翌朝の新聞に載るはずの記事を、前の晩のうちに止めにいった芸人がいます。

2026年10月20日の夜、霜降り明星の粗品が、スポーツニッポン(スポニチ)に向けてXで「明日の紙面に出る予定のものを取り下げなさい」と書いたんです。

期限はその日の22時で、応じなければ「今後一切粗品を取り扱わせません」とまで書いてありました。

そして期限の22時を過ぎたあと、粗品は自分の生配信で大晦日の特番『ツッコミスター』を発表し、Xに残したのは「スポニチざまあみろ」の一言。

ネットでは「結局、スポニチが載せようとしていたのはこの話だったの?」という声と、「そもそも新聞の記事って止められるの?」という声が飛び交っています。

今回は、22時をはさんで何が起きたのかと、出る前の記事を止める法律の仕組みを並べて、粗品とスポニチが何を争っていたのかを見ていきましょう。


22時までと期限を切った粗品の最後通告

投稿が出たのは、10月20日の19時6分でした。

粗品は同じ夜、YouTubeに「スポニチへ」という動画も上げていて、カメラの前で文面を読み上げ、そのまま投稿ボタンを押すところまでが映っています。

動画のなかで本人は「僕の独断じゃなくて」と話し、会社にも確認したうえでの投稿だと説明していました。

演者がSNSで派手なことを言うときに「会社に確認を取らへんとかって結構ダメなこと」なので、最低限のモラルは守った文言にした、とのこと。

 

連絡先には、この件のためだけに作ったメールアドレスが書かれていました。

アドレスの頭が「soshinavssponichi」、つまり「粗品vsスポニチ」と読める並びになっていて、ネットではここに笑う声がいくつも上がっていたんです。

本人も動画で「なんで俺が当事者やねん」「こんなん誰かがやってたら1番おもろいのに」とこぼしていて、見ている側としては、つい頬がゆるむ場面。

それでも「エンタメ風にしてるけど、これもガチやから」と、念を押すことは忘れていません。

では、10月21日の紙面には何が出る予定だったのか。

19時の投稿と動画の時点では、ここは一切語られていません。

本人が話したのは「明日なんか変な記事が出ます」ということと、「面白く発表するというか、やりたいこととかいっぱい考えて、いっぱい準備してるのに」ということだけでした。

ネットでは、結婚の報告ではないかという声や、粗品が競馬の負けを自分で名乗っている〈生涯収支マイナス◯億円〉の肩書きがまた変わる話ではないかという声も出ていましたが、答えらしきものが出てくるのは、期限の22時を過ぎてから。

 

出る前の記事を止める仮処分という手

粗品の投稿には、こんな一文も入っていました。

「その情報は然るべきタイミングで俺の口から発表する話です」

この一文は、記事の中身が嘘だとはひと言も言っていません。

書いてあるのは、いずれ自分の口で世の中に出すつもりの話だ、ということなんです。

 

では、新聞や雑誌の記事を、出る前に止める方法はあるのでしょうか。

ひとつだけあって、裁判所に申し立てて、印刷や販売を差し止めてもらう「仮処分」という手続きがそれです。

ただ、最高裁は1986年6月11日の判決(北方ジャーナル事件)で、この差し止めを原則として許されないものと位置づけました。

例外として認められるのは、内容が真実でないか、公益のためでないことが明らかなうえに、重大で取り返しのつかない損害が出るおそれがあるときだけです。

この判決は政治家についての記事が対象でしたが、私生活の記事でも、出る前に止めてもらうのは簡単ではありません。

たとえば2004年3月、ある政治家の長女の離婚を報じた週刊文春の記事に、東京地裁がいったん販売の差し止めを命じたことがありました。

ところが東京高裁は、プライバシーの侵害そのものは認めながらも、出る前に止めるほどの程度ではないとして、その命令を取り消しています。

 

この2つの判断と粗品の一文を並べると、裁判所が見ているものと、粗品が守りたいものが食い違っているんです。

裁判所が出る前に止めるかどうかを考えるとき、いちばん大きな手がかりになるのは〈中身が本当か〉と〈出たらどれだけの害があるか〉。

でも粗品は、中身が違うとは言っていませんし、むしろ自分で発表するつもりだと書いています。

粗品が止めたかったのは記事の中身ではなく、〈誰が先に言うか〉という順番だったんですよね。

この順番の話は、ここまで見てきた判決の基準のどこにも出てきません。

本人もそこは分かっていて、動画では「法的にどれぐらいの効力があるかって話になると、結構薄いと思う」「俺が警察に駆け込んでも止まらんと思う」と、自分から話していました。

 

芸人が記事に怒る例は、ほかにもあります。

たとえばブラックマヨネーズの吉田敬は9月、番組で言っていない言葉が記事になったとXに書いていました。

こちらは〈書かれた中身が違う〉という怒りなので、「それは言っていない」と言い返せます。

粗品の怒りは、その逆。

中身が合っているからこそ、先に出されたくなかった話でした。


スポニチをNG媒体にするという対抗策

法律で止めるのは難しいと承知のうえで、粗品が持ち出したのは別のやり方。

動画で「できる範囲で言うと」と前置きして挙げたのは、次の3つです。

  • 自分から発表する会見にスポニチを呼ばない(いわゆるNG媒体)
  • ネットニュースになりそうな話は記者会見を増やして先に出し、スポニチだけが毎回遅れる形にする
  • 自分が発表する前に同じ話を出したところは、スポニチ以外も同じ扱いにする

このうち記者会見の話について、本人は新聞にとって「致命的」だと話していました。

 

ネットには、この要求に両方の声が出ています。

ひとつは「自分がやられる側になったらごっちゃごちゃ言うんかい」という、他人のニュースをいじってきた粗品が自分の番で怒るのはおかしい、という声。

もうひとつは「本人の口から聴きたい」という、新聞の見出しより本人の言葉で知りたいというファンの声です。

他人のニュースをいじってきた人が、自分の番だけ止めにかかるように見えれば、ずるいと感じるのも無理はないですよね。

ただ粗品は、許してきた記事と許せない記事の線を、動画のなかで自分で引いていました。

配信やラジオ、テレビで話したことをそのまま文字にしただけの記事は、大げさな見出しや印象操作があっても「すごく大きい器で許していきました」と言います。

自分の話で誰かが稼いでいることを知っていても、文句ひとつ言わなかった、とも話していました。

許せないのは、自分がまだ口にしていない話を、我先に出して稼ぐこと。

粗品自身も、タレント個人の意向は「めっちゃ弱っちい」と認めつつ、「ここまで行動起こして声あげる芸能人」がいなかっただけだ、とも話しています。

 

22時を過ぎて発表された大晦日のツッコミスター

そして22時。

粗品はこの時間、YouTubeで「スポニチ待ち(切り抜き禁止)」という生配信を開いて、連絡が来るのを待っていました。

配信を見ていた人の投稿にも、スポニチから連絡が来たという話は出ていません。

期限を過ぎると、粗品は黒いネクタイを白いネクタイに締め替えて、「本来この話は11月末に言おうと思ってた話」と前置きしたうえで発表に入ったそうです。

中身は「2026年12月31日、年またぎでフジテレビで『ツッコミスター』やります」というもので、放送は12月31日の22時から24時45分までと報じられています。

『ツッコミスター』は、粗品がYouTubeの「粗品のロケ」で始めた企画「ツッコミマン」をもとに、今年の5月にフジテレビ系で放送されたお笑い特番で、粗品が出場者選びから審査、MCまでを務めた番組です。

 

発表の少しあとには、番組の公式アカウントも「2026/12/31 大晦日 年またぎ」と入った画像を出しました。

粗品はこの投稿を引用して「スポニチざまあみろ」とだけ書き込んでいます。

スポニチが10月21日の紙面に載せる予定だった記事が、この大晦日の話だったのかどうか、スポニチ側からの説明はこの夜の時点では出ていません。

ただ、「11月末に言おうと思ってた」という前置きと、発表のあとの「ざまあみろ」を並べると、粗品自身はこれを〈先に書かれるはずだった話〉として扱っています。

法律では守れなかった順番を、粗品は予定より早く自分の口で発表して、取り返しました。

ずるいと思った人もいれば、本人の口から聞けてよかったと思った人もいるはずです。

それでも、どちらの人にとっても、最初に聞いたのは粗品本人の声だったということですね。