「ヒカルチャンネルでお米を売れなくなりました」

そんなタイトルの動画が、いまネットで広がっています。

YouTuberのヒカルさんが手がけているお米の事業「元気だ米」で、スタッフの方が助けを求めている内容。

そう受け取った人たちから、ヒカルさんへの批判が次々に出ました。

ところが同じ動画の説明欄には、値下げのお知らせと割引コードが並んでいます。

助けを求める声なのか、それとも宣伝なのか。

同じ7分56秒の動画が、読む人によってまるで別のものになっています。

この仕掛けがうまいのは、どちらの読み方も間違っていないところ。

 

ヒカルが米に飽きたと言われるまで

動画が公開されたのは2026年9月17日の夜で、出しているのは「IRIE × ReZARD Channel」というチャンネルでした。

ヒカルさんがプロデュースしたブランド『ReZARD』の公式YouTubeチャンネルです。

ヒカルさん本人のチャンネルとは別で、説明欄にも「ヒカルチャンネルでは伝え切ることができない『ReZARD(リザード)』に関する情報をお伝えしていきます!」と書いてあります。

 

動画そのものの再生回数は、公開から数日がたった9月22日の時点でも41万回台です。

動きが変わったのは9月21日の夕方で、この動画を紹介したX(旧Twitter)の投稿が流れます。

そこに添えられていたのが、「もうヒカルさんは米に興味がないようです」という一行でした。

この投稿の表示回数は、9月22日の時点で938万回を超えています。

 

紹介した一行だけが、はるかに遠くまで運ばれていきました

※再生回数と表示回数は数え方が違うので、そのまま比べられる数字ではありません。

それでも片方は41万回で、もう片方は938万回という開きのまま、9月22日の朝にはYouTube系のニュースサイトが記事にして、ここで一気に広がります。

返信欄に並んだのは、こういう言葉でした。

  • 「そもそもヒカルなんかに頼る時点でダメ」
  • 「結局、話題が無くなったら飽きるんよ」
  • 「炎上商法はヒカルの常套手段だからね」
  • 「一時の再生回数稼ぎに利用されただけ」

米の事業から手を引いたか、飽きてほったらかしになっているか。

そう読んだ人の言葉が、次々に並んでいます。

動画の説明欄に書いてあったこと

では、その動画の説明欄を開いてみると、1行目に置かれていたのはこういう文でした。

■新米入荷&値下げしました‼️元気だ米の購入はこちらから🌾🍚 しかも【2026】コード入力で初回500円OFF🉐

新米が入ったこと、値下げしたこと、そして初回500円引きのコード。

販売ページへのリンクも、そのすぐ下に貼ってあります。

 

つまりタイトルだけが困った形をしていて、説明欄は販売のお知らせでした。

仕掛けと呼べるものは、この落差だけです。

このチャンネルが何を出しているかを見ると、もう少しはっきりします。

翌日に上がっていたのは「塚本夫妻の夫婦仲を診断したらヤバすぎました」という動画で、社員が出てくるバラエティのチャンネルなんです。

同じ夜、お米の事業の公式アカウント「元気だ米【公式】お米の定期便」も動いていて、まず動画と同じ言葉で1本。

そして同じ夜のうちに、続けてこの2本が出ていました。

もう1本は「初回クーポンあり‼️ ぜひこの機会に「元気だ米」、お米の定期便を始めましょう」という案内です。

売れなくなったと言った口で、値下げと定期便の案内。

そう書くと意地悪に聞こえるかもしれませんが、隠している様子はどこにもありません。

 

動画に出ていたスタッフの方も、同じ夜に自分のアカウントでこう書いていました。

「ピンチ🆘動画です!コメント大歓迎です!」

本人が「ピンチ動画」と名づけて、コメントまで歓迎していました

助けを求める告発なら、こういう言い方にはなりませんし、企画として作られたものだと出した側は最初からそう言っていた形になります。

 

ここまでを、開く前に知ることはできたのでしょうか。

できました。

説明欄の1行目は、再生ボタンを押す前から読める場所です

スーパーより高い米になっていた

ただ、「全部が作り話だった」と片づけてしまうと、今度はこちらが事実を見落とします。

「売れなくなった」という部分は、おそらく本当でしょう。

農林水産省が2026年9月18日に発表した数字では、全国約1000店舗のスーパーで9月7日から13日に売られたお米5キロの平均価格は2971円でした。

前の週より32円安く値下がりは5週連続で、2024年9月上旬以来、およそ2年ぶりに3000円を割っています。

お米が安くなっているところなんです。

いっぽう「元気だ米」の価格は、公式の販売ページにこう出ています。

  • 通常精米5キロの定期便が2499円
  • 同じものを単品で買うと3499円
  • 送料が全国一律1000円(沖縄は2000円)

スーパーの平均が2971円で、こちらは定期便でも送料が別に1000円。

お店で買うほうが安く済む形です

しかもこの値段の逆転は、去年から指摘されていたことでした。

八百屋歴14年という肩書きで発信している青髪のテツさんは、2025年4月17日に配信したYahoo!ニュースの記事で、すでに同じことを書いています。

当時はスーパーの相場が5キロ4200円ほどで、ヒカルさんの販売が3980円に送料約1000円。

そのうえで「ヒカルさんから購入する方がスーパーで買うよりも高い」と指摘していました。

 

なぜ高くなるのかというと、元気だ米が農家から高値で買い取る設計だからで、同じ記事によれば買い取りは新潟県産コシヒカリと同等の高値だそうです。

そもそもこの事業は、資材の値上がりと担い手不足で作っても基本的には儲からないという、農家の状況から始まっています。

そこを何とかしようとして、仕入れ値を高くしたところからスタートしました。

高く仕入れたものを安く売ることはできません

 

返信欄にあった「スーパーより高い米買うやつおるん?」という声は、そこを突いた指摘でした。

お米が高かったころは高く買い取って売っても勝負になりましたが、お米が安くなると、その仕組みが先に苦しくなります。

農家を助けるための値付けが、売れない理由に変わりました

動いたのはお米の相場で、動画のタイトルはその意味で嘘をついていません。

困って見せる広告に決まりはない

さて、返信欄にはもうひとつの流れがあって、何人かが同じところに引っかかっていました。

  • 「エンタメですから!って言えば誤解を招く誤報をしていいのか、と考えてしまう」
  • 「配信内で出演者を騙すのはエンタメ。見る方を騙すのはエンタメじゃなくて詐欺」

モヤモヤしているのは、この人たちが引っかかりやすいからではありません。

答えは、決まりの側にありました。

広告の嘘を取り締まる法律に景品表示法があって、その第5条が、やってはいけない表示を並べている条文です。

商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し(中略)不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの(中略)よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示

出典:景品表示法 第5条第1号・第2号(e-Gov法令検索)

読むと、禁じられているのが「著しく優良」に見せることと「著しく有利」に見せることの2つしかない点に気づきます。

優良も有利も、実際より良く見せる方向の言葉です。

今回のタイトルは、その逆を向いたものでした。

困っている、うまくいっていない、助けてほしい。

自分たちを弱く見せる方向に、この条文は用意されていません

 

いっぽう、広告なのに広告だと分からない形には、きちんと決まりがあります。

いわゆるステマ規制で、令和5年内閣府告示第19号として出され、2023年10月1日から景品表示法違反になりました。

消費者庁の運用基準には、一般消費者にとって「事業者の表示」であることが明瞭となっていれば違反にならない、と書かれています。

 

出しているのは会社の公式チャンネルで、説明欄の1行目に置かれているのは販売リンクと割引コード。

公式アカウントも、同じ夜に定期便の案内。

広告だと分かる形は、むしろ揃っているほうです。

 

良く見せる嘘にも、隠した広告にも、決まりは用意されています。

けれども、困りごとの形をした宣伝は、どちらの網にもかかりません

だから、なんとなく釈然としないまま終わる。

その居心地の悪さには、ちゃんと理由がありました。

タイトルで驚いたら見る3つのところ

同じ形の動画や投稿は、「終わりました」「限界です」「もうやめます」と、毎日のように流れてきます。

開く前に3つだけ見ておくと、見分けがつきやすくなるはずです。

ひとつ目は、誰が出しているか。

本人や会社の公式アカウント、公式チャンネルから出ているなら、それは本人が出したい形だということで、第三者の告発とはそもそも立場がちがいます。

 

ふたつ目が、説明欄やプロフィールの1行目。

販売リンク、割引コード、クーポン、応募フォーム。

このどれかが1行目に来ていたら、それは売るために作られたもので、再生する前に読めるぶん、いちばん早い確認になります。

 

みっつ目は、同じ相手が同じ日に何を出しているか。

1本だけ見ると悲壮に見えるものが、前後を並べた瞬間に普通の告知に戻ることがよくあります。

今回でいえば、同じ夜に並んでいたのは値下げとクーポンの案内。

「飽きた」「やめた」と言われているその日、動画に出ていたスタッフの方はこう書いていました。

やめた人の書き方ではありません。

もちろん、これで事業がうまくいっているかどうかは分かりませんし、お米を買うかどうかは値段と好みで決めればいい話です。

ただ、手を引いたかどうかという一点についてだけなら、答えはもうはっきりと出ています。

 

今回、誰も嘘はついていませんでした。

売れなくなったのは本当で、値下げしたのも本当で、企画として作ったのも本当。

タイトルだけが先に歩いていって、「もう興味がない」という読み方だけが残りました。

タイトルは、いちばん少ないことしか言えません

たいていの答えは、動画を開く前のところに置いてあるものです。

だから驚いたときは、説明欄の1行目まで指を動かしてみてくださいね。

 

この記事で参考にした情報

  • IRIE × ReZARD Channel「ヒカルチャンネルでお米を売れなくなりました」(2026年9月17日公開)の動画ページと説明欄
  • 元気だ米【公式】お米の定期便(@genkida_mai)の投稿
  • いつきゆりこ|元気だ米(@1tsuki_yurik0)の投稿
  • 農林水産省が2026年9月18日に発表したスーパーでの販売価格(全国約1000店舗・9月7〜13日)
  • 元気だ米 公式販売ページの価格表示
  • 青髪のテツ「『米を作るほど赤字』YouTuberヒカルの挑戦が農業に突きつけた現実」Yahoo!ニュース エキスパート(2025年4月17日配信)
  • e-Gov法令検索「不当景品類及び不当表示防止法」第5条
  • 消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。」