている
  • 破産管財人の業務に十分に協力している

3つのどれにも、いくら負けたかは入っていません。

見られているのは、負けたあとにどうふるまったか、なんです。

2つ目に近いことを、強制決済のその日に書いていた人もいます。

同じ252条を見ても、免責を許さない理由として並んでいるのは、ほとんどが財産を隠す、帳簿を偽る、裁判所や管財人にうそをつく、といった手続きの中でのふるまいでした。

負け方そのものを書いているのは、4号だけ。

たとえば、借りた先を債権者の名簿から外すのも、うその名簿を出したことになり、この並びのひとつに数えられています。

証券会社への不足金があったり、追証のためにカードローンを重ねていたりしたら、その借り先は全部、隠さずに書き出すのが前提です。

ネットでは「1回目なら大丈夫」という声も見かけましたが、条文が区切っているのは回数より年数で、前の免責から7年以内の申し立ては、それだけで許可しない理由のひとつに入ります。

 

それから、免責とは別にもう1つ、知っておきたい道が。

個人再生という、裁判所を通して借金を減らしてもらい、残りを分けて返していく手続きです。

こちらを定めた民事再生法には、「浪費」も「賭博」も「射幸」も、一度も出てきません。

使えるのは、住宅ローンを除いた借金が5000万円以下で、この先も収入を得られる見込みがある人。

借金が3000万円以下なら、返す額は原則として借金の5分の1で、それが100万円より少なければ100万円、300万円より多ければ300万円に収まります。

3000万円を超えて5000万円以下なら、返す額は10分の1。

返す期間は原則3年で、たとえば1000万円の借金なら、200万円を3年かけて返していく形。

どちらが合うかは収入や財産しだいなので、専門家と相談して決めることになるでしょう。

 

破産のあとに残るもの、消えるもの

ネットでは「10年はローンが組めない」と、破産したあとの暮らしを心配する声も並んでいました。

まず、破産の手続きが始まったことなどは、国が発行する官報に載ります。

破産法が、この法律の公告は官報に載せて行う、と定めているためです。

銀行などが加盟する全国銀行個人信用情報センターは、官報に載った破産の情報を、その決定の日から7年を超えない期間登録すると公表しています。

少なくとも銀行の側の記録は、10年ではなく7年で区切られているんです。

クレジットカード会社などが使う信用情報機関もそれぞれ記録を持っていて、自分の記録に何が残っているかは、本人が開示を請求して確かめられます。

 

破産したあとも、暮らしそのものは続いていく。

自己破産したことを名乗って再出発を書いている人も、ネットにはいました。

破産の手続き中は、たとえば警備員のように就けない仕事もありますが(警備業法)、その制限にも終わりはあって。

破産法の規定で、免責の決定が確定すると「復権」となり、その制限は外れます。

一方で、免責されても消えないお金も。

同じ破産法は、税金、養育費のような家族を支える義務、罰金などを、免責の外に置いています。

 

もしいま、自分や身近な人が払えない額を抱えているなら、頼れる窓口も。

法テラス(日本司法支援センター)は、収入と資産が一定の基準以下なら無料で法律相談ができ、弁護士や司法書士の費用を立て替える制度も用意しています。

自己破産にするか個人再生にするかも、その相談の中で決めていけば十分間に合うはずです。

794,491円の連絡のように、売ったあとに請求が届くと、もう終わりだと感じてしまうのも無理はありません。

それでも、その先にはちゃんと道が残っているということですね。

この記事で参考にした情報

  • 破産法 第10条・第252条・第253条・第255条(e-Gov法令検索)
  • 民事再生法 第221条・第229条・第231条(e-Gov法令検索)
  • 民事執行法 第152条(e-Gov法令検索)
  • マネックス証券「追証発生の条件」「追証の解消方法」「不足金の発生要因・解消方法」
  • 全国銀行個人信用情報センター「センターについて」(官報情報の登録期間)
  • 弁護士ドットコムニュース「FXのレバレッジ最大で大損、手に負えない負債…『自己破産できない』って本当?」(2018年1月13日配信)
  • 第9回ギャンブル等依存症対策推進関係者会議 提出資料「個人破産手続におけるギャンブル等依存症への対応についての提言」(2022年2月3日)
  • アゴラ「キオクシアが業績絶好調でも株価急落で『退場ポエム』続出」
  • 財経新聞「キオクシア 大幅続落、米SOX指数が12%超の急落に」(2026年11月6日)
  • 法テラス(日本司法支援センター)「民事法律扶助業務」