六本木の人気キャバ嬢、ヤマトリノこと田澤梨乃容疑者が逮捕されるまでに、警視庁は半年近くをかけていたそうです。

2026年9月26日に現代ビジネスが前編と後編の2本立てで配信した記事は、その捜査を「半年の極秘内偵」と呼んでいました。

しかも見出しには、誕生日イベントの客まで洗った、という一文まで付いています。

客まで、という言い方には、読んでいてちょっと背筋が冷えますよね。

その店に行っただけの人まで疑われていたのか、と思った人もいるはずです。

今回は、内偵という言葉の意味と、警察が誕生日の客まで見張っていた理由を、わかりやすく解説していきたいと思います。


誕生日の夜、店の前に立っていた人たち

ここから先は、現代ビジネスが捜査関係者の話として伝えている内容です。

始まりは2026年の春先で、「六本木のトップキャバ嬢が、違法薬物にハマっている」という情報が警視庁に届いたとのこと。

受け取ったのは、薬物の捜査を専門にしている薬物銃器対策課でした。

情報は複数のルートから上がってきていて、しかも最初から本人の名前と、コカインという薬物の名前まで出ていたといいます。

地元の署ではなく本部の課が乗り出したのは、本人がSNSでよく発信していて、若い人への影響が大きいと見たため。

 

そして2026年4月下旬の夜、六本木のキャバクラビルの前に、店の入り口をじっと見つめる数人の姿がありました。

その日は、ヤマトリノが勤める店でバースデーイベントが開かれていたそうです。

店の前にいたのは、ジーンズやラフなシャツ姿の捜査員たち。

逮捕はそれから半年近くたった2026年9月15日で、容疑はコカインの所持でした。

ここでの「容疑者」は、疑いをかけられて捜査を受けている段階の呼び方で、有罪が決まった人を指す言葉ではありません。

逮捕の容疑になったのは、約0.4グラムのコカインだと報じられています。

ネットには、話題としてはもう落ち着いたと受け止めていた人もいました。

そこへ出てきたのが、捜査の舞台裏を描いた現代ビジネスの記事です。


内偵は警察の規則に書いてある言葉

内偵と聞くと、ドラマの中だけの言葉のように感じるかもしれません。

ところが実は、警察の規則に、そのままの形で出てくる言葉なんです。

国家公安委員会が定めた「犯罪捜査規範」という、警察官が捜査のときに守る決まりをまとめた規則があり、その第101条の見出しが「聞込その他の内偵」となっています。

本文はこうです。

「捜査を行うに当つては、聞込、尾行、密行、張込等により、できる限り多くの捜査資料を入手するように努めなければならない。」

並んでいるのは、次の4つだけ。

  • 聞込=話を聞く
  • 尾行=あとをつける
  • 密行=人目につかないように動く
  • 張込=決まった場所で待ち構える

どれも、見ることと聞くことの積み重ねですね。

同じ規則の第99条には、「捜査は、なるべく任意捜査の方法によつて行わなければならない。」とも書かれています。

任意捜査というのは、相手の家に踏み込んだり物を取り上げたりしない、裁判官の許可が要らない範囲の捜査を指す言葉です。

刑事訴訟法の第197条も、強制の処分は法律に特別の定めがある場合でなければできない、と線を引いています。

内偵は、令状なしでやれることだけで組み立てられた捜査なんです。

 

では、なぜ半年もかかるのか。

現代ビジネスによると、警察には日ごろから、夜の街の事情通や客引き、ドライバーといった人たちから話が入ってくるそうです。

ただ、その中身は「玉石混交」で、根拠のない噂や、悪意のある告げ口も混ざっていると書かれていました。

だから、寄せられた話が本当かどうかは、自分たちの目で確かめるしかありません。

 

捜査班は住まいを突き止めて、毎日の動きを追うところから始めたといいます。

キャバ嬢は夕方に家を出て朝方に帰ることが多く、移動も店の送迎車やタクシーとばらばら。

怪しまれないように、一見すると警察官に見えない女性の捜査員も加えてあとをつけたとされています。

捜査本部も、六本木を受け持つ麻布署ではなく、都内の別の署の空き部屋にこっそり置かれました。

これだけ手間のかかることを毎日続けるのですから、時間がかかるのも無理はありません。

ネットにも、内偵の長さに驚く声がありました。

知り合いから聞いた話という形なので、数字の裏付けにはなりませんが、手間のかかる捜査だという実感は伝わってきます。


誕生日の客を見ていた本当の狙い

いちばん引っかかるのは、やはり誕生日の客のくだりでしょう。

客の側を気にする投稿も、すぐに出ていました。

記事によると、捜査員はその夜、店に出入りする客を全員目で確かめて、必要なときだけあとをつけることにしたそうです。

店の入り口のパネルには、花代を出した客の名前やニックネームも並んでいたと書かれています。

確かめたかったのは、誰と一緒に店へ来るのか、仕事のあとに誰と飲みに行くのか、という点でした。

狙いは、とくに親しい人物を見つけることにあったといいます。

捜査関係者は、大金を使う常連客を調べれば、薬物の入手先の手がかりにつながる可能性がある、とも話していました。

 

たしかに、客まで洗ったという言い方からは、店に来た全員が疑われたように聞こえます。

けれど記事の中身を読むと、客を見ていた目的は、誰と誰がつながっているかの地図を描くことでした。

捜査の指示は「誕生日には、普段あまり来ない客も姿を現すはずだ。交遊関係を全部洗え」だったそうです。

記事には、キャバクラでは捜査員が客のふりをして店に入ることはまずやらない、という意外な一文もありました。

常連の多い店で見慣れない客が本人を指名すれば、すぐに怪しまれるうえ、防犯カメラにも映ってしまうからだそうです。

その代わりに捜査員は、その店で飲んだことのある協力者から話を聞き、本人のSNSも毎日すべて確かめていました。

 

では、その日に店へ行っていた客は、何かの罪に問われるのでしょうか。

コカインについて定めている麻薬及び向精神薬取締法の第66条が罰しているのは、次のような行為です。

  • 製剤する
  • 小分けする
  • 譲り渡す
  • 譲り受ける
  • 所持する

その場にいた、花を贈った、一緒に飲んだ、という行為は、条文のどこにも出てきません。

入手先の手がかりとして常連客が調べられることはあっても、花を出した名前がパネルに並んでいたというだけでは、罪にはならないんです。

捜査する側にも、犯罪捜査規範の第10条で、関係者に必要な限度をこえて迷惑をかけないよう注意しなければならない、という決まりがあります。

調べられることと、罪に問われることは、まったく別の話なんですよね。


令状が要ったのは部屋に入る1日だけ

内偵で集めた材料は、最後にたった1日のために使われました。

記事の後編によると、捜査の途中で、ヤマトリノの部屋に頻繁に通う交際相手の男(28)が浮かび上がったそうです。

埼玉県内でリフォーム会社を経営していて、同じ日に一緒に逮捕された人物。

最初は仲のいい客の1人かと思っていたところ、部屋で半分同棲しているような状態だと分かったといいます。

交際相手をめぐっては、ネットにこんな受け止め方も。

捜査会議で確かめられた方針は、「確実に2人が一緒にいるところに踏み込んで、ブツを押さえること」でした。

そのうえで、コカイン所持の現行犯で2人を逮捕する段取りだったといいます。

現行犯というのは、いままさに罪を犯しているところをその場で押さえる逮捕のことで、このときは逮捕状は要りません。

片方しか家にいない日に踏み込むと、部屋からコカインが見つかっても、2人で一緒に持っていた「共同所持」として立件できない恐れがありました。

8月に動く案も出たものの、夏休みに旅行へ出る可能性や、お盆に捜査員を交代で休ませる事情があって見送ったそうです。

東京地検とも話し合い、着手は9月に入ってからと決まったといいます。

 

そして9月15日の午後、前日から2人が一緒にいることを確かめたうえで、捜査員は部屋のドアの前に立ちました。

そのとき何人かは、部屋を捜すための捜索令状を手にしていたとのこと。

「警視庁だ。開けろ!」という声に、ドアは抵抗もなく開けられたといいます。

逮捕とは別に、部屋を捜すほうは刑事訴訟法の第218条が、裁判官の発する令状が要ると定めているんです。

見ること、聞くこと、あとをつけることは令状なしでできても、部屋の中へ入るには令状が欠かせません。

半年の内偵は、ドアの内側へ入るこの1日のための準備だったのだと思います。

部屋からは白い粉の入った袋が21個とストローも見つかり、その一部を鑑定してコカインだと分かったそうです。


周りが気にしている、その先のこと

ネットには、このあと誰かに波及するのかを気にする声も出ています。

記事の最後で、警視庁の幹部は「2人の逮捕で終わりじゃない。入手ルートも含めて、関連の捜査は当分続けるよ」と話していました。

手練れの捜査員たちは、すでに次の狙いを定めて動き始めている、とも書かれています。

六本木の店のまわりには、暴力団を担当する別の課の捜査員も、夏前から姿を見せていたそうです。

こちらは店のお金の流れや、反社会的勢力とのつながりを別の筋で調べていて、2つの課が連携した形跡はなかったとのこと。

 

すでに尿検査も行われていて、使用の容疑でも再逮捕か追送検を検討しているそうです。

追送検というのは、いま調べている事件とは別の容疑を、あとから検察へ送る手続きのこと。

ヤマトリノは「2人で使っていた」と話し、最初は否認していた交際相手も認める話を始めていると伝えられています。

色々と話していそうだ、という声も出ていますが、取り調べで何を話したかは外からは分かりません。

 

記事には、課内でも何をやっているかはまず漏れてこない、という一文もありました。

その中身が、こうして捜査関係者の話として、細かく記事になっているのは少し不思議な気がするんですよね。

犯罪捜査規範の第9条も、捜査では秘密を守り、関係者の名誉を傷つけないよう注意しなければならない、と定めています。

誕生日の夜に店へ行った客も、その関係者に入るはずでしょう。

 

そのいっぽうで、戻ってくる日を待っている人もいます。

捜査はまだ入り口だと書かれているので、話はこれから先も動いていくはずです。

ただ、店に行った客が調べられることと罪に問われることのあいだには、条文ではっきり線が引かれています。

続報で誰かの名前が出ても、まずその人が何をしたと書かれているのかを確かめたいところですね。