『みいちゃんと山田さん』という漫画をめぐって、いま大きな騒ぎが起きています。
講談社の漫画アプリ「マガジンポケット」で連載されている作品で、累計は280万部を超えました。
2027年にはアニメになることも決まっています。
ところが、7月26日にアニメ化が発表された直後から、批判が噴き出しました。
主人公のみいちゃんは、漢字が読めず、空気も読めないまま夜の街で働く女の子です。
その描き方が、障害のある人への偏見を広げてしまうのではないかという声でした。
そこから火が移ったのが、作者・亜月ねねの過去のほうです。
この作品の元になった漫画は、もともと「ダイアナ」という名前で発表されていました。
夜の世界で働く女性たちを描いて、ネットで大きく読まれていたアカウントです。
その正体をめぐって、よくない噂が流れはじめました。
7月31日、作者はこう説明します。
「ダイアナというアカウントと私は別人です」
自分は頼まれて絵を描いていただけで、アカウントの運営にも、話づくりにも関わっていないという内容です。
この声明が出たあと、ネットの空気はかえって重くなりました。
いま出回っているのは、大きく分けて4つです。
- 女衒(ぜげん)疑惑=女性を夜の世界へ流していたのでは
- 反社疑惑=暴力団などとつながっていたのでは
- 服役中の女性と同じ場にいたという話
- 作品の権利が、作者の手元にないのではという指摘
どれも穏やかではありません。
ただ、そのどこまでに根拠があるのかは、ほとんど語られていないままです。
一つずつ確かめていきます。
Fanboxで消えた投稿の中身
消したということは、やましいことがあったんでしょ。
そう言いたくなる気持ちは、よく分かります。
都合の悪いものがそっと消えていく場面は、これまでにも何度も見てきましたから。
ここで言うFanboxというのは、月々いくらかを払って好きな作家を応援すると、その人の日記やイラストが読めるサービスです。
作者もここで、近況をつづる日記を公開していたんですね。
8月5日、そのFanboxの投稿は一部が戻ったと言われています。
ただ、すべてではないとのこと。
戻っていないとされるのは、作者が過去に「ダイアナはスカウト」と書いていた投稿など、特定の話題に関わるものです。
戻ったものと、戻らないもの。
その線引きが、いちばん見られている部分です。
ところが、そのページを実際に開いてみると、少し違うことが書かれていました。
月1000円の支援プランの説明欄に、「近況日記(無期限ですが、1記事更新ごとにランダムに過去記事が非公開になります)」とあるんです。
案内文の中に、最初からこの一文が入っているんですね。
つまり、過去の投稿が消えること自体は、今回あわてて始めた操作ではなく、もともとの運用として読者へ説明されていた話でした。
いま開けるページにも、8月1日の「いろいろ言われて大変です。」や、7月20日の「近況・初期案・服の話」といった投稿がふつうに並んでいます。
ただ、説明文にあるのは「ランダムに」という言葉です。
本当にランダムなら、戻らない投稿の話題はもっと散らばるはず。
それが特定の一点に寄っているのだとしたら、この説明だけでは追いつきません。
運用どおりに消えたのか、それとも別の判断が働いたのか。
消えること自体に、やましさを読み取る必要はありません。
ただ、偏りのほうには説明がついていないままです。
亜月ねねが否定した「女衒」の出どころ
女衒。
あまり見かけない言葉が急に流れてきて、意味も分からないまま身構えた人もいると思います。
まずは、本人の言い分から。
7月31日、作者は「作者は女衒だ」という書き込みについて、事実無根だとはっきり否定しました。
ダイアナというアカウントと自分は別人であり、依頼を受けて作画だけを担当していて、アカウントの運営にも、投稿文にも、原作にも関わっていない、という説明です。
パパ活や夜の仕事の経験もない、とも書いています。
言葉を濁さず、否定すべきところを名指しで否定した声明でした。
女衒というのは、女性を夜の世界へ売り渡す者を指す古い言葉です。
いまの暮らしではまず使いません。
では、なぜこの言葉が出回ったのか。
源流は2021年の個人ブログだとされています。
ダイアナのアカウントがつながっていた相手の中に「女衒」を名乗る人がいて、しかもその相手とつながっている人はごく少数でした。
数が少ないほど、つながりは濃く見えます。
そこからの推測でした。
証拠と呼ぶには、ずいぶん細い糸なんですよね。
ただ、土壌はありました。
ダイアナの漫画そのものが、当時から「夜の世界への誘導ではないか」と見られていたそうです。
2021年には説明文が「夜の絵描き」から「夜の絵描き達」へ変わり、ひとりではなく複数人で回している様子も見えていたそうです。
亜月ねねが絵を任されていた期間は、2年ほどだったといいます。
そこを抜けたあとも、アカウントのほうは別の人が絵を描いて動き続けているそうです。
絵を描いていた人と、アカウントを動かしていた人が同じとは限りません。
当たり前のことなのに、噂の中ではそこが抜け落ちていました。
作者本人が女衒だったという直接の証拠は出ていませんし、本人もはっきり否定しています。
ダイアナという看板そのものの性格については、状況証拠が語られている段階です。
ダイアナと反社を結びつける声が出る理由
反社。
反社会的勢力の略で、暴力団やそれに近いグループを指す言葉です。
これが出た時点で、話の温度は一段上がりました。
連載も、アニメ化も、大丈夫なのかと心配になった人もいるでしょう。
先に言ってしまうと、組織名も人名も出ていません。
報道もなければ、警察や行政の発表もありません。
ダイアナ運営と反社会的勢力を結ぶ材料は、いまのところ一つも出ていないんです。
では、なぜこの話が出るのか。
夜の街で人を集めて店へつなぐ仕事、というだけで、うしろに怖い人がいるのではと想像されやすいところがあります。
実際にどうかとは別のところで、そういう目で見られてきた世界です。
そこへ、もっと現実的な心配が乗りました。
アニメになれば、制作会社もテレビ局も、お金を出すスポンサーも、取引先の素性を当然のように確認します。
放送されて、グッズが出て、名前がクレジットに並ぶ。
関わる会社が増えるほど、その確認は細かくなっていきます。
まあ、あれで「みい山」はダイアナなる集団が原作の権利を保留している可能性出ちゃったからな。なにしろいまの作者が「ダイアナから委託されて描いた」旨をはっきり言っちゃったから。
これアニメ化にあたって反社チェックほんとに通せるの? https://t.co/ErX7wG170d
— ktgohan (@ktgohan) 2026年8月5日
ここで言われているのは、作者が何かをしたという話ではありません。
ダイアナという看板を作った側が誰で、いまどうなっているのか。
そこが分からないままでは、確かめようがないという指摘です。
気になるのは、疑いの中身よりも、否定が一度も出ていないことのほうでした。
疑いは、放っておけば勝手に育つというものでもありません。
関係ありません、の一言があれば、この種の噂は一日で消えます。
ところが、その一言が出ないまま、消す作業だけが進んでいます。
うーん。
返ってくる言葉がないと、人は空いたところを自分の想像で埋めてしまうものです。
確認された事実はありません。
ただ、無関係だという説明も、まだどこからも出ていません。
打ち合わせに同席していた頂き女子りりちゃん
ここまでは、証拠の細い話が続きました。
ところが1件だけ、作者本人が書き残していたものがあります。
2025年4月3日の投稿です。
「りりちゃんに会った時の所感。」という一行と、Fanboxの記事へのリンク。
桜の写真が添えられた、ごく短い告知でした。
りりちゃんに会った時の所感。https://t.co/HYxgnyh58v pic.twitter.com/59KF9OQgDb
— 亜月ねね (@azuki_nene) 2025年4月3日
この投稿は、いまも消えずに残っています。
消えたのは、リンクの先だけでした。
りりちゃんというのは、マッチングアプリで知り合った男性から多額のお金をだまし取り、その手口をまとめたものを売っていた人物です。
2023年8月に逮捕され、いまは服役しています。
消える前に保存していた人が中身を伝えています。
きっかけは、彩図社から出した本のご縁で、担当編集から新作の話を持ちかけられたこと。
草下シンヤと漫画を作れるなら楽しそうだ、と思って打ち合わせに向かったそうです。
ところが、その場にいたのが頂き女子りりちゃんだった——。
編集者のほか、りりちゃん、ダイアナの運営者、スカウトの人、支援者の人。
大所帯だった、と書かれていました。
この一段落が、いま出回っている疑いのほとんどを引き受けています。
ダイアナの運営者とスカウトが同じ部屋にいたという話は、前の見出しで見た「反社ではないのか」という声の、いちばん具体的な根拠になりました。
ただ、ここは急いで結論を出さないほうがいい場所です。
時期を確かめると、この打ち合わせはりりちゃんが逮捕される前のことでした。
しかも同席していた草下シンヤは、逮捕の19日前にあたる2023年8月4日、「いただき女子とホス狂いをやめた、りりちゃん」という書き出しの投稿をしています。
やめさせて、別の道を探していた時期だったということになります。
夜の世界を描く漫画の打ち合わせに、実際にその世界にいた人が呼ばれる。
取材としては、ありふれた光景でもあります。
とはいえ、あとから見れば話は別です。
同じ部屋にいた人が、その年のうちに逮捕されました。
作者に落ち度があったかどうかとは関係なく、会社が取引先を確認するときには、この一行が引っかかります。
取材だったのか、それとも関わりだったのか。
そこを分けて考えたい人と、同席した時点で十分だと考える人で、いまも割れているところです。
会っていたことは、作者自身が書いていました。
ただし逮捕前で、更生を促していた人が同席していたのも事実です。
初期監修を離れた草下シンヤについて
その打ち合わせに名前が出てきた草下シンヤとは、どんな人なのか。
知らない人のほうが多いと思います。
ダイアナの漫画は、2023年3月に『夜のことばたち』という単行本になっています。
出したのは彩図社という出版社です。
草下シンヤは、その彩図社で編集長を長く務めた人物です。
2024年9月に退職して、いまは作家として独立しています。
『裏のハローワーク』『半グレ』など、裏社会を扱った本を手掛けてきた編集者。
このダイアナの初期に、監修として関わっていたとされています。
同じ話が複数の場所で書かれていますが、現在は関わっていないとのこと。
離れた理由は分かりません。
本人も出版社も、そこには触れないままです。
裏社会を扱う本は、書き手ひとりでは世に出せません。
誰に話を聞き、どこまで載せるのかを決める人がいて、はじめて一冊になります。
初期のダイアナに監修が付いていたとされるのも、その延長で読めば意外な話ではないでしょう。
気になるのは、温度差のほうです。
初期のダイアナは、夜の世界の生々しさをそのまま突きつける作りで、単行本の紹介文にはネットでの表示回数が10億を超えたと書かれるほど読まれていました。
それが部数を伸ばして商業の中へ入っていくにつれて、語られ方のほうは変わっていきました。
2024年2月に出た紹介記事では、自身の体験や当事者の声をヒントに描かれた作品、という説明になっていました。
どちらも嘘ではありません。
ただ、同じものを指しているようには読めません。
だから何かがあった、と言いたいわけではありません。
関わっていた人が離れることも、途中で方向が変わることも、仕事の現場では普通に起きます。
分からないことは分からないと置いておくのが、ここでは正直なところです。
みい山の原作権利がダイアナ側に残る可能性
ここまでは、白か黒かのつかない話が続きました。
ただ、ここから先だけは、はっきり残っている問題があります。
権利、と言われてもぴんと来ないかもしれません。
ここで言う権利とは、その作品を使うときに、誰の許可が要るのかという話です。
アニメにする、グッズを作る、続編を出す。
そのたびに許可を出せる人が決まっていて、それが必ずしも作者とは限りません。
声明の中に、「委託されて描いた」という説明がありました。
自分は依頼された側で、企画の中心にはいなかった。
そう伝えるための一文で、身の潔白を示すための言葉だったはずです。
ところが、これを契約の言葉に置き換えると、意味合いが変わります。
委託されて描いたというのは、「自分は雇われた側です」と認めたことになるんですよね。
絵を描いた人に権利が生まれるのが基本ですが、頼んだ側との取り決めしだいで、その扱いは変わります。
しかも声明では、原作にも関わっていないと書かれていました。
漫画は、話を考える人と絵を描く人が別々になることがあります。
ダイアナの漫画は、その分かれている形だったということです。
だとすれば、その作品の元になった企画は、どちらのものなのか。
もちろん、作者は『みいちゃんと山田さん』については、自分が原作も作画も手掛けた作品だとはっきり明言しています。
引っかかるのは、その手前です。
いまの作品の元になった試作が、あの依頼関係の中で描かれていたのだとしたら。
280万部を超えて、来年アニメになる作品の根っこが、どこに紐づいているのか見えなくなります。
権利の話は、作品が売れるほど重くなっていくものです。
描いた本人が困っていなくても、アニメや商品化のように会社が何社も並ぶ場面では、誰の許可が要るのかをはっきりさせないと前へ進めません。
だからこそ、委託という一言は軽くないんです。
身を守るための説明が、別の場所に穴を開けてしまったわけです。
みい山、私はアニメ化反対まではいかないけど最低限のゾーニングは必要じゃないか?と思うし、そもそも権利関係とかスポンサーとか結構揉めるんじゃないかっていう気はしてる。
私がスポンサーならあの挙動をする作者や編集者とはなるべく関わりたくない。
— もろみ* 🌻 (@moromi_zzz2) 2026年8月5日
冷たい言い分に見えますが、お金を出す側からすれば当たり前の判断でしょう。
スポンサーが手を引くかどうかは、噂が本当かどうかで決まるわけではありません。
面倒が起きそうかどうかで決まります。
最終巻の発売は9月9日で、描き下ろしの絵本が付く特装版も出ます。
アニメ化は2027年。
この予定表は動いていません。
決まった日付の上に、誰のものかがはっきりしない話が乗っています。
委託されて描いたことは、本人がはっきり明言しています。
権利がどちらにあるのかは、公式の発表がなく、いまは分かりません。
講談社がまだ説明していないこと
ここまで来て、いちばん静かなのが出版社です。
講談社からは、権利についても、作品の周りで何が変わったのかについても、いまのところ何も出ていません。
連載は続き、最終巻の予定も出ています。
それでいて、疑いに触れた発表だけがありません。
みい山、どうも炎上対応で下手打って済まされないような感じになっるけど、講談社はそもそも権利関係を何もチェックしてなかったん?
— Para (@Au0223) 2026年8月5日
作品を世に出す側は、どこまで確かめていたのか。
一行の説明で静まる話を、当事者以外の全員が待っている状態が続いています。
説明が出ないあいだ、読んでいる側は自分で辻褄を合わせるしかありません。
その寄せ集めが、いまネットに並んでいる噂の正体です。
噂が消えないのは、疑いが強いからではありません。
消す作業だけが進んで、説明が一度も出ていないからなんです。
これは、遠い世界だけの話でもないと私は思っています。
人に何かを頼んで、あとから「これは誰のものか」でもめてしまう。
口約束で手伝ってもらった仕事、二人で回していたSNS、無償で描いてもらったイラスト。
始まりはお互いの善意でも、それが大きくなった途端に、誰のものかという話へ変わってしまいます。
あのとき一行だけ書いて残しておけば、と思う場面は、規模が小さくても同じように起きるものです。
女衒も反社も、いまのところ材料は出てきていません。
りりちゃんと同じ部屋にいたのは本当ですが、それは逮捕より前の話でした。
そうやって一つずつ外していくと、最後に権利の話だけが残ります。
作者が声明を出した経緯については、こちらでも書いています。

