ゲームにのめり込んで大学を中退し、会社を辞めて、30歳で自己破産。

奈良県に住む30代の男性の歩みとして、2026年10月6日に読売新聞の連載が伝えた話です。

ところがネットでいちばん盛り上がったのは、記事の中身より、添えられた写真のほうでした。

男性の手元のスマホに映る画面が、どう見てもグラブル(グランブルーファンタジー)だという声で持ちきりになっています。

「配布と天井ある分かなり優しいと思う」という声もあれば、「あれはマジで沼る」という声も。

ガチャを回したことがある人ほど、どちらの気持ちも分かってしまうのではないでしょうか。

天井があるのに、なぜ破産まで行ってしまうのか。

今回は、記事の男性がたどった道と、ガチャの天井とは何を止める仕組みなのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。

課金の前に大学を手放していた

写真で思わず笑ってしまった人も、記事を最後まで読むと、少し笑えなくなるかもしれません。

男性にとって、ゲームは物心ついたころから身近にあったそうです。

兄が買ってもらった家庭用ゲーム機で、男性もよく遊んでいたとのこと。

小学生のころは1日1時間ほどだったのが、中学生になると3〜4時間に増えていきました。

家から遠い中高一貫校に合格し、通学の電車でも携帯ゲームに夢中で。

親の期待は大きく、「勉強しろ」と何度も言われたものの、頑張っても成績は伸びなかったそうです。

本人はそのころを、こう振り返っています。

 

「全力で勉強しても親が求める学力は無理。それを認めたくなくて、ゲームに逃げた」

親から離れるように東日本の大学へ進み、最初の夏休みに出会ったのが、チームを組んで撃ち合うオンラインゲームでした。

やればやるほど上達し、ボイスチャットで仲間から「強い人が来た」とほめられると、心が満たされたそうです。

アルバイト帰りの夜中から朝方まで遊び、昼に起きて夕方までまた遊ぶ。

そんな生活が続くうちに大学から足が遠のき、2年で中退しています。

ここまでの話に、記事は課金のことを一言も書いていません。

最初に大学を手放させたのは、お金ではなく時間でした。

 

お金の話が出てくるのは、その先です。

その後、営業の仕事に就いたものの、仕事は厳しかったといいます。

ストレスのはけ口のように、今度はほかのプレーヤーと協力して敵を倒すスマホのソーシャルゲームにはまりました。

「ガチャ」と呼ばれる課金を繰り返し、消費者金融で借金を重ね、その会社も辞めています。

家賃を滞納し、電気を止められても、ゲームにお金を使うのはやめられなかったそうです。

見かねた親に依存症の回復施設へ入れられ、約200万円の借金を抱えて、30歳のころに自己破産しました。

いまは回復プログラムを受けて、ゲームと一定の距離を置いているとのこと。

 

「以前は、『ゲームがないと死ぬ』と思っていた。ゲームをしている間は、心の隙間を埋められた」

ちなみに記事の本文は、2本目のゲームの名前を書いていません。

写真の画面が、男性が実際にお金を使ったゲームと同じなのかどうかも、記事からは読み取れないんです。

天井は300回で数え直しになる

ではネットで名前が挙がったグラブルの天井とは、そもそも何なのでしょうか。

きっかけは、2015年から2016年にかけての年末年始に行われたガチャでした。

人気のキャラクターがなかなか出ず、高いお金を払っても手に入らなかったという声が広がって、大きな騒ぎに。

これを受けて運営のCygamesは2016年2月25日、新しい仕組みを発表しました。

確率の設定そのものは問題なく運用されているとしたうえで、心配や不安を与えたおわびとして、ゲーム内のアイテムも配っています。

ガチャを300回、現金に換算すると9万円ぶん回したら、対象の装備品の中から好きなものを1つもらえるというもの。

いま天井と呼ばれているのが、この仕組みです。

 

数えるのは「対象となるガチャイベント開催期間中」の回数で、300回に届くと回数はリセットされ、改めてゼロから数え直しになると書かれていました。

つまり天井は、ひとつの欲しいものを確実にするための線なんです。

次の催しが来れば、また1回目から数え直し。

季節の催しのたびに、天井の手前まで回したくなる場面は何度でもやってきます。

 

写真のゲームに覚えのある人からは、こんな声も上がっていました。

10万円というのは、当時の発表でいう1回の天井を少し越えるくらいの金額ですね。

 

もちろん、出るまで青天井で回すしかないガチャに比べれば、天井があるほうが親切なのは本当です。

「ここまで払えば必ず手に入る」と分かっているだけで、安心して遊べる人も多いと思います。

ただ、その安心は裏を返すと、「ここまでは払っていい」という目安に見えてしまうこともありそうです。

上限はいつもアイテムの側にある

ガチャの話になると、決まって出てくる疑問があります。

法律の側から見ると、ガチャそのものは禁止されていません。

はっきり止められたのは、2012年に消費者庁が示した「コンプガチャ」だけでした。

決まった組み合わせのアイテムを全部そろえると、別のレアなアイテムがもらえるという形のガチャです。

消費者庁はこれを、景品表示法で禁じられている「カード合わせ」に当たると判断し、その年の7月1日から適用しました。

 

ゲーム会社の業界団体である日本オンラインゲーム協会にも、2012年からガチャの自主ルールがあります。

よく「上限5万円」と呼ばれているのが、その中身です。

ただ、書かれているのは、どれかひとつのレアアイテムを取るまでの見込み額を5万円以内にする、ということ。

しかも、超える場合はその見込み額を画面に表示すればよい、という書き方。

ほかにも、ガチャ1回の料金の100倍以内にする、確率を表示する、といった選択肢が並んでいて、そのどれかを満たせばよい形です。

スマホの側はどうかというと、Google Playには「予算」を設定する機能があります。

ところが公式のヘルプには、「予算を超えた場合でも、取引は行えます」と書かれていました。

予算に近づくとメッセージで知らせてはくれるものの、買う手までは止めてくれません。

 

天井は、ひとつの催しのひとつのアイテムに付いた線。

5万円の目安は、ひとつのレアアイテムを取るまでの見込み額。

Google Playの予算は、超えても買える知らせの線。

こうして並べてみると、ガチャのまわりにある上限は、どれもアイテムの側に付いています。

ひとりの人がひと月にいくら使うかを決める線は、この3つのどこにも書かれていません。

その線を引けるのが自分だけだとしたら、仕事で疲れて帰った夜ほど、線は引きにくくなるもの。

上限を付けられるのは持ち主の側だけ

では、自分のスマホにはどうやって線を引けばいいのでしょうか。

まず、のめり込みかどうかの目安です。

世界保健機関(WHO)は2019年、ゲーム行動症(ゲーム障害)を新しい依存症として認めました。

診断基準づくりに関わった久里浜医療センターの樋口進名誉院長によると、次の4つが全部そろう場合を指すそうです。

  • ゲームの時間をおさえられない
  • ゲームが毎日の暮らしの最優先になっている
  • 悪い影響が出ても、ゲームを続けている
  • 家庭や学校、仕事に支障が出ている

4つが全部そろって初めて当てはまる、というのが大事なところ。

同じセンターが2025年に行った調査では、10代の12.2%、20代の7.6%にゲーム行動症の疑いがあったといいます。

思っているより身近な数字かもしれません。

 

次に、スマホの設定です。

iPhoneなら、設定の「スクリーンタイム」から「コンテンツとプライバシーの制限」へ進むと、アプリ内課金そのものを「許可しない」にできる項目があります。

買うたびにいちいち解除するのは面倒ですが、その面倒さが、そのまま一呼吸置く間になってくれるはずです。

Google Playの予算は知らせてくれるだけなので、決まった額のプリペイドカードだけで払うようにしておくと、線としてはぐっと確かになります。

すでに借金があるなら、ひとりで抱えないこと。

破産法は、免責を認めない理由のひとつに「浪費又は賭博その他の射幸行為」で借金を大きくしたことを挙げています。

それでも同じ条文の2項には、事情をすべて考えたうえで、裁判所が免責を許すことができるという定めも。

借金の整理には自己破産のほかにも方法があるので、早めに法律の窓口へ相談するほど選べる道は増えます。

そして、家族がゲームにのめり込んでいる場合。

ネット・ゲーム依存家族の会の黒田沙希子代表理事は、こう話しています。

「一方的に取り上げるのではなく、抱える悩みを聞きながら親子の関係性を見つめ直すことも必要になる」

時間の上限を決めた自治体もあります。

香川県は2020年の条例で、子どものゲームは平日60分まで、休日90分までという目安を示しました。

愛知県豊明市も去年10月に施行した条例で、小学生以下は午後9時まで、中学生以上は午後10時までとしています。

ただ、どちらも罰則はなく、香川県教育委員会によると、条例ができたあとも県内の子どものゲーム時間は増える傾向にあるそうです。

線を決めるところまでは外からでもできて、守るところは本人の内側に残る、ということなのかもしれません。

 

記事の男性も、自分で「ゲームに逃げた」と話していました。

取り上げても、逃げたかった理由のほうは手元に残ったままなんです。

相談先は、都道府県や政令市の精神保健福祉センターで、ゲームの相談を受け付けているところがあります。

治療では、カウンセリングや血液検査で心と体の状態を調べ、重いときは入院して生活習慣を立て直すのが一般的だそうです。

ただ、背景に発達障害があったり、親子の信頼関係が崩れていたりと、事情が複雑なケースも多いとのこと。

樋口名誉院長も「『これをやれば治る』というものがあるわけではなく、現場は悩みながら対応している」と話していて、専門家の側も手探りなのが正直なところ。

借金は法律の窓口、のめり込みは心の窓口と、別々の扉を叩いてかまいません。

 

天井は、たしかにゲームの中で一番わかりやすい線です。

でも、ひと月に使っていい額の線を引けるのは、スマホを持っている本人と、その隣にいる人だけ。

僕は専門家ではないので、気になる様子があれば精神保健福祉センターや医療機関に相談してくださいね。

次にガチャの画面を開くときは、天井までの回数の横に、自分で決めた今月の金額もひとつ並べておきたいところですね。

この記事で参考にした情報

この記事は、次の情報をもとに書いています。

  • 読売新聞オンライン「『ゲームがないと死ぬ』と思っていた」のめり込んで中退・退職・30歳で自己破産(2026年10月6日配信)
  • インサイド『グラブル』ついに“ガチャ仕様”変更(2016年2月25日配信・Cygamesの発表内容)
  • ねとらぼ「JOGA、『ガチャ課金ルール改定』報道を一部否定」(2016年3月25日配信・日本オンラインゲーム協会のガイドライン)
  • 消費者庁のコンプガチャに関する景品表示法の運用基準(2012年7月1日適用・各社報道)
  • Google Play ヘルプ「Google Play で使う予算を設定する」
  • 破産法 第252条(e-Gov法令検索)