2026年8月30日の朝、フィギュアを自作している人が短いポストを1本投げました。

「個人で作って楽しんでるだけで何が悪いのか」。

その日の夕方には表示回数が240万回を超え、返信欄がきれいに二つへ割れています。

きっかけは、キャラクターを自作した人へ寄せられた声でした。

投稿しないでほしい。

公式のグッズが出なくなるから。

 

この「作ると公式から出なくなる」という話、10年以上前からフィギュアの世界で繰り返されてきました。

今回も同じところで止まっています。

 

ただ、返信をぜんぶ読んでいくと、少し違うものが見えてきました。

片方は嘘だと言い、もう片方は実際にあると言う。

それなのに、どちらも相手の言い分を否定できていません。

対立しているようで、そもそも別々の話をしているからです。

今回は、この「謎ルール」がどこから来たのかを、ひとつずつ確かめていきます。

作るなと言われて燃えた1本のポスト

問題になったポストは、8月30日の午前8時すぎに投稿されました。

その日の夕方までに、いいねが7100件、引用が1500件を超えています。

いっぽうで返信は60件ほど。

 

黙って賛成した人が大量にいて、わざわざ反論を書き込んだ人はごく一部でした。

その少数の中身が、今回はかなり具体的です。

いちばん伸びた返信は、商品の企画に携わっていたという人のものです。

デザインを頼む前に似たものがないか調べていて、発注後に見つかった場合は大幅な変更や停止もある、と書いていました。

この1本にも2000件を超えるいいねが付いています。

 

片方は「出なくなるなんて嘘だ」と言い、もう片方は「実際に止まることがある」と言う

どちらも実感のこもった話で、どちらも譲りません。

だから毎回、同じところで止まってしまいます。

メーカーは「そんな事実はない」と答えている

では、実際に商品を出している側は何と言っているのでしょうか。

ねんどろいどを作っているグッドスマイルカンパニーは、2024年3月に公式の場でこう答えています。

ねんどろいどに限って言えばそんな事実はなく、皆さんが作っているキャラクターも実際に商品にしている、と。

ガレージキットの世界では、もっと分かりやすい実例が積み上がっています。

イベントで個人が発表した立体物のキャラクターが、そのあと公式のフィギュアとして発売された例がいくつもあるからです。

この話をまとめた記事は、2021年の時点ですでに公開されています。

5年たっても答えは変わっていないのに、噂のほうだけが生き延びているわけです。

 

つまり、キャラクターそのものが商品化されなくなる、という意味でなら、この話は事実ではありません

ここまでは、はっきりしています。

消えるのはキャラではなくそのポーズ

それなら、企画に携わっていた人の話は嘘なのかというと、そうではありません。

ここが、この論争でいちばんこんがらがる部分になります。

返信欄には、同じ趣旨の話が何本もありました。

あとで公式が発売したときに「アレのパクリだ」と言われるので、水面下で似た企画が動いていた場合は開発が止まることが割とあるそうです。

商品開発の部署にいる家族から聞いたという人も、制作のときに同じような製品やデータがないか検索をかけると書いていました。

訴訟や回収になれば莫大な金額がかかるので、かなり神経を尖らせているそうです。

読み手の側からも「似たグッズが出たらパクリだと言われて炎上する」という声が出ていました。

会社が恐れているのは、そこで起きる騒ぎのほうです。

 

つまり避けられているのはキャラクターではなく、そのデザインの偶然の一致のほうでした。

横向きに座った同じ角度、同じ小物を持った同じ表情。

消える可能性があるのは、そのひとつの形であって、キャラの商品化そのものではありません。

「グッズが出なくなる」と「同じ形のグッズが出しにくくなる」。

この2つが1本につながって伝わったところから、謎ルールは生まれています。

 

だから、自作したものを載せた人が謝る必要はありません

 

ただ、さきほどの返信には続きがありました。

水面下で見えないことに、どこまで配慮すればいいのか。

おそらく、いま多くの人が引っかかっているのはこの一点です。

出なかったものは誰にも見えない

返信欄には、いちばん答えにくい問いも出ています。

出てこなかった物は観測できない以上、本当に具体的な例があったのか、というものでした。

 

言われてみると、そのとおりです。

企画が途中で止まったことを、会社はわざわざ発表しないんですね。

消えたグッズは、消えたことすら外からは見えません。

だから「ある」と言う人も「ない」と言う人も決め手を出せないまま、同じ話を何年も繰り返してきました。

ところが2026年、ひとつだけ公の記録に残った例が出ています。

グッズではなく、特許の話です。

 

任天堂と株式会社ポケモンが出していたモンスター捕獲に関する特許出願が、2026年4月に特許庁から拒絶査定を受けました。

特許としては認められない、という判断です。

決め手になったのは、2013年に公開されたファンメイドの3Dポケモンゲームの動画でした。

同じ仕組みがすでに世に出ていた、という扱いになりました。

13年前にファンが上げた1本の動画が、2026年の審査で効いたということですね。

任天堂側は、あれは著作権を侵害した映像だから証拠として不適切だという意見書を出しています。

これに対して特許庁は、引用したものに著作権侵害があるかどうかは進歩性の判断に影響しない、と答えました。

この出願について任天堂に残されているのは、3か月以内に不服を申し立てるか、新しく出し直すか、あきらめるかの3つだと報じられています。

 

ファンが先に作って公開したものが、公式の申請を止めた

それが実際に起きた記録として残っています。

 

もちろん、これはグッズが出なくなった話ではありません。

ただ、企業が身構える理由が気分ではなく実務だということは、この一件がはっきり示していますね。

作ると見せると渡すは別のルール

そのうえで、立体物には気をつけたい線があります。

この界隈では、次の3つを分けて考えるのが基本です。

ひとつめは、自分で作って自分で持っておくこと。

これは個人で楽しむ範囲なので、問題になりません。

ふたつめが、それをSNSに載せること。

ファンアートとして扱われる場面が多いものの、ここには少し幅があります。

そして三つめが、人に渡すことです。

ここだけは、絵よりずっと厳しく見られます。

返信欄で意見が割れていたのは、まん中の「載せる」をどう見るかでした。

作って家でひとり眺めるのはいいが、見て見てとSNSへ出すのは自分の技術の宣伝にあたる、という考え方があるそうです。

バズってしまうと、なおさら困るという声もありました。

個人でここまで高いものが作れるようになってしまった、と書いている人もいます。

 

並べてみると、線を引いているのは作ったかどうかではなく、どれだけ多くの人の目に触れたかのほうでした。

 

そして売るとなると、必要になるのは権利元からのはっきりした許可です。

そのために用意されたのが、当日版権システムという仕組みです。

1980年代の終わりにワンダーフェスティバルで始まり、そのイベントの当日、その会場の中に限って、権利元が展示と販売を許可してくれます。

予約を取って後日送る、といったことはできません。

 

そして、この仕組みは権利元の厚意で成り立っているため、許可を出さない作品もあります。

ちいかわは、その当日版権が降りない側です。

これはファンが何かをしたからではなく、権利を持っている側の方針として、最初からそうなっています。

グッズが出ない界隈ほど作るなが強くなる

ここまで来ると、もうひとつ気づくことがあるはずです。

この謎ルールが強く回るのは、いつも公式のフィギュアが出ていない界隈のほうだ、ということです。

 

ガレージキットの世界では、この誤解はほとんど淘汰されました。

商品が次々に出ていて、個人が作っても発売されている場面を、みんなが何度も見てきたからです。

実例が目の前にあるので、噂のほうが先に消えます。

反対に、待っても待ってもグッズが出ない界隈では、実例が手に入りません。

するとその空白を、ファン同士の言い伝えが埋めていきます

 

待った時間が長いほど、失うのが怖くなります。

だから「作るな」ではなく「せめて投稿しないで」という、少し弱い言い方になるのだと思います。

あれは自作している人への攻撃というより、自分の願いを守ろうとした結果に近い形です。

 

ちいかわの界隈でグッズをめぐる声が大きくなりやすい背景は、こちらでも触れています。

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同じものを待っている人同士でぶつかっている

整理すると、こういうことになります。

キャラの商品化が消えるという話は、事実ではありません。

ただし、そっくりな形のものが世に出ていると、その1つのデザインは避けられることがあります。

そして人に渡す段になったときだけ、はっきりした許可が必要になります。

この3つを分けて持っておけば、次に同じ論争を見かけたときに、どこがすれ違っているのかが分かるはずです。

 

それと同時に、この話が10年以上終わらない理由も見えてきました。

止まった企画は発表されないので、どちらの側も証拠を手に入れられないんですね。

見えないものを真ん中に置いたまま、言い合いだけが続いてきたわけです。

 

作った人も、やめてほしいと言った人も、待っているものは同じでした。

推しの立体が、いつか自分の手のひらに乗る日です。

その日が来てしまえば、10年ぶんの言い合いはどうでもよくなってしまう気がしますね。