2026年7月、約1151億円の負債を抱えて破産した決済代行会社、全東信。

その社長が10月6日に亡くなっていたことが、ちょうど1か月たった11月6日になって分かりました。

飲食店のカードの売上を立て替えてきた会社で、破産のあとには少なくとも20年前からとされる粉飾の疑いまで出ています。

そのさなかの訃報に、ネットでは「このタイミングで」と身構える声が広がりました。

目につくのは、「死人に口なし」で粉飾の解明がうやむやになってしまうのでは、という不安です。

今回は、社長が亡くなったことで破産の手続きの何が止まり、何が止まらないのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。


1か月遅れで分かった社長の死

時事通信によると、亡くなったのは全東信の髙山萬保社長(75)で、10月6日に死去していたことを破産管財人が明らかにしたそうです。

破産管財人というのは、破産した会社の財産を預かって調べ、お金を貸していた人たちへ分ける役目を裁判所から任された弁護士のこと。

死因は病死とみられるとのことです。

全東信は、大阪・ミナミの飲食店が集まってつくった協同組合から始まった会社だと、東京商工リサーチは伝えています。

仕事の中身は、お店のカードの売上の立て替えでした。

カードで払われたお金は、お店に入るまで数週間かかるのがふつうです。

全東信はそれを最短5日で先に払い、代わりに手数料を受け取っていたと関西テレビは報じています。

資金繰りに余裕のない小さなお店にとって、この早さは助かる仕組みだったはずです。

多いときには、加盟していたお店がおよそ20万店にのぼったとのこと。

 

立て替えて手数料をもらう商売なのに、どうして破産までいったのか、と首をかしげる人もいたようです。

その答えの一部は、裁判所に出された破産の申立書の中にありました。

関西テレビの報道では、申立書に「少なくとも20年前から630億円にのぼる決算の粉飾を行っていた」という記述があり、目的は財政が悪くなっていくなかでも金融機関からの借り入れを続けることだったそうです。

630億円は負債の額とは別で、決算を実際よりよく見せていた分の額のこと。

時事通信は、スマートフォン決済が広まって手数料を下げざるを得なくなり、2015年ごろから収益が急に悪くなったことも申立書に書かれていたと伝えています。

そのうえ2024年には、他人の名義で加盟店の契約を結ぼうとしたとして社員が逮捕される事件も起きていて、業界の中では信用への不安が広がっていたとのこと。

貸していた金融機関は60を超え、大阪市の近畿産業信用組合は、およそ124億円が回収できなくなったと発表しました。

 

本人にしか話せなかったこと

このタイミングで、と引っかかるのは無理もないと思います。

粉飾の解明が進んでいくのは、これからという時期の訃報でした。

実際、破産管財人もその影響ははっきり認めています。

産経新聞の取材には「聞き取り調査には少なからぬ影響がある」と答え、東京商工リサーチには「代表者への聞き取りは不可能になる」と話しているんです。

経営が傾いていった経緯や、長い年月にわたるとされる粉飾を、誰がどう決めてきたのか。

そこを社長本人の口から聞く道は、もう閉じてしまいました。

 

ここまでだけ見ると、たしかに「死人に口なし」に見えてしまいますよね。

ただ、管財人は同じ取材で「破産手続きへの影響はなく、これまで通り粛々と進められる予定」とも話しています。

聞き取りはできないのに、手続きには影響がないという言い方。

破産の法律は、もともと社長ひとりの話だけに頼る作りにはなっていません。


破産が終わるまで生きている会社

社長が亡くなっても、破産しているのは全東信という会社で、その会社はいまも残っています。

破産法35条の一文は、こうです。

「破産手続による清算の目的の範囲内において、破産手続が終了するまで存続するものとみなす」

人とは別に、会社は手続きが終わるまで「まだある」ものとして扱う、という決まりです。

そして、その会社について説明しなさいと言える相手も、社長ひとりに限られていません。

 

破産法40条が、破産について必要な説明をしなければならない人として挙げているのは、次のとおり。

  • 破産者(今回なら会社)
  • 破産者の代理人
  • 取締役、執行役、監事、監査役などの役員
  • 役員に準ずる人
  • 従業員(裁判所の許可があるとき)

しかも同じ条の2項で、この義務は「であった者」、つまりもう辞めた役員や元の従業員にも及ぶと決めています。

説明を拒んだり、うその説明をしたりすれば、3年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金、または両方に問われる決まりです(268条)。

拘禁刑というのは、それまでの懲役と禁錮がひとつにまとまった呼び方です。

説明を求めることは、管財人だけでなく、お金を貸していた人たちの集まりである債権者集会の決議でもできます。

貸した側にしてみれば、何があったのかを聞く場は、社長が亡くなっても残っているわけですね。

 

会社の帳簿も、手続きの中に残されたまま。

管財人が申し出れば、裁判所書記官が帳簿をその時点で締め切り、あとから書き足せないようにすることもできます。

さらに、役員に責任があったと分かれば、管財人の申し立てなどで、裁判所が損害賠償の額を決める手続きも用意されています(178条)。

ここでいう役員は、取締役や監査役などを含む言葉で、社長だけを指してはいません。

粉飾について話を聞ける人は、社長のほかにもいるんです。

もちろん、社長の頭の中にしか無かったことは、もう誰にも確かめようがありません。

それでも、社長が亡くなって閉じたのは、本人から話を聞くという道ひとつでした。

 

相続財産へ引き継がれる社長個人の破産

もうひとつ、会社とは別に進んでいたのが、社長個人の破産です。

髙山社長は、自分自身も9月16日付で大阪地裁から破産手続きの開始決定を受けていたと、東京商工リサーチは伝えています。

亡くなったのは、その手続きの途中のことでした。

本人が亡くなれば個人の破産も消えてしまうのかというと、そうではありません。

破産法227条にはこうあります。

「裁判所は、破産手続開始の決定後に破産者について相続が開始したときは、当該相続財産についてその破産手続を続行する。」

 

人が亡くなると、その人の財産は相続財産になります。

開始の決定のあとに亡くなった場合は、その相続財産を相手に、破産の手続きがそのまま続くという決まりです。

条文は「続行する」と言い切っていて、続けるかどうかを誰かが選ぶ形にもなっていません。

だから、社長個人の財産や借金は、亡くなったことで帳消しにはならず、これからも手続きの中で調べられていきます。

訃報が伝わった日、ネットにはこうしたお悔やみの言葉も並んでいました。


お店の売上金はどうなったのか

全東信を使っていたお店の人にとっては、自分の売上がどうなるのかがいちばん気がかりだったはずです。

破産のとき、7月1日から5日までの売上が入っていない店は少なくとも2万店を超え、金額は計53億円に上ったと共同通信は伝えていました。

この分は破産債権、つまり手続きの中で残った財産から割合で分けてもらうしかないお金として扱われ、7月の時点では支払いの見通しが立っていなかったそうです。

カードの売上が入らないまま夏を越すのは、小さなお店にはかなりこたえたと思います。

 

その見通しを変えたのが、9月25日の破産管財人の発表でした。

カード会社が資金を用意して、これまでに発生した未入金の売上金、総額約54億円を約2万店に支払うという内容で、10月中にも全額が入るめどがついたと報じられています。

支払うカード会社のひとつ、クレディセゾンは、自社が扱うカードの分を10月15日に店へ直接支払うと加盟店に案内していました。

実際に入金されたかどうかは、お店が使っていたカード会社からの案内で確かめられます。

お店の売上金は、社長が亡くなる前に、別の道で戻る形がもう決まっていたんです。

一方で、まだ決まっていないのが、60を超える金融機関など、お金を貸していた側への配当。

こちらは会社に残った財産をどれだけお金に換えられるかで決まり、管財人がいままさに調べている部分です。

 

社長が亡くなったと聞くと、すべてが闇の中へ消えていくような気がしますよね。

けれど、会社の破産も社長個人の破産も手続きは続いていて、説明を求められる人も帳簿も残っています。

いちばん大きな空白は、なぜ長いあいだ粉飾が続いたのかという点で、そこは本人の口からはもう聞けなくなりました。

管財人の調べからその答えが出てくるまでは、外から見えているものだけで結論を決めてしまわないほうがよさそうです。

本人にしか語れなかったことがあったと思うと、胸が重くなるのを止められません。

亡くなられた髙山萬保社長のご冥福をお祈りいたします。