推しの自宅の前で待ち伏せするのは、犯罪になるのでしょうか。

2026年9月29日の夜、木村拓哉の自宅の前で撮ったとされる2枚の写真が、「自宅に張り付くストーカー」という言葉をつけてXに流れ、その夜のうちに大きく広まりました。

写真に添えられていたのは、「会えた」と喜ぶ言葉です。

好きな人に会いたかっただけ、で済む話なのか。

それとも、ファンの憧れでもストーカー規制法の対象になってしまうのか。

 

今回は、この投稿で何が起きているのかを整理しながら、ファンの気持ちがストーカー規制法の中でどう扱われているのかについて、わかりやすく解説していきたいと思います。


家の前で撮られた2枚の写真

流れてきたのは、ある女性が撮ったとされる2枚の写真です。

1枚目は、建物の外壁の前で撮った自撮り。

2枚目は車の中から撮ったもので、そこに「会えた」という喜びの言葉が重ねられていました。

ネットでは、もとはインスタグラムに載せられたものだと言われていて、それを別のアカウントが拾い、「ストーカー」という言葉を添えて広めた形です。

本当に木村拓哉の自宅なのか、撮った人が誰なのかは、外からは確かめられません。

 

反応には、驚きと怖さが並びました。

  • 「さすがに自宅まで張り付くのは怖すぎる…。」
  • 「待ち伏せのことを『会う』って言うの本物のストーカー思考でえぐい」
  • 「ストーカー行為は犯罪ですよ」

たしかに、「会えた」という言い方には引っかかりますよね。

木村拓哉と会う約束があった、という話はどこにも出ていません。

外から見れば、家の前で待っていたように読めます。

 

木村拓哉の家をめぐっては、前にも騒ぎがありました。

2022年3月1日の午後、自宅の敷地に女性が入り込み、警察官に囲まれて職務質問を受けたと、週刊女性PRIMEが2022年4月6日に報じています。

当時の所属事務所(ジャニーズ事務所)は「当該女性による不法行為について、警察に通報し、対応していただきました」とコメントしたそうです。

いま木村拓哉が契約しているSTARTO ENTERTAINMENTも、2025年8月22日に、ファンに向けて待ち伏せやつきまといをやめるよう呼びかけていました。

挙げられているのは駅や空港での待ち伏せ、移動の車の追跡、無断の撮影などで、ファンクラブの会員規約でも禁じられている、と書かれています。


警察庁は憧れも好意の感情に数えている

ネットの「ストーカーだ」という声に、1つ疑問が浮かぶ人もいるかもしれません。

恋人でも元恋人でもない、ただのファンの行動を、ストーカーと呼んでいいのか。

ストーカー規制法が取り締まっているのは、次のような気持ちから出た行動です。

「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で」

条文だけ読むと、恋愛の話に見えますよね。

 

ところが、警察庁がこの法律の読み方を全国の警察に示した通達には、こう書かれています。

「『好意の感情』とは、好きな気持ち、親愛感のことをいい、恋愛感情のほか、女優等に対する憧れの感情等が含まれるものと解される」

芸能人への憧れは、最初から法律の中に数えられているんです。

実際、2019年8月には、Hey! Say! JUMPの中島裕翔につきまとったとして、20代の女性ファンがストーカー規制法違反の疑いで警視庁赤坂署に現行犯逮捕された、と報じられています。

恋人でなくても、憧れの相手への行動にこの法律が使われた例は、すでにあるんですね。

ただし、通達はもう1つ条件をつけていて、特定の人に向けた特別な気持ちであることが必要だとしています。

 

グループ全体をなんとなく応援している、くらいでは当たりません。

1人に会いたくて家の前まで行く気持ちなら、この条件に当てはまりやすいでしょう。

法律が並べている行動の1つ目は、待ち伏せや見張り、家への押し掛けです。

「つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと」

通達は「見張り」を、一定時間継続的に動静を見守ること、と説明しています。

「押し掛け」については、相手が家にいるかどうかは問わない、とも書かれていました。

つまり、家の人が留守だったかどうかで、押し掛けかどうかは変わりません。

 

家を知られている側の怖さを、本人がそのまま書いた投稿も。

SEKAI NO OWARIのFukaseが2025年4月26日の夜に書いたものです。

来ないでね、の一言に、家を知られた人の暮らしがそのまま出ていますよね。


1回なら罰はなくても禁止はされている

では、推しの家の前で1回待っただけなら、問題ないのでしょうか。

罰則がつくのは「ストーカー行為」で、これは同じ相手に「反復して」することと決められています。

ストーカー行為をした人は、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。

拘禁刑というのは、それまでの懲役と禁錮がひとつにまとまった呼び方になります。

つまり、家の前で1回待っていただけなら、罰則まではつきません。

 

ところが、禁止を定めた第3条は、回数を書いていないんです。

「何人も、つきまとい等又は位置情報無承諾取得等をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせてはならない」

つきまといなどで1回でも相手を不安にさせれば、この条文に反したことになり、また繰り返すおそれがあると警察が見れば、警告を出せる仕組みになっています。

警告そのものは罰ではありません。

ただ、繰り返すおそれがあれば、警察を管理する都道府県の公安委員会が禁止命令も出せて、それに背いてストーカー行為をすると、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金と重くなります。

罰を受けるかどうかと、やっていいかどうかは、別々に決められているんですね。

 

行くのとは別に、行ったと載せることを心配する声も寄せられていました。

「家の前に張り付くのもだし家の外観がわかるような写真載せるのまずいよ」

行くことと、行ったと載せることは、別の話に見えます。

ところが、ストーカー規制法が並べる行動の2つ目には、知らせることそのものが入っていました。

「その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと」

通達によると、「知り得る状態に置く」とは、直接伝えなくても、相手がふだんの生活の中で知ることができる範囲に届かせることだそうです。

 

誰でも見られる場所に「家の前で会えた」と書けば、本人や家族の目に入ってもおかしくない場所へ置くことにはなります。

それが監視していると思わせる程度に至るかどうかは、中身と状況しだいです。

今回の投稿がそこまでのものかを、外から決めることはできません。

ただ、行ったと載せることも、条文に入りうる行動のひとつです。

 

ここまで読むと、あの投稿の人をすぐ犯罪者と呼びたくなるかもしれません。

それでも、この法律は最後に、国民の権利を不当に侵害しないように、濫用してはならない、とも書いています。

ネットで一度流れた写真だけを見て、この人は犯罪者だと決めてしまうのも、また違う話です。

家の場所が分かる写真をSNSに載せないよう、政府の広報も呼びかけています。

載せた本人が思っているより、写真は遠くまで届いてしまうもの。


出待ちと家の前は何が違うのか

ファンの人ほど気になるのは、出待ちとの違いではないでしょうか。

テレビ局やライブ会場の出口で待つのと、家の前で待つのとでは、何が変わるのか。

実は、さきほどの1つ目の条文は、「住居」と並べて「勤務先」も書いています。

条文は、家の前か仕事場の前かで、はっきり分けてはいないんです。

分かれ目になるのは、特定の人に向けた気持ちで、一定の時間見張ったり押しかけたりして、相手を不安にさせたかどうか。

場所は、判断材料のひとつにすぎません。

 

それでも、多くの人が家の前だけは別だと感じるのには理由があります。

仕事場の出入り口は、少なくとも本人が仕事として出てくる場所です。

家は、家族が帰ってきて、ごはんを食べて、眠る場所。

会うつもりでいない時間に、会うつもりでいない格好で、知らない人が待っている場所になってしまいます。

事務所の呼びかけが挙げていた駅や空港、移動の車も、仕事とプライベートの境目のような場所ばかり。

その理由には、タレントのプライバシーと並んで「一般の方々の利用の妨げとなり、事故や危険につながる恐れもあり」と、まわりにいる人の安全まで挙がっていました。

待つ人が増えるほど、本人も、通りがかっただけの人も、危ない目に遭いやすくなるはずです。

 

人気YouTuberのコムドットやまとも、2020年10月にこう書いています。

会いたい気持ちに向けて、会える場所をちゃんと用意している人の言葉です。

ファンクラブのイベントや握手会、ライブの会場も同じで、会いたい気持ちを受け止めるための場所は、たいてい本人の側が決めて開けています。

家の前には、会うための扉はひとつも用意されていません。


家の写真を広げる側にもできること

今回の投稿には、もう1つ気になる流れがありました。

「この女のアカウント分かる人いますか?」

怖いと言いながら、同じ写真を保存して広げたり、撮った人を探し出そうとしたりする動きです。

 

気持ちはわかります。

怖いものを見たとき、それが誰なのかを確かめたくなるのは、ごく自然な反応でしょう。

ただ、家の外観が写った写真は、誰が広めても家の場所の手がかりになってしまう。

ストーカー規制法の第6条は、ストーカーをするおそれがある人だと知りながら、相手の住所などを教えることを禁じています。

 

2025年の改正では、この仕組みがもう一歩先へ。

警告などを受けた人がいるとき、その人に居場所を教えそうな相手へ、警察が「教えないように」と求められるようになりました。

家に行く本人に加えて、法律は居場所を渡してしまう側にも目を向けています。

STARTO ENTERTAINMENTは2024年8月に、所属タレントへの権利侵害を知らせる通報窓口を設けました。

権利侵害として窓口に届いた連絡は、2025年1月29日の時点で7万件以上。

中には本人や家族の安全を脅かす情報や、生活の平穏が害されるような情報もあった、と会社は書いていました。

 

流れてきた写真にもやもやしたときに、できることはシンプルです。

  • 家の場所がわかる写真を、保存したり広めたりしない
  • 撮った人の名前やアカウントを探しにいかない
  • 気になったら、所属事務所の公式サイトの通報窓口へ知らせる(STARTOなら「権利侵害に関する通報窓口」)

怒りをぶつける先を探すより、写真の行き先を1つでも減らすほうが、家の人を守ることにつながります。

推しの家の前で待って相手を不安にさせるのは、1回なら罰まではつかなくても、憧れからでも法律が禁じている行動です。

好きな人に会いたい気持ちそのものは、誰にでもあるもの。

推しに会いたい日は、推しが開けてくれている扉のほうへ向かいたいところですね。