ベランダからの転落といえば、まだ小さな子の事故。

そう思われがちですが、2026年10月3日の午後1時過ぎ、東京・中央区晴海のタワマン(49階建てのタワーマンション)の23階から転落したのは、9歳の男の子でした。

男の子は病院へ運ばれましたが、その後、亡くなったことが確認されています。

お母さんからの通報は「ベランダ伝いに子どもが移動した」という内容だったそうです。

 

今回は、小学生のベランダ事故をどう防ぐのかを、国の調査や建物の決まりから見ていきたいと思います。


母親が119番で伝えた「ベランダ伝い」

テレビ朝日系(ANN)の報道によると、119番通報は母親からでした。

警視庁は、男の子がベランダを伝って隣の部屋へ移ろうとしていた際に、何らかの理由で転落したとみています。

共同通信によれば、母親は当時、部屋の中にいたとのこと。

男の子は駐車場の屋根の部分に落ちたと報じられていて、警視庁の月島署が、当時の状況をくわしく調べているところです。

一方で、まだ分かっていないこともたくさん残っています。

  • なぜ隣の部屋へ移ろうとしたのか
  • 隣の部屋は誰の部屋だったのか
  • ベランダのどこをどう通ったのか

このあたりは、いまのところどの報道にも出ていない部分です。

 

ネットには、自分の子ども時代を思い出して、紙一重だったと振り返る声があります。

親の目が届いていなかったのでは、という声も一部に出ていました。

ただ、大人が家にいるときにも転落は起きていることが、国の調査で分かっています。

 

そして目立ったのが、「また起きた」という声です。

2026年9月15日にも、東京都北区赤羽台の集合住宅の11階から、5歳の男の子が転落して亡くなっています。

前の事故の記憶もまだ新しいうちに、また子どもの転落でした。

条例で禁止しては、という案まで出てくるほど、「事故が絶えない」という感覚は強いようです。

ただ、今回の件には、多くの転落事故とは違う点がひとつあります。

男の子が9歳だったことです。


国の転落調査は6歳未満が対象だった

子どもの転落事故については、消費者庁に置かれている消費者安全調査委員会が、住宅の窓とベランダからの事故を調べてきました。

その途中経過の報告には、1993年から2023年までの31年間で、9歳以下の子どもが住宅から転落して亡くなった事故が170件あったと書かれています。

大手報道機関の記事から委員会が拾い上げた数なので、すべてを網羅したものではないそうです。

転落した場所は、ベランダが103件でいちばん多く、次が窓の47件。

年齢別に見ると、3歳が50件でもっとも多く、5歳を過ぎると急に少なくなって、9歳は7件でした。

そのうえで委員会は、調査の対象を6歳未満の未就学児に絞っています。

 

2025年6月24日にまとまった報告書も、6歳未満の転落死亡事故134件を検証したものです。

数の多い年齢から手を打つのは、理にかなったやり方だと思います。

ただ、その結果として、世の中に出回っている転落対策は、幼い子ども向けのものがほとんどになりました。

たとえば、政府広報の啓発動画が挙げるポイントは、次のとおりです。

  • 窓に補助錠やストッパーを付ける
  • 窓の近くやベランダに、足場になる物を置かない
  • ベランダの室外機を手すりから60センチ以上離す(離せない場合は柵で囲う)

どれも、小さな子どもが椅子や室外機をよじ登って、うっかり手すりを越えてしまうのを防ぐための対策。

東京消防庁のまとめも対象は5歳以下のこどもで、2021年から2025年までの5年間に51人が、窓やベランダからの墜落で救急搬送されているとのこと。

月別では5月がいちばん多く、次が10月だといいます。

 

では、9歳の子どもにも、この3つのポイントで足りるのでしょうか。

小児科医の今西洋介さんは、事故の直後にこう投稿していました。

9歳くらいになると、足場がなくても手すりに手が届き、自分で行き先を決めて動けるようにもなるので、足場をなくす対策だけでは届きにくいところがあるんです。

うっかり登ってしまう幼い子のための対策と、自分で判断して動ける年齢の子の対策は、そもそも別のものなんですよね。


手すりは2階も49階も同じ1.1メートル

ネットでは「手すりが低すぎるのでは」という声も出ていました。

実は、建築基準法施行令の第126条には、こう書かれています。

「屋上広場又は二階以上の階にあるバルコニーその他これに類するものの周囲には、安全上必要な高さが一・一メートル以上の手すり壁、さく又は金網を設けなければならない。」

決まっているのは「2階以上」と「1.1メートル以上」の2つだけ。

2階のベランダでも、49階のベランダでも、条文が求める高さは同じなんです。

もちろんこれは最低限の数字で、建物によってはもっと高いことも。

 

赤羽台の事故でも手すりは120センチほどありましたが、それでも5歳の子が越えてしまったと報じられています。

赤羽台の事故のあと、建築の専門家からは、高さとは別の点を指摘する声も上がりました。

足がかかる横向きの棒があると、子どもはそこを足場にしてしまう、という指摘です。

では、9歳の子と手すりを並べるとどうなるか。

文部科学省の学校保健統計によると、2024年度の9歳男子の平均身長は134.0センチでした。

1.1メートルの手すりは、9歳の平均的な背丈より低く、上の縁に手がかかる高さです。

手すりは本来、寄りかかったり、つまずいたりしたときに体を受け止めるためのもの。

自分の意思で越えようとする人を止めるようには、もともと作られていません。

 

海外には、決まりそのものを子どもに合わせている例もあります。

消費者安全調査委員会の途中経過の報告によると、ニューヨーク市では子どもが住むアパートに窓ガードを付けることを法令で義務にしていて、それで転落事故が減ったという情報を得たそうです。

建物のオーナーは、子どもがいるかどうかを毎年確かめなければならない、とも書かれていました。

日本の手すりの決まりは、住んでいる人の年齢を問いません。


隣へ逃げる道は板の向こうにある

マンションのベランダには、隣の家とのあいだに薄い板が立っていますよね。

「隔て板」や「仕切り板」と呼ばれるこの板には、消防の決まりが関わっています。

2005年の消防庁告示第3号(国の消防庁が出している決まり)は、一定の共同住宅について、隣のベランダとのあいだの板を「容易に開放し、除去し、又は破壊することができ」るものにするよう求めました。

しかも、板には3つのことを表示するよう定めています。

  • そのベランダが避難経路として使われること
  • 板を開けたり、外したり、壊したりする方法
  • 板の近くに、避難の邪魔になる物を置かないこと

火事のときに隣のベランダへ逃げる道は、もともと用意されているんですね。

板を破って、手すりの内側を通っていく道です。

板が火事のときの逃げ道だということは、板の前に物を置いてふさいだ写真が話題になったときにも、こんな形で語られていました。

ただし、すべての建物にこの板があるわけではなく、ベランダの床のハッチから避難はしごで下りる形の建物もあります。

自分の家がどちらなのかは、ベランダに出ればすぐに分かるはず。

 

そして、板の向こうの道は火事のときだけのもの。

ふだん隣へ行く道は、ベランダのどこにもありません。

大人には当たり前のこのことを、子どもに話す機会はあまり多くないはず。


小学生と今日話しておきたい3つのこと

幼い子の対策は「物」が中心でしたが、小学生の対策は「話しておくこと」が中心になります。

ひとつ目は、手すりの外側は、どんな理由があっても通り道ではない、と場所を指さして伝えることです。

「危ないから乗らないで」だけでは、どこまでが危ないのかが子どもには伝わりにくいもの。

ベランダに一緒に出て、手すりの外側を指さしながら話せば、ずっと具体的になります。

手すりに腰かける、身を乗り出して下をのぞく、といった遊びも同じ「外側」に入ると、あわせて伝えておくといいかもしれません。

ふたつ目は、隣に用があるときは大人を呼ぶ、と約束しておくこと。

ボールや洗濯物が隣のベランダへ飛んでいったとき、ベランダに閉め出されてしまったとき。

子どもは、自分でなんとかしようと考えます。

そういう場面になったら、大人を呼ぶか、玄関から隣の家を訪ねる。

この順番を、前もって決めておくと安心でしょう。

 

みっつ目は、隔て板の表示を一緒に読むことです。

板を破るのは火事のときだけで、そのときも手すりの内側を通る。

読みながら話せば、隣への道がどこにあるのかを、子どもが自分の目で確かめられます。

あわせて、板の前に物を置いていないかも見ておきたいところ。

弟や妹がいる家では、政府広報のポイントもそのまま使えます。

室外機や植木鉢の位置を、もう一度見直してみてください。

 

消費者安全調査委員会は、途中経過の報告の中で、事故が起きたあとに保護者を責めるのではなく、対策を広めていく社会づくりも検討が必要だと書いています。

同じ報告によると、6歳未満の子がベランダから転落した91件のうち、少なくとも31件は大人が家にいるときに起きていました。

今回も、お母さんを責める方向へ話が向かわないでほしいと思います。

家の中にいても、子どもがベランダで何をしているかを一瞬一瞬見ていられないのは、どの家でも同じです。

だからこそ、物の対策と話しておく対策の両方が要るんですよね。

今回の件は、警視庁がいまも当時の状況を調べています。

なぜ隣の部屋へ移ろうとしたのか、その一点はまだ報じられていません。

そこが分かるまでは、外から見えているものだけで、誰かの落ち度を決めてしまわずにいたいところ。

9歳という年齢を思うと、胸が詰まる思いです。

亡くなられた男の子のご冥福をお祈りいたします。

 

この記事で参考にした情報

事故の経緯は、次の報道で確かめました。

  • テレビ朝日系(ANN)「高層マンション23階から転落した9歳男児が死亡 東京・中央区」(2026年10月3日配信)
  • 共同通信「タワマン23階から男児転落 心肺停止、東京・晴海」(2026年10月3日配信)
  • FNNプライムオンライン(2026年10月3日配信)

決まりや数字は、次の資料にもとづいています。

  • 消費者安全調査委員会「住宅の窓及びベランダからの子どもの転落事故に係る事故等原因調査について(経過報告)」(2024年6月20日)
  • 消費者安全調査委員会「住宅の窓及びベランダからの子どもの転落事故」事故等原因調査報告書(2025年6月24日)
  • こども家庭庁「こどもの転落事故防止に係る取組について」(政府広報の啓発動画の3つのポイント)
  • 東京消防庁「こどもが住宅等の窓・ベランダから墜落する事故に注意!」
  • 建築基準法施行令 第126条
  • 平成17年消防庁告示第3号「特定共同住宅等の構造類型を定める件」
  • 文部科学省「令和6年度学校保健統計」