アマゾン奥地で子の異変…金採掘の水銀が止められない理由

アマゾン川の支流沿いに暮らす先住民の集落で、手足が思うように動かない子どもが相次いで見つかっています。
原因として疑われているのは、川の上流で金を掘るときに使われる水銀。
魚を捕って暮らす人たちの体に、それが少しずつたまっているというのです。
ニュースを見て、真っ先に「水俣病」という言葉が浮かんだ人も多かったのではないでしょうか。
実は日本でもこの春、九州の山あいで外資系の企業が金を試しに掘っていると報じられ、同じ水銀の心配が広がっていました。
これ、次のソーラーパネル開発問題級の爆弾になりそう。あと金の採掘は水銀とか使い出すので、そうなると凄まじい環境汚染が起こるのでマジで気をつけておかないと大変なことになりそう 福岡・八女市や大分・日田市で外資系による「金試掘」活発化 住民への説明義務なし https://t.co/BePVdORfE4…
— くられ (@reraku) 2026年3月25日
遠い国の出来事に見えて、この件には水俣病の教訓から生まれた「水俣条約」が深く関わっているんです。
今回は、アマゾンで子どもたちに何が起きているのか、金を取るのになぜ水銀が止められないのかを、水俣の経験と並べながらわかりやすく解説していきたいと思います。
歩けない12歳と、魚を避ける18歳の妊婦
舞台は、ブラジル北部のパラ州を流れるタパジョス川の流域。
先住民族ムンドゥルクの人たちが、道路も水道もない奥地で、川の魚を捕りながら暮らしています。
朝日新聞の記者が許可を得て集落を訪ね、その様子を伝えました。
ある集落には、車いすで暮らす12歳の男の子がいるそうです。
生まれて間もないころに手が閉じたまま開かないことに母親が気づき、2歳になっても首が据わらず、いまも立つことができないといいます。
その後、集落を訪れた医師から「有機水銀中毒の可能性」を告げられたとのこと。
友だちがサッカーをする姿を見て、「どうして僕は歩けないの」と泣くこともあると報じられています。
別の集落では、大漁に沸いた朝、焼き上がった魚の輪から少し離れて、パスタを口にする18歳の女性がいました。
おなかには赤ちゃんがいて、「できれば魚は食べたくない。子どもに影響があるかもしれないから」と話したそうです。
川の魚を食べることは、この土地では暮らしそのものなんですよね。
ブラジルの研究機関オズワルド・クルス財団は、10の集落で妊婦と赤ちゃんの追跡調査を続けていて、その速報値が発表されたところです。
妊婦195人の髪の水銀値は、平均で9.1ppm。
財団が健康被害を避ける目安として示す2ppmを、大きく上回っています。
いちばん高い人は39.9ppmで、調査を率いるパウロ・バスタ医師は「日本で水俣病を発症した人たちに近いレベルです」と語りました。
ネットには「近親婚だからじゃないの?」という声も。
ただ、医師たちが測っているのは髪にたまった水銀そのもので、財団は以前の調査で、髪の水銀値が高い人ほど、話す・覚える・体を動かす力に問題が多いことを確かめています。
バスタ医師自身は、調べた人数がまだ少なく、マラリアなどほかの原因もありうるとして、水銀だけの影響とは断定していません。
それでも「水銀が悪影響を与えていることは間違いない」と話しているんです。
金を掘る場所で、水俣病のような病気が出ているという指摘は、ネットでも前から上がっていました。
アマゾン以外にも金の採掘における水銀汚染は結構問題になっている。
1gの金を得るのに1~2gの水銀が使用されている。
金の違法採掘がおこなわれている地域では水俣病のような病気を多発している。
— ベルカ宇宙軍 (@noradjapan) 2023年1月16日
タパジョス川の一帯は、20世紀の後半から「ゴールドラッシュ」が続いてきた、その代表のような土地です。
水銀ひとつで金が取れる手軽さ
では、金を掘るのに、なぜ水銀が要るのでしょうか。
川底の砂や砕いた鉱石には、目では見えにくいほど細かい金の粒がまじっているもの。
そこへ水銀を加えると、金の粒が水銀に溶け込むようにくっつき、アマルガムと呼ばれる合金の塊になります。
この塊を火であぶると水銀だけが蒸発して、手元には金が残る仕組み。
大がかりな設備がなくても、川べりの小さな船の上でできてしまう手軽さが、小さな採掘の現場で水銀が使われ続けてきた背景にあります。
国連環境計画(UNEP)の報告では、小規模な金の採掘が、人の活動から大気に出る水銀のおよそ38%を占めるとされていて、発生源の中でいちばん大きな割合です。
国連の報告によると世界の環境中への水銀の排出量はアマゾン、コロンビア、アフリカ、インドネシアなどの水銀アマルガム法による金の採掘(ASGM)が第一位を占めている。日本国内に限ると製鉄業からの排出量が上位を占める。「蛍光灯」の水銀の消費量は歯科用水銀の半分にも満たず、全体中で最も少ない。 pic.twitter.com/kjTM0ixhaD
— 天瀬ひみか (@amasehimika147) 2023年11月4日
問題は、蒸発した水銀や、砂といっしょに捨てられた水銀がどこへ行くか。
川に入った水銀は、微生物の働きで毒性の強いメチル水銀に姿を変えます。
小さな魚から、それを食べる大きな魚へとたまっていき、最後はピラニアやナマズのような肉食魚を食べる人の体へ入っていく。
母親が食べれば、メチル水銀は胎盤を通っておなかの子にまで届く。
胎児の脳は育っている途中なので、母親に目立った症状がなくても、子どもの体の動きや覚える力に影響が出ることがあると、朝日新聞は日本や海外の研究をもとに伝えています。
ネットには「ブラジル産の食べ物は警戒しちゃう」という声もありました。
アマゾンで問題になっているのは、汚れた川の肉食魚を、毎日の食事として食べ続けるという形です。
ただ、魚にたまったメチル水銀が人に入るという仕組みそのものは、日本の海の魚でも変わりません。
だから厚生労働省は、妊娠中の人に向けて「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」を出しています。
キンメダイ、メカジキ、クロマグロ、メバチなどは、1回約80gとして妊婦は週に1回までが目安。
一方で、キハダやビンナガ、ツナ缶はふだんどおり食べて差し支えないとされ、注意事項そのものも「魚介類を食べないように要請するものではありません」と書いています。
妊娠中で食べ方が気になる人は、かかっている医療機関で相談してみてくださいね。
妊婦は大型魚食べるな!は周知されていると思うけど、一般の人でも気をつけたほうがいい。マグロ好きでよく食べてたんだけど、水銀のことを考えると、週1〜2回までとかが推奨されるから、気をつけないと。水銀の自然排出はゆっくりで、数ヶ月を要します。https://t.co/UJzUBMJKUB
— 森拓郎 (@moritaku6) 2023年3月6日
目安を見て選べる日本と、目の前の川の魚しかない集落とでは、同じ心配でも重さがまるで違います。
現地では、魚に代わるたんぱく源を確保しようと、養鶏を始めた集落もあるそうです。
水俣条約にない「禁止」の二文字
掘る側にも、やめられない事情があります。
金の値段は、世界で相次ぐ紛争や通貨への不安を背景に、10年前の3倍以上に跳ね上がりました。
現地で取材に応じた若い男性は、採掘船で働けば月に3万レアル(約90万円)を超えることもあって、前の仕事だったバス運転手の月給を1週間足らずで稼げると話したそうです。
先住民の保護区で掘るのが違法だと分かっていても、「稼げるからね」と笑ったといいます。
いまの政権になってから取り締まりは強まっていて、当局はここ数年で採掘船1300隻、ショベルカー690台、航空機84機などを壊したと説明しているとのこと。
それでも新しい船や重機が次々に入ってきて、取り締まる担当者は「きりがない」と嘆いていました。
「水銀に関する水俣条約」は、水俣病の教訓から生まれ、その名前に水俣の地名を背負っています。
ブラジルもこの条約に加わっていて、水銀を使う体温計や蛍光灯からは手を引く方針で、各国と足並みをそろえてきました。
蛍光灯については、一般照明用のものの製造や輸出入を2027年末までに段階的に廃止することも決まっています。
では、金の採掘はどう書かれているのか。
金の採掘を扱う条文には、こうあります。
当該採掘及び加工における水銀及び水銀化合物の使用並びに当該採掘及び加工から生ずる水銀の環境への排出及び放出を削減し、及び実行可能な場合には廃絶するための措置をとる。
出典:水銀に関する水俣条約 第7条2(外務省の和文)
求めているのは禁止ではなく、減らすこと、できるなら無くすこと。
しかも、蛍光灯には廃止の期限がついたのに、金の採掘には期限が書かれていません。
採掘の多い国は「国の行動計画」を作って出す決まりで、その中身を定めた附属書Cには、守るべき人として「児童及び出産可能な年齢の女性(特に妊婦)」がはっきり書き込まれています。
危ない人が誰なのかは、条約にもう書いてありました。
そして、ブラジル政府が2026年9月にまとめた行動計画案は、少なくとも2038年までは金採掘での水銀の使用を認める内容だと報じられています。
条約は期限を決めていないので、この案でも条約に反するとは言いにくいのが、やっかいなところでして。
一方で、日本は自分の国の中では線を引いています。
冒頭の九州の試掘の報道には、こんな疑問も寄せられていました。
アフリカのカカオ畑が金採掘で水銀汚染された話しを思い出すなぁ…外資系は自国じゃないから土地汚染とか気にしない可能性がある。日本の法制度で縛れるのだろうか?(;・∀・)
— 邪妖精 (@jayousei) 2026年3月25日
水俣条約を受けて日本が作った水銀汚染防止法は、第20条でこう定めています。
「何人も、業として、金鉱から水銀等を使用する方法によって金の採取を行ってはならない。」
条約が「減らす」までしか求めていないところを、日本は国内で禁止まで踏み込みました。
住民への説明の決まりは別の話として残りますが、水銀を使って金を取ることそのものは、日本では法律で禁じられているんです。
あわせて日本は、リサイクルなどで回収した水銀のうち国内で使い切れない分を、かつて年間70トンほど輸出していて、2012年には世界の水銀輸出の約4%を占めていたと環境省の計画に書かれています。
その水銀がどこでどう使われたかまでは、計画からは分からないのが正直なところ。
条約が日本で効力を持った2017年からは輸出が原則として禁止され、小規模な金の採掘に使う目的の輸出は認められていません。
「日本の過ちを繰り返してほしくない」
水俣病が公式に確認されたのは1956年。
原因と疑われた工場廃水を海に流していた化学メーカーのチッソは、社内の実験で廃水が原因だと気づいたあとも、それを隠して流し続けました。
住民や研究者からは止めてほしいという声も上がっていましたが、国も熊本県も手を打たず、2004年の最高裁判決で、被害を広げた責任が確定しています。
胎児性水俣病の患者で、7歳まで歩けなかった熊本県水俣市の男性は、いまは電動車いすで暮らしているそうです。
その男性が、アマゾンの話を聞いてこう語っています。
「もし、早く廃水の垂れ流しを止めていたら、自分は被害を受けなかったかもしれない。それが悲しい。ブラジルには、日本の過ちを繰り返してほしくない」
害が分かってからも止めるのが遅れた水俣と、期限のないまま続くアマゾンの川は、同じ形をしています。
量で比べるとアマゾンのほうがずっと大きい、と見る声もあるほどです。
水銀が問題になっているのが、アマゾンの金鉱採掘。
アマルガム法といって、水銀を使って金を精錬する。
最終的には水銀を揮発させて、金を得るから駄々洩れ。自分が見た資料では2000トン近い水銀が垂れ流されている。
水俣湾に放出された水銀が70~150トン。— ベルカ宇宙軍 (@noradjapan) 2023年1月16日
救いになる動きも始まっています。
財団は、妊娠中に避けたい魚の種類や、赤ちゃんの異変に気づくための簡単なチェック項目を盛り込んだ手引きを作り、各集落から推薦された医療の担い手を育て始めました。
水銀の危険を先住民の言葉で伝えるアニメも、動画サイトで無料で公開されているそうです。
魚を避けていた18歳の女性の髪の水銀値は、以前は胎児への影響が心配される目安を超えていましたが、その後の検査では目安を下回ったと報じられました。
ムンドゥルクの女性リーダーは、金を買う人に向けて「あなたがゴールドを買うとき、私たちを殺すことに加担しているのです」と問いかけています。
金を身につける側にとっても、聞き流せない一言でしょう。
車いすの12歳の男の子は、両親に抱えられて小川で水浴びをするのが楽しみなのだそうです。
その川がこれ以上汚れないうちに、違法な採掘を止めるブラジル政府と、条約で約束した国々がどこまで急げるか。
70年前に水俣の人たちが払った代償を、アマゾンの子どもたちがもう一度払わずに済むように、続く知らせを一緒に見守っていきたいですね。
この記事で参考にした情報
- 朝日新聞「ゴールドの熱狂、先住民の集落に表れた異変 アマゾンとミナマタ」(2026年10月20日配信)/「水銀汚染で胎児にリスク『あなたが買う金が私たちを殺す』」(2026年10月24日配信)
- 外務省「水銀に関する水俣条約」(和文・英文)第7条・附属書C
- 国連環境計画(UNEP)「Global Mercury Assessment 2018」
- 環境省「水銀等による環境の汚染の防止に関する計画」/水銀による環境の汚染の防止に関する法律(第20条)
- 厚生労働省「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」(平成22年6月1日改訂)
- 西日本新聞「福岡・八女市や大分・日田市で外資系による『金試掘』活発化 住民への説明義務なし」(2026年3月23日)
