獄中育ちの再出発。

Netflixの恋愛リアリティ番組『ラヴ上等』のシーズン2が、坊という男性に付けた紹介文です。

たった一行で、見る前から身構えてしまう並びですよね。

 

ところが本編の坊は、草むしりも炊事もさっさと引き受けて、仲間のことで泣いてしまう人です。

その落差のせいか、坊の経歴を調べたまとめ記事が、ネットにいくつも出ています。

そこには「鑑別所4回」「少年院2回」という数字が、どれも同じ順番で並んでいました。

今回は、坊が番組で自分から話したことと、その数字が何を数えているのかを、わかりやすくまとめていきたいと思います。


坊が番組で自分から明かした経歴

『ラヴ上等』は、MEGUMIが企画とプロデュースを手がけている恋愛リアリティ番組です。

元暴走族や少年院を出た人たちが「羅武上等学園」という学校に集められ、14日間いっしょに暮らす様子を映しています。

シーズン1の配信が2025年12月9日からで、シーズン2は2026年8月4日から毎週火曜日に配信され、全20話になりました。

スタジオでMCを務めているのはMEGUMIと永野で、シーズン2からはAwichとONE OK ROCKのTakaも加わっています。

 

坊は、そのシーズン2の男性メンバーのひとりです。

参加者の紹介で公開されたプロフィールは職業が塗装業で、そこに添えられていたのが、さきほどの「獄中育ちの再出発」という一行でした。

ちなみに、この紹介文は全員に付いています。

美容師のたいちゃんが「顔面タトゥー、優しさ迷子」、格闘家のマー君が「頼れる兄貴、恋は不器用」。

どれも一行で人物を言い切る作りなので、坊の一行だけが特別に重いわけでもないんですよね。

 

名前の由来については、Netflix公式のYouTubeに答えがありました。

坊が出てくる場面をまとめた動画のタイトルに、暴れん坊という言葉が入っています。

暴れん坊の、坊でした。

 

もう少し細かいところは、芸能ニュースのモデルプレスが8月20日に配信したインタビューでわかります。

そこでの肩書きは、野口瑞紀27歳、塗装業。

出身についても、本人が「出身は福岡県の久留米市です。職業は塗装業をしています」と答えていました。

 

過去についても本人の口から出ていて、共同生活で困らなかったかと聞かれた坊は、こう答えています。

「共同生活には慣れているので特に悩むことはなかったです」

少年院にいた経験があるから慣れている、という意味の答えです。

 

番組に出た理由は「良い出会いがあったらいいなと思って参加させていただきました」。

これまでの恋愛については「自分のことも含めて結局みんな、何かあったら自分が一番可愛いから、お互いにすぐ離れていくんです」と振り返っていました。

14日間を終えての感想も残っています。

「他人のことを、見た目とかで決めつけてたんですけど」「向き合ってみないとわからないんだなと思いました」とのこと。

見た目で決めつけられてきたであろう人の口から、この言葉が出てきます。

うーん、と少し唸ってしまいました。

 

番組での恋の行方についても、本人が言葉を残しています。

ひかるに気持ちが向いた理由は「一目惚れというか、すっぴんが可愛かったから」。

「もう気持ちが入ってしまったら、一直線というか、周りは見えないですから」とも話していました。

はーちゃんから向けられていた好意については「はーちゃんの気持ちには全く気づいてなかったです」。

告白されたときの正直な感想が「なんで俺?」だったというのですから、強面の見た目とはずいぶん距離があります。


獄中育ちの再出発というコピー

ここまでが、番組と本人が外へ出している分です。

ネットでの坊の評判も、おおむねこの延長線上にありました。

「坊は掘れば掘るほどいいよね」「1番垢抜けてカッコよくなった」「坊くんが1番付き合ったら幸せにしてくれる男なのでは無いでしょうか」。

振られ方について「余計なこと言わないのが結局一番相手を傷つけないと思う」と書いている人もいました。

ところが、坊の名前を検索すると、もっと細かい数字も出てきます。

 

鑑別所に4回、少年院に2回、刑務所に3年。

元暴走族の総長。

この並びは、複数のまとめ記事に同じ形で載っています。

番組のなかで本人が話した内容だとされていますが、同じ数字は報道記事で確認できませんでした。

いま確かめられるのは、そこまでです。

 

そのうえで気になったのが、この三つが並んだときの見え方でした。

鑑別所、少年院、刑務所。

数字が大きいほど悪くて、施設の名前が後ろになるほど重い。

そんなふうに、一本の物差しの目盛りとして読めてしまいます。

実際、この数字を先に見てから坊を見ると、どうしても身構えるはずです。

そういう順番で番組を見始めた人も、いると思います。

 

ただ、法律を開いてみたら、話がずいぶん違いました。

この三つは、そもそも別の目的で作られた別の場所だったんです。

しかも法律は、そのうち二つを刑罰だと呼んでいません。


鑑別所は調べるための場所だった

まず鑑別所から。

正式には少年鑑別所といって、根拠になっているのは少年法の第17条です。

条文にはこう書いてあります。

「家庭裁判所は、審判を行うため必要があるときは、決定をもつて、次に掲げる観護の措置をとることができる」

その二番目に「少年鑑別所に送致すること」と並んでいます。

 

大事なのは「審判を行うため必要があるときは」というところ。

審判というのは家庭裁判所がその子をどう扱うか決める手続きのことなので、鑑別所へ入るのは、まだ何も決まっていない段階です。

決まったあとに罰として入る場所ではありません。

 

期間も条文で区切られています。

同じ17条の3項が「少年鑑別所に収容する期間は、二週間を超えることができない」、4項が「更新は、一回を超えて行うことができない」。

例外はありますが、原則は2週間で、延ばしても4週間までです。

刑務所の「3年」とは、そもそも桁がちがいます。

 

では、その数週間で何をしているのか。

少年鑑別所法の第16条に、はっきり書かれていました。

「医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識及び技術に基づき」、その子の「非行又は犯罪に影響を及ぼした資質上及び環境上問題となる事情を明らかにした上、その事情の改善に寄与するため、その者の処遇に資する適切な指針を示す」。

読みにくい条文ですが、やっていることは一つで、なぜこの子はこうなったのかを専門家が調べて、これからどう扱えばいいかの見立てを書きます。

それが鑑別所の仕事でした。

 

そう読み直すと、「鑑別所に4回」という数字の顔が変わります。

4回罰を受けたのではなく、4回、大人が集まって原因を調べた。

そう書くと、ずいぶん印象がちがってきませんか。

 

ついでに知っておくと得なことも同じ法律に入っていて、少年鑑別所法の第131条が、鑑別所に「少年、保護者その他の者からの相談」に応じる仕事も負わせているんです。

この窓口には法務少年支援センターという名前が付いていて、全国の少年鑑別所がその看板を掲げています。

事件になっていなくても、子どもの様子が気になる保護者が電話やメールで相談できる。

心理の専門家が、無料で話を聞いてくれます。


少年院と刑務所は目的から違う

次が少年院です。

少年法の第24条には「家庭裁判所は」「次に掲げる保護処分をしなければならない」とあって、その三番目が「少年院に送致すること」。

ここで使われている言葉は保護処分で、刑という言葉は一度も出てきません。

少年院に入るのは、刑を言い渡された結果ではないのです。

 

少年院法の第1条には、目的がそのまま書いてあります。

「在院者の人権を尊重しつつ、その特性に応じた適切な矯正教育その他の在院者の健全な育成に資する処遇を行うことにより、在院者の改善更生及び円滑な社会復帰を図ることを目的とする」。

改善更生と、円滑な社会復帰。

法律がいちばん最初の条文で宣言しているのが、これでした。

少年法そのものの第1条も、同じ方向を向いています。

「少年の健全な育成を期し」と始まって、「性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う」と続く。

健全な育成が目的だと、条文のいちばん先頭に書いてありました。

 

少年院法の第4条は少年院を第一種から第五種まで分けていて、心身の状態や年齢、犯罪的傾向の進み具合で行き先が変わります。

おおむね12歳以上23歳未満、という幅まで条文に書いてありました。

同じ「少年院」でも、中身は同じではないんですよね。

 

そして刑務所は、裁判で言い渡された刑を受けに行く場所です。

ここだけは、三つのなかで意味がまったくちがいます。

ちなみに、かつて懲役と禁錮と呼ばれていた刑は、いまは拘禁刑という呼び方にひとつへまとまりました。

ニュースで見かける言葉が急に変わったので、戸惑った人もいるかもしれません。

とはいえ、刑を受けに行く場所であることに変わりはないんですよね。

 

つまり坊の経歴として並んでいた三つは、悪さの深さを測った目盛りではありませんでした。

調べるための場所と、育て直すための場所と、罰を受ける場所。

それぞれ別の目的で用意された、別の建物でした。

同じ列に並べて数え上げると、一本の線に見えます。

でも法律の側は、最初からそんな線を引いていませんでした。


法律は途中で数えるのをやめる

もう一つ、あまり知られていない条文が少年法の第60条です。

「少年のとき犯した罪により刑に処せられてその執行を受け終り、又は執行の免除を受けた者は、人の資格に関する法令の適用については、将来に向つて刑の言渡を受けなかつたものとみなす」

 

人の資格に関する法令というのは、この仕事に就くにはこういう条件がいります、と定めているような決まりのことです。

そういう場面では、少年のころの罪で受けた刑を、なかったものとして扱いなさい。

法律が、自分でそう書いているんです。

 

ただし、これが坊に当てはまるかどうかは、何歳のときのことなのかが公開されていないので、外からは分かりません。

ここで言えるのは、そういう条文が用意されている、というところまでです。

それから、もうひとつ。

同じ少年法の第61条は、家庭裁判所の審判に付された少年について、本人だと推し量れるような記事や写真を新聞などに載せてはいけない、と定めています。

少年のころの事件は、そもそも名前が世の中に出ない仕組み。

 

こうして並べてみると、法律はずっと先に手を引いていました。

罰ではないと名前を分けて、期間を区切って、資格の場面では無かったことにして、名前も外に出さないようにしてあります。

数え続けないと決めているのは、法律の側でした。

 

番組が坊に付けたコピーは「獄中育ちの再出発」で、前半の四文字だけを抜き出すと、こわい経歴の紹介に見えます。

ただ、この一行で長いのは、後ろのほうですよね。

坊が実際に何をしてきたのかは、本人が話した分しか分かりません。

それでも、鑑別所も少年院も刑務所も、出るところまでが決まっている場所でした。

出たあとをどう見るかは、こちら側に残されているところですね。