女優の玉城ティナのものだとする、性的な動画をめぐる騒動。

2026年10月6日にXで一気に広がり、本物だと言い切る声と、AIで作られた偽物だという声が、いまも並んでいます。

ところが、この記事を書いている時点で、本人や所属事務所からの発表は見当たりません。

ネットには「ずっとトレンドに上がってるけど事務所は何も対処しないの?」と首をかしげる声も出ていました。

偽物なら、すぐに否定すればいいのに、と感じますよね。

今回は、この流出騒動は本物なのか、そして事務所はなぜ何も言えないのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。


本物の根拠はホクロと服の2つだけ

気になって検索した人がまず目にするのは、「本物だ」と言い切る声の多さかもしれません。

根拠として挙げられているのは、おもに2つ。

  • 腕と太もものホクロの位置が、本人の写真と一致している
  • 着ている服が、本人が宣伝していたブランドのものと同じ

たしかに、そう聞くと信じたくなりますよね。

 

けれど、反対の声もすぐに出ていました。

その服は今年になって発売されたものだ、という指摘です。

撮られた時期の説明も、人によってまったく違っていました。

5年ほど前に撮られて、闇のサイトで高い値段で取引されてきた、という話がある一方で、撮影は今年の3月だと書く人もいます。

同じ動画の説明に、5年もの開きがあるということ。

ただ、どの説明にも、誰がいつ撮ったのかを確かめられる出どころは付いていません。

 

しかも、似せて作る技術はずっと前から出回っています。

2020年10月には、警視庁などがアダルトビデオの出演者の顔を女性芸能人の顔にすり替えた合成動画をネットに公開したとして、男3人を名誉毀損と著作権法違反の疑いで逮捕しました。

うち1人は、動画1本をつくるのに3万枚の画像をAIに読み込ませていたといいます。

被害に遭った女性芸能人は延べ約150人、国内で確認された合成動画は3500本を超えていたそうです。

6年前の時点で、すでにこの数。

ホクロや服は、見る人が本物だと思いたいときにも、作る人が本物らしく見せたいときにも、同じように手がかりになってしまうんですよね。

 

確かめようのない話を広げないで、という呼びかけは、政府広報も出しています。

真偽が分からないときは投稿も拡散もしない、というのがこの呼びかけの中身でした。

結局、あの動画が本物かどうかを言えるのは、写っているとされる本人だけでしょう。

この記事は、あの動画が本物かどうかを判定しないことにしました。

中身や、どこで見られるかにも触れません。


事務所が否定も肯定もできない理由

では、本人しか答えられないのに、その本人や事務所はなぜ何も言わないのでしょうか。

偽物なら「違います」と一言出せば済む、と思いますよね。

実はそこに、法律の側の事情が絡んでいます。

 

写っているとされる人を守るための法律は、いわゆるリベンジポルノ防止法、正式には「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」です。

本人と分かる形で、私的な性的画像を多くの人へ流すと、3年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金になります。

拘禁刑というのは、それまでの懲役と禁錮がひとつにまとまった呼び方のこと。

撮られることを本人が承知していても、ほかの人に見られることまで承知していなければ、守られる側に入る仕組みです。

 

ところが、この罪には1つ条件がついていました。

同じ条文の4項に「告訴がなければ公訴を提起することができない」と書かれています。

告訴というのは、被害を受けた人が、警察や検察に処罰を求めて申し出ること。

本人が自分から申し出ないかぎり、裁判にはかけられません。

しかも刑事訴訟法235条で、こうした告訴は犯人を知った日から6か月を過ぎるとできなくなります。

同じ法律には、SNSの運営会社が投稿を消しやすくなる申し出の仕組みもありますが、申し出られるのは写っている本人(亡くなっている場合は家族)に限られていました。

 

もし動画が合成された偽物なら、今度は名誉毀損が問題になってくるところです。

刑法232条で、名誉毀損も告訴がなければ裁判にかけられないと決められています。

警察庁も、生成AIで性的な画像に加工することについて、犯罪に当たることもあると注意を出していました。

つまり、本物なら「これは私です」、偽物なら「これは私ではありません」と、本人が自分で名乗り出るしかありません。

事務所が「偽物です」と発表すれば、それは本人がそう答えたのと同じ重さになります。

どちらの答えも、本人にとっていちばん口にしたくない言葉ではないでしょうか。

 

だから、黙っていることは、本物だという意味にも、偽物だという意味にもなりません。

ネットで続いている答え探しは、「私です」か「私ではありません」かを、本人に言わせようとしているのと同じ形をしています。


偽物でも売れば罪になる条文

でも、売り買いを止めることに、その答えはいりません。

名前を検索すると、動画そのものより目につくのは、売り込みの投稿でした。

実際に流れていた言葉を並べると、こうなります。

  • PayPay300円で売ります
  • pay500、DM来てください
  • 詐欺無し、実績あり
  • リツイートから少額配布
  • コメ欄(すぐ消す)

目を引くのは、売る人どうしが「有料詐欺多いので固定で無料配布します」と書いていること。

売り場の中にいる人が、ここは詐欺だらけだと自分で言っている状態なんです。

 

先にお金を送らせて、やりとりはDMだけ。

そのうえ相手の名前も顔も分からず、届かなかったときに文句を言う窓口もありません。

相手のアカウントが消えてしまえば、送ったお金の行き先をたどる手がかりもそこで途切れます。

300円や500円という値段も、だまされたときに「まあいいか」で済ませやすい金額です。

しかも、買おうとしたものがものなので、だまされても周りには相談しにくい。

売る側から見ると、これほど声を上げにくい客はいないはずです。

リポストで配る、という形にも仕掛けがひとつ。

リポストした人のタイムラインが、そのまま次の客を呼ぶ看板になってしまいます。

 

警視庁は、別の品物で同じ形の詐欺にくり返し注意を呼びかけてきました。

チケットの話ですが、DMで話をまとめて先にお金を送らせる、という流れは同じです。

送金してもチケットが送られない例が減らない、と警視庁ははっきり書いています。

チケットのように、届かなければ困ると堂々と言える品物でさえ、この状態。

言い出しにくい品物なら、なおさらでしょう。

 

では、もし出回っている動画がAIで作った偽物だったら、売った人は何のおとがめもないのでしょうか。

そうはなりません。

刑法175条は、わいせつな電磁的記録などを頒布した人を罰する条文です。

条文には、電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録を頒布した者も同様とする、とあります。

罰は2年以下の拘禁刑か、250万円以下の罰金など。

頒布は、不特定または多くの人に配ることを指していて、お金を取ったかどうかは関係ありません。

売るつもりで手元に置いておくだけでも、同じ175条の2項で罰の対象になります。

 

しかもこの条文は告訴がなくても動く罪で、写っているのが誰なのかも、本物なのかも問いません。

実際に、写っている人が実在しないケースでも摘発されています。

2025年4月、警視庁保安課は、生成AIで作った女性のわいせつな画像をポスターにしてオークションサイトで売ったとして、男女4人をわいせつ図画頒布の疑いで逮捕しました。

生成AIで作ったわいせつ物の販売が摘発されたのは、全国で初めてだったそうです。

逮捕された人の中には「手軽にもうけられる内職だった」と話す人もいたとのこと。

DMで300円を集めている人も、条文の上では同じ場所に立っていると言えます。

受け取ったものを、ほかの人へまとめて送ったり、どこかに載せたりした瞬間、今度はその人が配る側に回ってしまうんです。

興味本位で手に入れたつもりが、気づけば自分が頒布の側にいる、ということは十分に起こりえる話。


本人に言わせずに止める報告の手順

Xの決まりも、同じ考え方でできていました。

Xは合意のない裸体の描写を禁じていて、顔を別の人の裸の体に重ねた画像や動画もここに入れています。

そのうえで「被害者自身が報告することが困難な場合があることを認識しています」と書き、合意のない裸体の描写や、画像・動画と引き換えに見返りやお金を求める投稿は、誰でも報告できるようにしているんです。

ほかの種類の投稿については、写っている本人か、弁護士などの正式な代理人から直接話を聞かないと動けない場合がある、という但し書きつき。

お金と引き換えに画像や動画を渡す投稿は、最初から本人の手を借りずに止められる側に置かれています。

 

報告の手順は、次の5つ。

  • 投稿の「…」から「ポストを報告する」を選ぶ
  • 「センシティブな画像または動画を表示している」を選ぶ
  • 「許可されていない画像または動画」を選ぶ
  • 「私や他の人の許可していない私的なコンテンツが含まれている」を選ぶ
  • 誰の代わりに報告しているかを選んで送る

X以外の場所で無修正の画像を見かけたときは、インターネット・ホットラインセンターにも通報できます。

通報された情報は、警察への情報提供や、サイトの管理者への削除依頼につなげてもらえる仕組み。

ひとつだけ気をつけたいのが、通報のためでもスクショを撮って載せないこと。

ホットラインセンター自身が、それ自体が違法な情報になるおそれがあると書いています。

流出動画で退学の投稿|アカウントの所在地は日本ではなかった流出した動画のせいで退学になった、という謝罪のポストが、Xで346万回を超えて表示されています。 リプ欄には、頑張れという言葉と、自業...

 

動画が本物かどうかは、たぶんこの先もネットでは決まらないでしょう。

事務所の沈黙も、そう考えると、何かを隠しているのとは少し違って見えてきます。

流れてきた売り込みを開かずに報告して閉じるだけで、本人に何も言わせずに済む側に立てるところですね。